世界に復讐を誓った少年
101.化け物
「大丈夫かしら、ハルト様」
私の隣ではぁ、と溜息を吐きながら、今私たちが向かっている帝都の方を見るエリーゼ殿。私も同じように帝都のある方角を見る。
私の人生を色々な意味で変えた男、ハルト。良い意味でも悪い意味でも私を変えた男が、この大陸で1.2を争う大国、グレンベルグ帝国に10人程度で攻めていっている。
物凄く心配だ。私の国など足元どころか一息で吹き飛ばされてしまうほどの大国に、ほんの10人程度で攻めにいっているのだから。不安にならないわけがない。
「ねえ、フィアさん。あなたは何番目が良い?」
「……何がです?」
憎いけど愛している彼の事を思っていると、不意にエリーゼ殿がそんな事を尋ねてきた。一瞬どう言う事だろうか、と考えてしまったけど、よく考えればハルトの事を言っているのがわかる。
「だから、ハルト様の何番目が良いのかしら? 今はミレーヌ様が本当の眷属になって1番かもしれないけど、私だってこのまま負ける気は無いもの」
「……私は別に」
「嘘おっしゃいな。いつもハルト様にひっつくミレーヌ様を見て羨ましそうにしている癖に。そういうのは隠さずに言った方が良いのよ? あなたがどのような理由でハルト様に隷属する事になったのかは知らないかど、あの方の事が好きなのはわかるわ」
……他人に言われる事ほど恥ずかしい事は無いな。そんな事を話していると、辺りの空気が一気に重苦しくなった。
私もエリーゼ殿も冷や汗が止まらない。その中で1人だけ苦笑いでいるのが、ハルトが生き返らせた眷属の1人、エルフィオン殿だった。
「……ネロ、直ぐに死霊兵たちを前へ。とんでもないものが来ますよ」
「……コレハナニカ巨大ナナニカガ近ヅイテイル?」
「これは、龍ですよ……エリーゼ様、直ぐに兵士を下げてください。いても、邪魔になるだけです」
いつになく真剣な表情でエリーゼ殿に指示を出すエルフィオン殿。その指示に従いエリーゼ殿が指示を出し兵士を動かそうとした瞬間、私たちは吹き飛ばされた。
天地がひっくり返ったような感覚。上も下も前も後ろもわからずに、気が付けば地面に倒れていた。ふらつく頭を何とかあげて周りを見ると、皆同じ様に倒れている。
唯一立っているのがエルフィオン殿とネロ殿だけだった。そのネロ殿周りにはスケルトンたちがバラバラに落ちていた。スケルトンを壁にしたのだろう。
そして、エルフィオン殿たちの前には、見たことも無い化け物がいた。それを見ただけで私は吐き気を催して、その場で吐いてしまった。中には見ただけで絶望して死んでしまったものも。それに比べたら私は大分マシなのだろう。
「……はぁ、はぁ……な、何ですの、あれは?」
同じように倒れるエリーゼ殿も顔を青くしガクガクと震えていた。涙も止まらないようで綺麗な顔をくしゃくしゃに濡らしながら。
そして、エリーゼ殿が呟いた瞬間、降って来た化け物がこちらを見た。それだけで心臓が握られたような感覚。自然と呼吸が早くなるのがわかる。
『ミツケタ……ミツケタゾ! エリーゼェェェ!!!』
その化け物はエリーゼ殿を見つけた瞬間、私たちの体の倍以上ある拳を振り下ろして来た。私たちは何もすることが出来ずにその光景を眺めているだけだったけど、その拳にとてつもない大きさの炎の塊がぶつかった。
「彼女たちは主人殿に任されているのでね。そう簡単にやらせるわけにはいきませんよ」
『ジャマヲスルナァ!』
私たちを守るように立つエルフィオン殿を見て、化け物は怒り何度も拳を振り下ろしてくる。どうしてこの化け物はエリーゼ殿をそんなに狙うの? わからずに何とか体を起こして、化け物とエルフィオン殿を見ていると
「……お兄様?」
と、エリーゼ殿が呟く。お兄様? という事はあれは帝国の第1皇子なのか? 何故、あのような化け物に?
