世界に復讐を誓った少年

やま

70.増員

「おおっ、彼らは凄いな、マスター! 私も後で手合わせをお願いしようかな!」


 エルフィオンとレルシェンドの戦いを見てワクワクとした表情を見せるリーシャ。やるのは良いけど、程々にね。味方同士で殺し合いとか笑えないからね。


 さて、僕も戦いに参加するか。相手は30万ほどの大軍。数を減らしたりして全員では無いにしても、こちらよりは圧倒的に多いのは確実だ。それに比べて、こちらは10万いかないぐらい。


 帝国はまだ自国に余力があるのに比べて、亜人国は未だせる限界の人数だ。万が一この戦いで勝っても、長い目で見れば、数を減らす事は負けだろう……普通に戦えば。


 だけど、今回は僕がいる。亜人国の連中には後方で待機してもらい、僕が召喚した這い回る死隊リビングデッドアーミー200体ほどを先頭に立たせる。そして、既に何万という魂を吸い込んだ吸魂のネックレスのお陰で、僕の魔力もかなりのものだ。今から増える死体全てを僕の配下とする事も出来るだろう。そうするためには殺さないとね。


 まずは、さっきエルフィオンとレルシェンドが殺した帝国兵からだ。


「闇ノ霧」


 僕は敵陣に向けて魔術を発動する。突然迫る黒い霧に慌てる帝国兵だけど、この霧は生きている者には効果が無い。あるのは死体のみ。この霧が触れた死体は、自我の無いゾンビへと変わる。


 死体が突然動き出した事に慌てる帝国兵たち。それも仕方ない。確かに死体を焼く事もせずに浄化する事もせずに放置すると、ゾンビやスケルトンなどの死霊系の魔物になる事はあるけど、かなりの時間がかかる。早くても1週間はかかる。だから、死んだ直ぐなどは本来は起きない。


「さあ、お前たちも行くんだ」


 僕の命令で動き出す死隊。こいつらは自我は無いけど、生前の戦い方をある程度は出来る。普通の人間ならともかく、亜人たちは数が少ない代わりに1人1人が強い。しかも、こいつらは術者である僕が死なない限り動く兵士たちだ。


 突然生き返った兵士たちに加えて、死ぬ事のない這い回る死隊が迫ると、帝国兵たちは隊列を崩していく。ただ、中にはこのようになってもちゃんと指示をする奴もいる。この辺は流石と言うべきか。まあ、そういうところから崩していくんだけど。


「食い散らかせ、ロウ」


「ガウゥゥッ!」


 僕の指示で走り出すロウ。帝国兵の中を割って行き、先ほど指示を出していた兵士を噛み殺した。周りの兵士たちはロウへと切りかかろうとするが、ロウが頭の角から雷を放ち、兵士の体を貫いていく。


 気が付けば、リーシャとレルシェンドが競い合うように兵士を切り、殴り、と暴れていた。あいつら本当に自由だな。まあ、良いんだけど。


「ふむ。流石主殿ですな。あれだけ差があった兵力が少しずつ変わっていっている。殺した側から配下へと加えて、更にその配下が殺してと。中々の魔力をお持ちで」


「まあ、これのおかげだけどね」


 僕はそう言って首元の吸魂のネックレスを見せる。だけど、エルフィオンは首を横に振った。


「確かにそのおかげで魔力は上がるでしょうが、それには呪いがかかっているはず。それを受けて平然としている主殿は賞賛に値する」


 ……なんか物凄く褒められるのだが、何かあるのか? 少し疑問の目で見ていると


「何、あなたの声に反応して良かったと思っただけですよ。我々亜人、その中でもエルフは最低でも何百年と生きる種族。年を取るにつれて感情が希薄になってしまうのですが、年甲斐も無くワクワクとして来ただけです」


 フッ、と笑みを浮かべたまま帝国軍の中へと向かっていくエルフィオン。イケメンはどんな顔してもかっこいいな、おい。まあ、いいや。ひがんでいても仕方ない。僕も行こう。


 周りに短剣を10本舞わせて僕も帝国軍の中へと入る。いつもは奇襲が怖いから半自動で反応するようにしていたけど、全部僕の意志で動くようにしよう。


 次々と起き上がるゾンビたち、他の死霊とは桁違いの強さを持つ這い回る死隊、それらを軽々と超える強さを持つリーシャ、エルフィオン、レルシェンド、ロウの配下たち。


 彼らに攻め立てられた帝国軍の前線はもう隊列の原型を留めていないほど酷いものだった。その余波が後ろにいる帝国兵たちへ移って行く。僕はその余波を大きくするために中へと進む。


 それと同時に両側面から魔法による爆発が起きる。亜人たちが側面から魔法を放ったのだ。浮き足立っている今なら効果はあるはずだろう。僕も流れに乗ろうかな。


 宙に舞う短剣を僕の意志で動かして、帝国兵を切り裂く。自動で動かすよりも難しいけど、これはこれでいいな。自分の狙いところを狙える。


 2本1つで操り、足のどこかを突き刺し動きを止め、隙をついて首を搔き切る。剣を持った手に突き立て、顔を切り裂く。うん、いい感じだ。


 周りを囲もうと迫る兵士たちに向けて、短剣たちを自分の周りを回転させる。円を描くように回る短剣に剣は折られ、盾は突き破り、次々と死んで行く、


「うおぉぉっ! 死ね!」


 他の兵士より一回り大きい兵士が巨大なメイスを持って迫るが、短剣を5本放つ。盾で防ごうとするが、当然貫き兵士の体にも風穴が開く。


 周りを取り囲む帝国兵たち。ただ僕を恐れているのか距離を取ったまま近づいてこない。僕から行こうかと思った次の瞬間、空から何か降って来た。僕はその場から飛び退くが、降って来たもの、剣をいくつも背負った男が、僕を見て構えていた。


「帝国軍、剣聖スザク。参る」


 ……なんか現れた。

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