妻に出て行かれた男、とある少女と出会う
17
「……これで良いかな?」
私は手に持つ剣を光に当てて確認する。それを前に座るレリックにも確認してもらう。今やっているのは剣の手入れで、上手く手入れが出来ているかレリックにも確認してもらっているのだ。
私も1人で出来るようにはなりたいところだけど、まだ剣を持って1年も経っていない。そんな私が剣を手入れして大丈夫だと思っても、長年父親に鍛えられたレリックが見るとまだまだかもしれないので、確認をしてもらっているのだ。
レイギス兄さんが亡くなってから2週間が経った今日だけど、今はまだ屋敷から出る事が出来ない。屋敷の中の雰囲気は少し落ち着いてきたけど、それでも犯人探しは続いていて、更にはシーリス夫人が倒れて、伯爵も酒に溺れていてと、今までにないくらい暗い雰囲気だ。
そのため、屋敷の中で出来る事は限られているので、その内の1つである防具の点検を1日かけてやっていたのだ。
本当はそんなにかからないのだけど、また自由兵を再開したらやれる時間が限られてくるので、出来る時にはじっくりやっておこうという事になったのだ。外に出れば命を預ける大切な物。こんなところで妥協して死にたくはないものね。
「さすが、レイア様ですね。何度か教えただけで、十分ほど手入れがされていますよ。これなら十分です」
私が手入れした剣をレリックがじっくりと眺める事数分。顔を上げたレリックは笑みを浮かべており、私の手入れを褒めてくれた。
シオンとレリックには何でも思った事は主従関係無くはっきりと言うように日頃からお願いしているから、レリックが褒めてくれたのは本心からだろう。横で聞いていたシオンも笑顔で拍手してくれる。
「でも、流石レイア様です! 剣術も魔法もついこの前までは出来なかったのに、今となってはどちらも普通に自由兵をしていくのであれば十分なほどです」
後は経験だけですね! 微笑みながら話してくれるシオン。確かに剣を初めて持った頃、初めて魔法を習った頃に比べたらかなり上達したとは思う。
だけど、あの人の大きな背中を一度見てしまうと、まだまだなのだと自分の中では感じてしまう。私の目標はあの人の隣で一緒に自由兵をやる事だから。
「でも、その分勉学も頑張って欲しいところですね、レイア様」
褒められて少し気分が上がっているところに、レリックがそんな事を言ってくる。レリックの言葉に思わず顔を顰めてしまう。
勉学は私なんかに先生なんかつけて貰える訳もないからシオンやレリックから習っている。私は興味があるものは頑張って覚えられるのだけど、興味が無いと……ちょっとね。
レリックは勉学も剣術や魔法のように興味を持って欲しいと思っているのだ。
「……もちろんわかっているわよ?」
「本当ですか? それなら、明日は算学の勉強をしても大丈夫ですよね?」
うぅっ……算学かぁ。私あまり計算とか得意じゃないんだよなぁ。簡単な計算は買い物とかで必要になってくるから頑張って覚えたけど、あまり桁数が増えるとちょっと……。
「あはは、レリックも程々にして上げて下さいね。さあ、レイア様、お湯を持って来ますので待っていて下さいね」
シオンはそう言いながら部屋を出て行く。レリックも、今から私が体を拭くからか、私の防具を片付けて行く。私も自分の物なので手伝っていると、外からドンッ! と、大きな音がした。
突然屋敷に響いた音に、私とレリックも顔を見合わせる。そして、その音に続くように聞こえてくる声と、鉄がぶつかり合うような音が聞こえて来た。
「……な、何が起きているの?」
「……わかりませんが、あまり良い事ではなさそうですね」
突然騒がしくなる屋敷にレリックも警戒を露わにする……あっ、今、シオンが外に!
「レリック、シオンを探しに行きましょう! もしかしたら巻き込まれているかもしれないわ!」
「……わかりました。でも、私の後ろから出ないで下さいね」
私はレリックの言葉に頷く。私が前に出て足を引っ張るよりそっちの方が良いものね。そのまま私は仕舞おうとして手に持っていた防具を身に付けて、剣をいつでも抜けるように持つ。レリックも手入れをするために剣を持って来ていたので、私と同じようにいつでも抜けるように持っていた。
そして、レリックを先頭に部屋を出る私たち。廊下に出ると、屋敷の中で争っているのか、物が壊れたりぶつかったりする音が聞こえて来て、誰かの叫び声が木霊する。その音を聞くと余計に不安が募る。
レイギス兄さんを除く家族の人たちとは比べ物にならないくらい大切な子。お母様がいなくなった今となっては、レリックとシオンは唯一の大切な家族だと思っている。そのシオンの身に何かあったらと思うと……。
「お湯を取りに行くと言っていたので、浴場に行っているでしょう」
「そうね。早くシオンを見つけて逃げましょう」
それから私たちは辺りを警戒しながら浴場へと向かう。その途中では、使用人として働いている侍女たちなどが我先にと逃げて行く。私たちの事なんて構っていられない、というように。
皆が皆必死な形相で逃げているのを見ると、やっぱり何かあったのだと実感してしまう。それと同時に私への興味の無さも実感してしまう。
だからこそ、私の事をいつも助けてくれて、側にいてくれるシオンを助けたい。自分の命に代えても。
それから浴場の方に逃げる使用人たちの波に逆らいながら向かっていると、浴場のある場所からパリィン、と割れる音がした。私とレリックが慌てて浴場へと入ると、中に顔を覆面で隠した男が2人立っていた。
そして、浴場の奥には壁に背を預けて震えるシオンの姿があった。その姿を見た瞬間、私は剣を抜いて向かっていた。大切な家族を守るため。