「くっ、中々手強いです、ね!」
エルフィオン殿は、魔法をぶつけて化け物の振り下ろしてくる拳を防ぐが、かなり消耗しているようだ。無理も無い。一撃で大地を割る程の一撃を何度も防いでいるのだから。
「くぅぅ……え、エリーゼ殿! 今の内に少しでも逃げるぞ!」
「わ、わかったわ!」
私は震える足に力を入れて、同じように震えるエリーゼ殿を無理矢理立たせる。ただ、私よりも力が入らないようで、殆ど私が担いでいるようなものだ。私も倒れそうになるのを何とか歩いている状態。
『エリーゼェェェェ! ニゲルナァァァァ!!』
しかし、この行為が許さなかった化け物は、怒り背にある大きな翼を広げる。ただでさえ巨体なのに、翼を広げると、太陽は遮られて、夜が来たような錯覚に陥る。
「っ! これはまずいですね!」
『フキトベェェェェ!!!』
そして、化け物の大きく広げた翼が輝き出す。それを見たエルフィオン殿は、焦ったように地面に手を付けて魔法を発動する。
地面からいくつもの土を圧縮された壁が何重にも出来て、私たち全員を囲むようにそびえ立つ。普通の魔法では1枚目すら破る事は出来ないほど高密度の土の壁。しかし、化け物が光り輝く翼を私たちに向けてはためかせた瞬間、一瞬にして吹き飛ばされた。
気が付けば、土の壁は無く、途轍もない力に削り取られたのだけはわかった。……なんて威力なの? あの1発だけで地形が変わるほどの威力。
土の壁があった場所は、抉り取ったかのように大きな穴が出来て、そこには何も残ってなかった。そして、私たちの前には
「……ふぅ、危なかったですね」
両腕を前に突き出して立つエルフィオン殿の姿があった。所々傷は付いているものの、さっきの一撃を防いだ。ただ、防いだのは私たちの後ろだけ。それ以外の兵士たちはもう……。
「私1人では防ぐので精一杯ですが……もう大丈夫うですね」
こんな化け物を目の前にしても落ち着いた雰囲気を出すエルフィオン殿。どうしてこんなに落ち着いていられるのかわからなかったけど、次の瞬間、黒い稲妻が化け物へとぶつかった。
化け物が少し怯んだところに、漆黒の竜が空から降って来た。そして、その背には
「神喰ノ魔剣!」
愛憎混ざる思いを持つ彼が乗っていたのだ。
私の隣ではぁ、と溜息を吐きながら、今私たちが向かっている帝都の方を見るエリーゼ殿。私も同じように帝都のある方角を見る。
私の人生を色々な意味で変えた男、ハルト。良い意味でも悪い意味でも私を変えた男が、この大陸で1.2を争う大国、グレンベルグ帝国に10人程度で攻めていっている。
物凄く心配だ。私の国など足元どころか一息で吹き飛ばされてしまうほどの大国に、ほんの10人程度で攻めにいっているのだから。不安にならないわけがない。
「ねえ、フィアさん。あなたは何番目が良い?」
「……何がです?」
憎いけど愛している彼の事を思っていると、不意にエリーゼ殿がそんな事を尋ねてきた。一瞬どう言う事だろうか、と考えてしまったけど、よく考えればハルトの事を言っているのがわかる。
「だから、ハルト様の何番目が良いのかしら? 今はミレーヌ様が本当の眷属になって1番かもしれないけど、私だってこのまま負ける気は無いもの」
「……私は別に」
「嘘おっしゃいな。いつもハルト様にひっつくミレーヌ様を見て羨ましそうにしている癖に。そういうのは隠さずに言った方が良いのよ? あなたがどのような理由でハルト様に隷属する事になったのかは知らないかど、あの方の事が好きなのはわかるわ」
……他人に言われる事ほど恥ずかしい事は無いな。そんな事を話していると、辺りの空気が一気に重苦しくなった。
私もエリーゼ殿も冷や汗が止まらない。その中で1人だけ苦笑いでいるのが、ハルトが生き返らせた眷属の1人、エルフィオン殿だった。
「……ネロ、直ぐに死霊兵たちを前へ。とんでもないものが来ますよ」
「……コレハナニカ巨大ナナニカガ近ヅイテイル?」
「これは、龍ですよ……エリーゼ様、直ぐに兵士を下げてください。いても、邪魔になるだけです」
