王国最強の元暗殺者
4.獣人
「……まじかよ」
俺は木の上から眺めていた光景に唖然とする。まさか、立ち向かうどころか、奴隷を1人置いて全員逃げるとは。奴隷の少女はウルフたちを引きつけるように森の中へと走っていく。
茶色の耳をピクピクと動かして何とかウルフのいない方へと逃げようとする少女。彼女は狐の獣人か。エルフ族同様この大陸では珍しくない種族だ。
他の種族に比べて魔力の保有量は少ないのだが、他を圧倒する身体能力、それを支える獣人族に伝わる『氣道』という技。精神力の魔法と対となる生命力の氣道。
魔法は魔力を使って発動する事が出来るが、魔力の量、素質、精神の強さによって左右されるのに対して、氣道は誰もが持っている生命力を使っているため、基本さえ覚えれば誰でも扱う事が出来る技だ。その分、使い過ぎると命が危険に晒される事もあるのだが。
ウルフから逃げる少女を見ていると、奴隷紋で力を制約されているのか、それとも、初めから氣道について知らないのか。力を使っているそぶりもなく、あれでは普通の人間と変わらない。
そんな少女を見ていたら、ウルフたちの動きに変化が現れる。ただ追いかけるだけだったウルフたちが、少しずつ少女を囲うように走っている。気配を察知するのに敏感な獣人の少女は、ウルフのいない方、いない方へと逃げる。
そして一際大きなウルフと少女が一直線の位置に立った時、リーダー格のウルフが吠える。それと同時にウルフの口から放たれる空気の塊。あいつ、魔法が使えるのか。
空気の塊を背中に受ける少女。地面を何度も転がりようやく止まったところに、ウルフがのしかかる。少女は逃げようと動くが、2メートル近くある巨体に乗られたら身動きなど出来ないだろう。
そして少女は大きく口を開けるウルフを見てしまった。自身の死を体の芯まで感じてしまった少女はもう震えることしか出来なかった。
「た、たす……助けて……誰か助けてっ!」
周りに助けてくれる人を見つけたわけではない。ただ、叫ばずにはいられなかったのだろう。俺は腰にあるナイフを取り出す。ナイフに軽く魔力を纏わせ、ウルフへと投擲。寸分違わずウルフの右目へと刺さる。
それと同時に様子を見るために登っていた木からウルフに向かって飛び降りる。ウルフの目の前に飛び降りた俺はそのまま右足で回し蹴りを放つ。
痛みに怯んでいるウルフは、気配を消した俺が目の前に現れても気が付かず、俺の足がモロにウルフの顔へと入った。
ウルフは「ギャウン!?」と鳴きながら吹き飛んでいき、木にぶつかった。突然吹き飛ばされたリーダーを見て狼狽えるウルフたち。混乱の中、俺は消していた気配を放つ。
突然現れた俺に警戒するウルフたち。数は……15体。何体かは逃げた奴らを追って森を出たか。だけど少ない数だ。返り討ちにあったようだ。
「グルルゥ」
威嚇しながら少しずつ近づいてくるウルフたち。後ろにはぼーっと俺を見る狐少女。さてと、どうするかな。倒しても良いんだが、確かギルドで依頼が出されているんだよな。それにフューリさんの口振りだと既に誰かが受注しているような感じだった。
ここでウルフたちを倒しても良いが、依頼を取るのはなぁ。そう思っていたら、ウルフたちは俺を囲むようにするだけで、一切襲ってこない事に気が付いた。
そして、俺の目の前で威嚇するリーダーのウルフ。成る程、ここで一度部下たちに力を見せておこうとでも考えているのかな。
歯をむき出しにして怒りを露わにするリーダーのウルフ。この森で起こっているウルフたちの問題はこいつが原因なのは明らかだ。
逃げ場が無いように囲むウルフたち。そしてリーダーのウルフは先程少女に放った時と同じ様に吠える。同時に放たれた空気の塊。今回は何かわかった少女が「あっ!」と叫ぶが、俺は無視して右手で払う。
払われた空気の塊は、俺たちを囲む様にいたウルフへとぶつかり地面に転がる。それを見る間も無く、飛び出すリーダーのウルフ。
鋭く伸びた爪がある右前足で俺を切り裂こうと振りかぶってきた。後ろで少女が悲鳴をあげるが、俺はその場から移動する。ウルフが気が付かない程度の速さで背に移動し、ウルフの首元目掛けて手刀で刺す。
俺の右手は殆ど抵抗なく首へと突き刺さり、そのまま地面へと叩きつける。首の骨が折れ、喉まで突き破られたたリーダーのウルフは、ピクリとも動かなくなった。
「……う、嘘……た、たった、一撃で……」
何かうわ言のように呟く少女だが、俺は周りを見る。周りのウルフたちはリーダーのウルフがあっさりやられたのを見て、逃げて行ってしまった。まあ、後はウルフ討伐の依頼を受けた冒険者たちがどうにかしてくれるだろう。