私は手に持つ剣を光に当てて確認する。それを前に座るレリックにも確認してもらう。今やっているのは剣の手入れで、上手く手入れが出来ているかレリックにも確認してもらっているのだ。
私も1人で出来るようにはなりたいところだけど、まだ剣を持って1年も経っていない。そんな私が剣を手入れして大丈夫だと思っても、長年父親に鍛えられたレリックが見るとまだまだかもしれないので、確認をしてもらっているのだ。
レイギス兄さんが亡くなってから2週間が経った今日だけど、今はまだ屋敷から出る事が出来ない。屋敷の中の雰囲気は少し落ち着いてきたけど、それでも犯人探しは続いていて、更にはシーリス夫人が倒れて、伯爵も酒に溺れていてと、今までにないくらい暗い雰囲気だ。
そのため、屋敷の中で出来る事は限られているので、その内の1つである防具の点検を1日かけてやっていたのだ。
本当はそんなにかからないのだけど、また自由兵を再開したらやれる時間が限られてくるので、出来る時にはじっくりやっておこうという事になったのだ。外に出れば命を預ける大切な物。こんなところで妥協して死にたくはないものね。
「さすが、レイア様ですね。何度か教えただけで、十分ほど手入れがされていますよ。これなら十分です」
私が手入れした剣をレリックがじっくりと眺める事数分。顔を上げたレリックは笑みを浮かべており、私の手入れを褒めてくれた。
シオンとレリックには何でも思った事は主従関係無くはっきりと言うように日頃からお願いしているから、レリックが褒めてくれたのは本心からだろう。横で聞いていたシオンも笑顔で拍手してくれる。
「でも、流石レイア様です! 剣術も魔法もついこの前までは出来なかったのに、今となってはどちらも普通に自由兵をしていくのであれば十分なほどです」
後は経験だけですね! 微笑みながら話してくれるシオン。確かに剣を初めて持った頃、初めて魔法を習った頃に比べたらかなり上達したとは思う。
だけど、あの人の大きな背中を一度見てしまうと、まだまだなのだと自分の中では感じてしまう。私の目標はあの人の隣で一緒に自由兵をやる事だから。
「でも、その分勉学も頑張って欲しいところですね、レイア様」
褒められて少し気分が上がっているところに、レリックがそんな事を言ってくる。レリックの言葉に思わず顔を顰めてしまう。
勉学は私なんかに先生なんかつけて貰える訳もないからシオンやレリックから習っている。私は興味があるものは頑張って覚えられるのだけど、興味が無いと……ちょっとね。
レリックは勉学も剣術や魔法のように興味を持って欲しいと思っているのだ。
「……もちろんわかっているわよ?」
「本当ですか? それなら、明日は算学の勉強をしても大丈夫ですよね?」
うぅっ……算学かぁ。私あまり計算とか得意じゃないんだよなぁ。簡単な計算は買い物とかで必要になってくるから頑張って覚えたけど、あまり桁数が増えるとちょっと……。
「あはは、レリックも程々にして上げて下さいね。さあ、レイア様、お湯を持って来ますので待っていて下さいね」
シオンはそう言いながら部屋を出て行く。レリックも、今から私が体を拭くからか、私の防具を片付けて行く。私も自分の物なので手伝っていると、外からドンッ! と、大きな音がした。
突然屋敷に響いた音に、私とレリックも顔を見合わせる。そして、その音に続くように聞こえてくる声と、鉄がぶつかり合うような音が聞こえて来た。
「……な、何が起きているの?」
「……わかりませんが、あまり良い事ではなさそうですね」
突然騒がしくなる屋敷にレリックも警戒を露わにする……あっ、今、シオンが外に!
「レリック、シオンを探しに行きましょう! もしかしたら巻き込まれているかもしれないわ!」
「……わかりました。でも、私の後ろから出ないで下さいね」
私はレリックの言葉に頷く。私が前に出て足を引っ張るよりそっちの方が良いものね。そのまま私は仕舞おうとして手に持っていた防具を身に付けて、剣をいつでも抜けるように持つ。レリックも手入れをするために剣を持って来ていたので、私と同じようにいつでも抜けるように持っていた。
そして、レリックを先頭に部屋を出る私たち。廊下に出ると、屋敷の中で争っているのか、物が壊れたりぶつかったりする音が聞こえて来て、誰かの叫び声が木霊する。その音を聞くと余計に不安が募る。
レイギス兄さんを除く家族の人たちとは比べ物にならないくらい大切な子。お母様がいなくなった今となっては、レリックとシオンは唯一の大切な家族だと思っている。そのシオンの身に何かあったらと思うと……。
「お湯を取りに行くと言っていたので、浴場に行っているでしょう」
「そうね。早くシオンを見つけて逃げましょう」
それから私たちは辺りを警戒しながら浴場へと向かう。その途中では、使用人として働いている侍女たちなどが我先にと逃げて行く。私たちの事なんて構っていられない、というように。
皆が皆必死な形相で逃げているのを見ると、やっぱり何かあったのだと実感してしまう。それと同時に私への興味の無さも実感してしまう。
だからこそ、私の事をいつも助けてくれて、側にいてくれるシオンを助けたい。自分の命に代えても。
それから浴場の方に逃げる使用人たちの波に逆らいながら向かっていると、浴場のある場所からパリィン、と割れる音がした。私とレリックが慌てて浴場へと入ると、中に顔を覆面で隠した男が2人立っていた。
そして、浴場の奥には壁に背を預けて震えるシオンの姿があった。その姿を見た瞬間、私は剣を抜いて向かっていた。大切な家族を守るため。
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