いつになく真剣な表情でエリーゼ殿に指示を出すエルフィオン殿。その指示に従いエリーゼ殿が指示を出し兵士を動かそうとした瞬間、私たちは吹き飛ばされた。
天地がひっくり返ったような感覚。上も下も前も後ろもわからずに、気が付けば地面に倒れていた。ふらつく頭を何とかあげて周りを見ると、皆同じ様に倒れている。
唯一立っているのがエルフィオン殿とネロ殿だけだった。そのネロ殿周りにはスケルトンたちがバラバラに落ちていた。スケルトンを壁にしたのだろう。
そして、エルフィオン殿たちの前には、見たことも無い化け物がいた。それを見ただけで私は吐き気を催して、その場で吐いてしまった。中には見ただけで絶望して死んでしまったものも。それに比べたら私は大分マシなのだろう。
「……はぁ、はぁ……な、何ですの、あれは?」
同じように倒れるエリーゼ殿も顔を青くしガクガクと震えていた。涙も止まらないようで綺麗な顔をくしゃくしゃに濡らしながら。
そして、エリーゼ殿が呟いた瞬間、降って来た化け物がこちらを見た。それだけで心臓が握られたような感覚。自然と呼吸が早くなるのがわかる。
『ミツケタ……ミツケタゾ! エリーゼェェェ!!!』
その化け物はエリーゼ殿を見つけた瞬間、私たちの体の倍以上ある拳を振り下ろして来た。私たちは何もすることが出来ずにその光景を眺めているだけだったけど、その拳にとてつもない大きさの炎の塊がぶつかった。
「彼女たちは主人殿に任されているのでね。そう簡単にやらせるわけにはいきませんよ」
『ジャマヲスルナァ!』
私たちを守るように立つエルフィオン殿を見て、化け物は怒り何度も拳を振り下ろしてくる。どうしてこの化け物はエリーゼ殿をそんなに狙うの? わからずに何とか体を起こして、化け物とエルフィオン殿を見ていると
「……お兄様?」
と、エリーゼ殿が呟く。お兄様? という事はあれは帝国の第1皇子なのか? 何故、あのような化け物に?
「くっ、中々手強いです、ね!」
エルフィオン殿は、魔法をぶつけて化け物の振り下ろしてくる拳を防ぐが、かなり消耗しているようだ。無理も無い。一撃で大地を割る程の一撃を何度も防いでいるのだから。
「くぅぅ……え、エリーゼ殿! 今の内に少しでも逃げるぞ!」
「わ、わかったわ!」
私は震える足に力を入れて、同じように震えるエリーゼ殿を無理矢理立たせる。ただ、私よりも力が入らないようで、殆ど私が担いでいるようなものだ。私も倒れそうになるのを何とか歩いている状態。
『エリーゼェェェェ! ニゲルナァァァァ!!』
しかし、この行為が許さなかった化け物は、怒り背にある大きな翼を広げる。ただでさえ巨体なのに、翼を広げると、太陽は遮られて、夜が来たような錯覚に陥る。
「っ! これはまずいですね!」
『フキトベェェェェ!!!』
そして、化け物の大きく広げた翼が輝き出す。それを見たエルフィオン殿は、焦ったように地面に手を付けて魔法を発動する。
地面からいくつもの土を圧縮された壁が何重にも出来て、私たち全員を囲むようにそびえ立つ。普通の魔法では1枚目すら破る事は出来ないほど高密度の土の壁。しかし、化け物が光り輝く翼を私たちに向けてはためかせた瞬間、一瞬にして吹き飛ばされた。
気が付けば、土の壁は無く、途轍もない力に削り取られたのだけはわかった。……なんて威力なの? あの1発だけで地形が変わるほどの威力。
土の壁があった場所は、抉り取ったかのように大きな穴が出来て、そこには何も残ってなかった。そして、私たちの前には
「……ふぅ、危なかったですね」
両腕を前に突き出して立つエルフィオン殿の姿があった。所々傷は付いているものの、さっきの一撃を防いだ。ただ、防いだのは私たちの後ろだけ。それ以外の兵士たちはもう……。
「私1人では防ぐので精一杯ですが……もう大丈夫うですね」
こんな化け物を目の前にしても落ち着いた雰囲気を出すエルフィオン殿。どうしてこんなに落ち着いていられるのかわからなかったけど、次の瞬間、黒い稲妻が化け物へとぶつかった。
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