妻に出て行かれた男、とある少女と出会う

やま

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 私の名前はレイア・シーリス。シーリス伯爵家の娘だ。普通なら伯爵家の娘といえば、とても豪勢な暮らしをして、何不自由なく過ごせると思われるけど、私は違った。


 理由は、私に流れる血にあった。私のお母様は貴族では無くて平民出身で、平民の女性の中では綺麗だったところを、お父様に見初められて結婚したそうだ。


 これだけ聞くとシンデレラストーリーのようにとても良い話に聞こえるけど、実際には違う。実際にはもっと簡単で、お父様が愛人として囲うために連れて来ただけだった。


 それでもまだ、飽きて捨てられないよりはマシだったのでしょう。最低限の食事は保証してくれて、寝泊まりもできるのだから。私とお母様は屋敷の中の日の当たらない奥の部屋で過ごして来た。


 私が小さかった頃はまだ愛されていたのでしょうね。私の朧げな記憶の中に、綺麗な服に着飾って部屋を出て行くお母様の姿が残っているのだから。


 だけど、その光景も年々少なくなっていった。お母様がお父様から呼ばれる事は少なくなり、それに反比例するように若い女性を見かける事も多くなったからだ。
  
 お母様はそんな若い女性に負けられないと、若くなるために色々な事をした。化粧品は勿論、魔法による美貌の維持や、薬による維持など。必死にお父様の目に留まろうとするお母様の姿は、子供ながらに恐ろしいと感じる事があった。


 そんな時事件が起きた。お母様が若くなるために使っていた薬の1つが悪品だったのだ。その薬のせいでお母様の肌は焼けたように爛れて、以前のような美し姿は無くなってしまったのだ。


 それから、地獄だった。その顔の事が原因でお母様はお父様に全く呼ばれなくなったのだ。当然ショックを受けたお母様は、怒りの矛先を私に向けて来たのだ。


 私の顔や頭を叩くのは当たり前。時には蹴られることや、殴られる事も。ひどい時は音を立てただけで魔法を撃たれる事もあった。


 それでも私は我慢した。また、以前のように笑ってくれる、優しいお母様に戻ってくれると信じて。だけど、その事が叶う事は無かった。


 精神的に限界が来ていたのでしょう。お母様は私の首を掴み、ナイフを私の顔に近づけて来たのだ。お母様は私の顔を見ながら


「あなたのその美しい顔が羨ましい。あなたは私の娘なのだからその顔……貰ったって良いわよね!?」


 その時ほどお母様に恐怖した事は無かった。もう、正気では無かったお母様は、私の顔の皮をナイフで剥ぎ取ろうとしたのだ。


 私は当然抵抗した。普段は我慢してされるがままだったけど、この日は恐怖のあまり泣き叫んで、お母様を退かそうと暴れた。


 いつもなら、お母様がまた怒っているのだろうと、兵士たちが入ってくる事は無いのだけど、この日の私の叫び様は余りにもいつもと違うと感じた兵士たちは、扉を突き破って私たちの部屋へと入って来てくれた。


 そして、ナイフを持って私の顔を切り裂こうとするお母様を取り押さえて、私を助けてくれた。この事は直ぐに父上の耳にも入って、お母様は隔離される事になった。


 お母様と離れ離れになってからは、この時助けてくれた兵士の子供であるレリックと、私やお母様の世話をしてくれている侍女の娘であるシオンと一緒に過ごす事が増えた。


 初めの頃は、殺されかけた時の初めて見る狂気に染まったお母様の顔を思い出して、毎晩悪夢に魘されていたけど、レリックやシオンが側にいてくれて、次第に悪夢に悩まされる事が少なくなっていた。


 そのころは私も14歳になって、少しお母様の事を考えるようになっていた。あんな目はあったけど、私のお母様には変わりないし、何より、記憶に残る昔のあの笑顔が忘れられなかったのだ。


 もう一度あの笑顔を見たい。そう思ってシオンの母親の侍女や色々な人にお母様がどこにいるかを聞いた。お母様の大好きだったお花を持って。


 だけど、返って来た答えは私の心に深く傷を付けたのだ。返って来た答えは「あなたのお母さんは、捕まった数日後に処刑された」というものだった。


 私は全く気づかなかったけど、私を殺そうとしたあの数日後にお母様は殺されていたのだ……お父様の命令で。


 当然その話を聞いて怒りも湧き上がって来たし、大切な母親が死んだ事に対する悲しみもあった。だけど、それ以上お母様が死んでホッとしている自分もいた。もう叩かれる事は無いと。


 そんな自分の考えに自己嫌悪を抱きながらも、私はお母様と一緒に過ごした部屋の片付けをしていた。沢山の衣装や小物などがあったけど、レリックとシオンが手伝ってくれたため、1人でするより早く終える事が出来た。


 レリックやシオンが帰った後も少し部屋を片付けていると、お母様がいつも使っていたベッドの下から、1つの箱が出て来た。


 鍵はかかっておらず、直ぐに箱を開ける事が出来た。私はこの箱に見覚えが無かったので、お母様が使っていたものだろうと考え、箱の蓋を開ける。


 箱の中に入っていたのは、お母様の日記帳や手紙だった。あまりお母様のものを見るものじゃ無いのだけど、この時のは私はどうしてもこの箱の中身を確認したい衝動に駆られていた。


 ドキドキしながらも箱の中に入ってあった日記帳を開くとそこには、まだ私が生まれる前から続いていた日記が書かれていたのだ。

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