俺は未だに呆然としている狐少女に近付きタオルを渡す。俺が渡した意味が分かった少女は顔を真っ赤にして、慌てて濡れた場所を拭く。そして落ち着くと
「た、助けて頂きありがとうございます!」
「偶々だ。ただ、今見た事は黙っておいて欲しい。街に戻っても、逃げ果せたとだけ話すんだ」
「えっ? でも、あの強さなら話した方が……」
「あまり目立ちたくないんだ……あいつらにバレると厄介だからな」
「えっ?」
「いや、何でもない。とにかくさっきの事は黙っていてくれ」
俺が真剣に言うと狐少女は頷いてくれた。万が一彼女が話してもその時には俺はこの街にはいないから大丈夫だろう。
それから、俺と狐少女は1時間かけて街へと戻って来た。ただ、行きと違っていたのが、街の入り口には冒険者が集まっていた事だ。その中にはグレイブの姿もあった。
俺たちが街へ近づくと、冒険者たちが俺たちに気がつく。当然グレイブもだ。
「おっ! タスク、無事だったか!」
「グレイブ、何かあったのか?」
「ああ、1時間ほど前に貴族の坊ちゃんたちが森から慌てて帰ってきてよ。主級のウルフが出たって言うんで、急だが討伐隊が組まれたんだよ」
……あの1番初めに逃げた奴ら貴族だったのか。グレイブは俺にそれだけ言うと、他の冒険者を連れて森へと向かって行った。残されたのは俺と狐少女と門番だけ。
さて、この狐少女をどうしようか。どうしようか迷っていたら、街の中から現れた3人の影。それを見た狐少女はビクッと震える。現れたのは当然、一目散に逃げ出した貴族たちだ。
「何でお前生きてんだよ!」
少女の主人だと思われる男は生きていた事を喜ばずに、少女の頰を叩く。少女はその場で倒れるが男はそれで興味を無くしたのか、3人で話している。
内容を聞くと、生きて帰って来るかどうか賭けをしていたようだ。そこで、主人の男は死ぬ方に賭けていて大損したようだ。
男は怒りのまま少女の首元を掴み引きずるようにして街の中へと入って行く。狐少女は苦しそうにしながらも、俺の方を見て軽くだが頭を下げて来た。
さて、急だが夜に予定が出来たから、それまでは冒険者ギルドで依頼達成の報告と、飯でも食べて時間を潰そうか。あまり首を突っ込む真似はしたくは無いんだけどな。
俺は木の上から眺めていた光景に唖然とする。まさか、立ち向かうどころか、奴隷を1人置いて全員逃げるとは。奴隷の少女はウルフたちを引きつけるように森の中へと走っていく。
茶色の耳をピクピクと動かして何とかウルフのいない方へと逃げようとする少女。彼女は狐の獣人か。エルフ族同様この大陸では珍しくない種族だ。
他の種族に比べて魔力の保有量は少ないのだが、他を圧倒する身体能力、それを支える獣人族に伝わる『氣道』という技。精神力の魔法と対となる生命力の氣道。
魔法は魔力を使って発動する事が出来るが、魔力の量、素質、精神の強さによって左右されるのに対して、氣道は誰もが持っている生命力を使っているため、基本さえ覚えれば誰でも扱う事が出来る技だ。その分、使い過ぎると命が危険に晒される事もあるのだが。
ウルフから逃げる少女を見ていると、奴隷紋で力を制約されているのか、それとも、初めから氣道について知らないのか。力を使っているそぶりもなく、あれでは普通の人間と変わらない。
そんな少女を見ていたら、ウルフたちの動きに変化が現れる。ただ追いかけるだけだったウルフたちが、少しずつ少女を囲うように走っている。気配を察知するのに敏感な獣人の少女は、ウルフのいない方、いない方へと逃げる。
そして一際大きなウルフと少女が一直線の位置に立った時、リーダー格のウルフが吠える。それと同時にウルフの口から放たれる空気の塊。あいつ、魔法が使えるのか。
空気の塊を背中に受ける少女。地面を何度も転がりようやく止まったところに、ウルフがのしかかる。少女は逃げようと動くが、2メートル近くある巨体に乗られたら身動きなど出来ないだろう。
そして少女は大きく口を開けるウルフを見てしまった。自身の死を体の芯まで感じてしまった少女はもう震えることしか出来なかった。
「た、たす……助けて……誰か助けてっ!」
周りに助けてくれる人を見つけたわけではない。ただ、叫ばずにはいられなかったのだろう。俺は腰にあるナイフを取り出す。ナイフに軽く魔力を纏わせ、ウルフへと投擲。寸分違わずウルフの右目へと刺さる。
それと同時に様子を見るために登っていた木からウルフに向かって飛び降りる。ウルフの目の前に飛び降りた俺はそのまま右足で回し蹴りを放つ。
