世界に復讐を誓った少年

やま

61.撤退

 次々と矢を放ってくる女弓兵。短剣で全て防ぎながら進むが女弓兵の矢は止まらない。勢いが弱くなるどころか、逆に射る数を増やしてきやがった。1度に3本とかどうやって射るんだよ。


 僕は不思議に思いながらも進むが、当然矢が止むわけもなく。周りの兵士たちも女弓兵に近づくにつれて勢いが増してくる。


 やはり帝国だな。近づくにつれて兵士たちの練度が上がっていっている。特に他の兵士とは違う鎧を着ている者たちは。女弓兵が同じ鎧を少し豪華にした物を着ている事から同じ隊なのだろう。


「セシラ様に近づけさせるな!」


「周りの短剣に気を付けろ! 鉄をも切り裂くぞ!」


「あの大鎌もだ! 距離を開けて魔法で……」


 周りの兵士たちは僕の動きを見ながら少しずつ対策を立てていく。この辺は僕の死霊たちでは出来ない事だ。


 少しずつ僕の大鎌の範囲から距離を取り魔法がを放ってくる。それに加えて女弓兵、セシラと呼ばれ者からの矢も飛んでくる。


「鬱陶しいな。まずは魔法からだ」


 セシラはまだ距離があるため止める事は出来ないが、近くの兵士なら止められる。まずは周りからだ。


 僕は魔法を放ってくる兵士たちへと突っ込む。兵士たちは慌てて下がろうとするが僕の方が速い。大鎌を振り魔法を放つために伸ばしていた腕を切る。


 大鎌を回転させ石突きで片腕だけの兵士の腹を突く。そのまま兵士を盾にするように中へと進む。ある程度中へ入ると突くのをやめて大鎌で下から切り上げる。


 その隙を突こうと後ろから3人の兵士が迫るが、そいつらには宙に舞う短剣を向かわせる。足の甲や膝に突き刺さり動きを止めたところで大鎌を横に振る。


 一瞬にして上下が分かれた兵士たち。その後ろから魔法が放たれる。飛んで来た魔法は短剣で切り裂き、兵士たちへと短剣を飛ばす。


 次の魔法を放とうとする兵士たちを次々と貫くが……数が減らないな。こちらも手駒を増やすか。僕は魔力を死体へと流す。


 突然立ち止まった僕に警戒する兵士たち。今も矢が降ってくるけど短剣で防ぐ。少しの間なら動かなくても大丈夫だろう。


 僕の魔力が死体へと行き渡ると、動かなくなった死体はピクリと動く。そして、近くにいる兵士へと襲いかかる。ついでに上下に分かれた体も直しておく。


 さっきまで隣で一緒に戦っていた仲間が突然襲ってくる恐怖。僕にはわからないけど怖いものだろう。ましてや先ほどまで死んでいた者たちだ。
  
 僕は兵士たちが怯んだ隙に一気に切り込む。全ての短剣を自分の周りで回転させ、攻防一体の盾として。鋭く放たれる矢も全て僕の周りを回る短剣に弾かれる。


 しかし、そう簡単には近づけさせてはくれなかった。彼女の隣から1人の剣士が現れたのだ。顔には仮面を付けており顔はわからないが体格からして男だろう。


 僕が短剣を放つと、男は的確に剣で弾いていく。あの剣も切れないので中々の業物だろう。短剣で無理ならこの大鎌で!


「ふっ!」


「っ!」


 ガキンッ! 僕の大鎌を受け止める男。そしてそのまま剣を滑らせて僕に向けて振ってくる。顔を後ろに逸らして避けると、今度は振り下ろして来た。


 僕は大鎌の太刀打ちで振り下ろされた剣を防ぎ、空いている腹へと蹴りを入れる。男は咄嗟に左手で受けるが、強化されている僕の筋力を防げるわけがなく吹き飛ばされる。


 追い打ちをかけに行こうとすると、横から矢がいくつも飛んでくる。この2人はコンビなのだろう。男が抑えつつ女が射抜く。そんな感じだろうな。


 大鎌を回転させて矢を弾く。その間に追撃するように短剣を放つが、一瞬で立て直した男は再び剣で弾いてしまう。出来た傷も擦り傷程度だ。まあ、その擦り傷が命取りになるのだが。


 少し息が上がっている様子の男と対峙しながら、女弓兵の矢を警戒していると、女弓兵の元に兵士が近寄る。そして僕を睨みながらも兵士の話に耳を傾ける。今隙を突いて攻めても男が間に入ってくるだろう。


 しばらく睨み合いが続くと


「我々は撤退する! 全軍撤退だ!」


 女弓兵が叫ぶ。それと同時に角笛が甲高く鳴らされる。女弓兵は僕を忌々しそうに睨んでから、戦闘中の兵士の方を見る。気が付けば僕の手駒たちは全員やられていた。


 帝国兵たちは次々と下がって行く。ついでに僕を殺そうとする奴は逆に殺してやったけど。


 そして少しすると、土色の剣を持ったリーシャがやって来た。肌がなぜかツヤツヤなのかはそれなりに満足したからだろう。


「うむ、初めて帝国の兵士とは戦ったが中々の練度だった。いい準備運動になったぞ!」


 ……褒めておきながら、それすら準備運動か。本当に底なしだな、リーシャは。


 僕たちはそのままメルダたちのいる陣地へと戻る。辺りは怪我人が座り込んだり寝転んだりとしており、少し離れたところでは死体が並べられていた……欲しいな。くれないかな? くれないだろうな。


 若干の勿体無さを感じながらもメルダたちの元へと向かう。メルダたちがいたのは陣地に作られた簡易テントの中だった。ただ、普通のテントより大きい。人が多く入れるようになっているのだろう。


 中に入ると色々と話し合っているメルダたちに、豪華な鎧を着たドワーフがいた。マルスはどこか気まずそうに椅子に座っている。


 僕たちが入って来た事に気が付いたメルダは顔を綻ばせてこちらにやってくる。


「ハルト殿! ご無事だったのですね!」


「そりゃあ、あんな堂々と出て行って死んだら笑えないでしょ。それでこれからはどうする?」


「はい、これからは……」


 それから僕たちは日が沈むまで今後の事について話をするのだった。

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