妻に出て行かれた男、とある少女と出会う

やま

18

「シオンから離れろぉぉっ!」


 私は覆面をした男たちとその奥で壁に背を預けながら怯えているシオンを見た瞬間、剣を抜き飛び出していた。


 体を魔力で強化してシオンの前に立つ男に向かって剣を振り下ろす。覆面の男は、慌てる事なく手に持つ剣で逸らされる。男はそのまま剣を振り上げて下ろしてきたけど、体を無理矢理捻って、男の剣を防ぐ。


 ただ、体勢が悪い状態で受けたため、踏ん張り切れずに、覆面の男に剣を振り払われ吹き飛ばされてしまった。


 床をゴロゴロと転がり体勢を立て直す私。やっぱり、目の前の男には太刀打ちが出来ない。でも、私の目的は目の前の男を倒す事じゃない。この場からシオンを連れて逃げる事だ。


 そして、私の計画通りシオンの方へと転がる事が出来た。シオンは私が怪我していないか涙目で確かめてくるけど、ここからが本番。自分の実力以上ある目の前の男たちからどうやって逃げるか。


「……おい、この子供達もか?」


「ああ、この屋敷に関係ある者は全員だ」


「……いくら奴に恨みがあるからと言って、まだこれからの子供を殺すのはどうなのだ? これじゃあ、奴と同じ事をやっているんじゃないのか?」


「お前、今更何を言ってやがる! 奴に……アルベルトの野郎に何されたかお前は忘れてんのか、あぁっ?」


 ここからどのようにして逃げようか考えていると、突然、前に立つ覆面を付けた男2人が言い合いを始めた。


 アルベルトっていうのは伯爵の事だよね? 覆面の男たちの話からして、伯爵に何かされたから、その復讐のために来たみたい。その言葉で思い出したのが、お母様の日記だった。あの日記にお母様がされた事のように、この人たちも何かを?


「ちっ、なら、そこで見ていろ。今更引けないんだよ。代わりに俺がこいつらを殺す! アルベルトに無理矢理店を壊されて、借金を背負わされて、病に倒れた親父たちのためにも!」


 もう1人の覆面の男は普通の剣の半分ほどの長さしか無い小剣を2本抜き、両手に持つ。そして、向かって来た。


「はぁぁっ!」


 両手に持つ2本の剣を手加減する事なく振り下ろしてくる男。私は後ろにいるシオンの腕を掴んで、レリックの方へと投げる。普通ならそんな事は出来ないのだけど、今は必死だったから出来ちゃった。


 レリックの方へと転がるシオンを横目に、私は避けるのに間に合わなくなったので、振り下ろされる小剣を剣で防ぐ。当然力で勝てるわけも無く、壁に吹き飛ばされた。


 背中を壁にぶつけた勢いで、口から空気が漏れ出して、咳き込んでしまうけど、痛みで涙が溢れる視界から、突き刺そうと迫る剣が見えた。


 私は咄嗟に首を動かすと、耳に痛みが走る。小剣が掠ったのだ。体に広がる痛みと、目の前に振り上げられる小剣を見て、ゾクっと背筋が凍るような震えが体に走る。


「させるかっ!」


 でも、そこにレリックが来てくれた。私に向けて振り下ろしてくる小剣と私の間に剣を突き入れて、弾き返してくれた。目の前に剣が通り過ぎたので、驚いたけど、今はそれよりも動かないと。


 レリックが来た事によって距離を取る男。レリックは牽制するように男へと詰め寄り、男と打ち合う。レリックは確かに私よりも剣術が上手くて強いけど、それは私たちの年齢の中で、大人も合わせると、勝てる確率は少ない。


 今も、勢いで押しているけど、レリックの方が焦っているように見える。私じゃあ力不足かもしれないけど……それでも行かなきゃ!


「やぁぁぁ!」


 私は痛む体に鞭を打ち、立ち上がってレリックの右の脇から男に向けて剣を突き放つ。男は一瞬目を見開くけど、すぐに目を細めて、左手に持つ小剣を振り、弾かれる。


 でも、一瞬男の気を引く事が出来たおかげで、レリックが下から振り上げた剣が男の右手を掠り、男はその痛みに右手に持っていた小剣を落とした。そこにレリックが体をぶつけて男は体勢を崩す。


 男の隙を見逃す事なく、私も男の左脇腹へと剣を振り上げた。そして、それに合わせるかのようにレリックも剣を突き出す。男は一瞬迷うけど、レリックの剣を右手で掴み、私の剣は脇腹で受けた。


 手に肉を切る感触が伝わってきて思わず眉を細めてしまうけど、今はそんな事を考えている暇はない。男は剣を掴む右手の痛みと、脇腹に刺す剣の痛みに顔を歪ませるけど、左手の小剣を振り下ろそうとしているからだ。


 ここは無理する必要は無いと思った私とレリックは、剣を話してシオンの方へと下がる。男の小剣は空を切り、そのままその場に膝をついた。私の剣が思ったより深く入ったようで、血が床に溜まるほど流れている。


「……はぁ、はぁ……ぐ、そ……」


 だけど、男はドロドロとした暗い目で睨みつけたままこちらへと歩いてくる。うそっ!? 脇腹の剣のせいで血が止まらないほど深く切ったはずなのに、どうして……。


 そして、男は脇腹の私の剣を抜いて、血で濡れた両手で力強く握って走って来た。私はドロドロと暗く濁った目で睨まれて動けなかった。初めて向けられる目に戸惑ってしまい。


「レイア様!!」


 はっ、とした時には既に剣を振り上げる男が迫っていた。私は振り下ろされる剣を見ていることしか出来ずに、そして……


「……あ」


 ドンっと押される体。そして、目の前には背中を切られるシオンの姿があった。

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