痛みに怯んでいるウルフは、気配を消した俺が目の前に現れても気が付かず、俺の足がモロにウルフの顔へと入った。
ウルフは「ギャウン!?」と鳴きながら吹き飛んでいき、木にぶつかった。突然吹き飛ばされたリーダーを見て狼狽えるウルフたち。混乱の中、俺は消していた気配を放つ。
突然現れた俺に警戒するウルフたち。数は……15体。何体かは逃げた奴らを追って森を出たか。だけど少ない数だ。返り討ちにあったようだ。
「グルルゥ」
威嚇しながら少しずつ近づいてくるウルフたち。後ろにはぼーっと俺を見る狐少女。さてと、どうするかな。倒しても良いんだが、確かギルドで依頼が出されているんだよな。それにフューリさんの口振りだと既に誰かが受注しているような感じだった。
ここでウルフたちを倒しても良いが、依頼を取るのはなぁ。そう思っていたら、ウルフたちは俺を囲むようにするだけで、一切襲ってこない事に気が付いた。
そして、俺の目の前で威嚇するリーダーのウルフ。成る程、ここで一度部下たちに力を見せておこうとでも考えているのかな。
歯をむき出しにして怒りを露わにするリーダーのウルフ。この森で起こっているウルフたちの問題はこいつが原因なのは明らかだ。
逃げ場が無いように囲むウルフたち。そしてリーダーのウルフは先程少女に放った時と同じ様に吠える。同時に放たれた空気の塊。今回は何かわかった少女が「あっ!」と叫ぶが、俺は無視して右手で払う。
払われた空気の塊は、俺たちを囲む様にいたウルフへとぶつかり地面に転がる。それを見る間も無く、飛び出すリーダーのウルフ。
鋭く伸びた爪がある右前足で俺を切り裂こうと振りかぶってきた。後ろで少女が悲鳴をあげるが、俺はその場から移動する。ウルフが気が付かない程度の速さで背に移動し、ウルフの首元目掛けて手刀で刺す。
俺の右手は殆ど抵抗なく首へと突き刺さり、そのまま地面へと叩きつける。首の骨が折れ、喉まで突き破られたたリーダーのウルフは、ピクリとも動かなくなった。
「……う、嘘……た、たった、一撃で……」
何かうわ言のように呟く少女だが、俺は周りを見る。周りのウルフたちはリーダーのウルフがあっさりやられたのを見て、逃げて行ってしまった。まあ、後はウルフ討伐の依頼を受けた冒険者たちがどうにかしてくれるだろう。
俺は未だに呆然としている狐少女に近付きタオルを渡す。俺が渡した意味が分かった少女は顔を真っ赤にして、慌てて濡れた場所を拭く。そして落ち着くと
「た、助けて頂きありがとうございます!」
「偶々だ。ただ、今見た事は黙っておいて欲しい。街に戻っても、逃げ果せたとだけ話すんだ」
「えっ? でも、あの強さなら話した方が……」
「あまり目立ちたくないんだ……あいつらにバレると厄介だからな」
「えっ?」
「いや、何でもない。とにかくさっきの事は黙っていてくれ」
俺が真剣に言うと狐少女は頷いてくれた。万が一彼女が話してもその時には俺はこの街にはいないから大丈夫だろう。
それから、俺と狐少女は1時間かけて街へと戻って来た。ただ、行きと違っていたのが、街の入り口には冒険者が集まっていた事だ。その中にはグレイブの姿もあった。
俺たちが街へ近づくと、冒険者たちが俺たちに気がつく。当然グレイブもだ。
「おっ! タスク、無事だったか!」
「グレイブ、何かあったのか?」
「ああ、1時間ほど前に貴族の坊ちゃんたちが森から慌てて帰ってきてよ。主級のウルフが出たって言うんで、急だが討伐隊が組まれたんだよ」
……あの1番初めに逃げた奴ら貴族だったのか。グレイブは俺にそれだけ言うと、他の冒険者を連れて森へと向かって行った。残されたのは俺と狐少女と門番だけ。
さて、この狐少女をどうしようか。どうしようか迷っていたら、街の中から現れた3人の影。それを見た狐少女はビクッと震える。現れたのは当然、一目散に逃げ出した貴族たちだ。
「何でお前生きてんだよ!」
少女の主人だと思われる男は生きていた事を喜ばずに、少女の頰を叩く。少女はその場で倒れるが男はそれで興味を無くしたのか、3人で話している。
内容を聞くと、生きて帰って来るかどうか賭けをしていたようだ。そこで、主人の男は死ぬ方に賭けていて大損したようだ。
男は怒りのまま少女の首元を掴み引きずるようにして街の中へと入って行く。狐少女は苦しそうにしながらも、俺の方を見て軽くだが頭を下げて来た。
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