世界に復讐を誓った少年

やま

56.来客

「打ち込みが甘いぞ、マルス! もっと動きを見て攻めて来い!」


「っ! はい!」


 汗を散らしながら、鋭く攻め込むマルス。斜め下から右上に向かって剣を振り上げるが、対峙しているリーシャは一歩も動く事なく剣を防ぐ。


 マルスはそうなる事が分かっていたようで、弾かれた剣を直ぐに戻して再度切りかかる。リーシャは苦なくそれらを払い、マルスの隙を見つけると


「甘いわ!」


「ぐふっ!?」


 木剣を思い切りマルスの脇腹へと打ち込んだ。防御が間に合わずモロにリーシャの剣を受けたマルスは軽々と数十メートルは吹き飛ばされた。


 地面を何度も跳ねてようやく止まったマルスを、今度を首根っこを掴んで悪かったところを指摘している。マルスが少し白目を剥いてえるのは気のせいだろうか?


 そんな様子を見ながら僕はこれからの事を考える。フィアがメストア王国の女王になって半年ぐらいが経った。


 王が変わる際には、伯爵は前の戦いの傷が元で死んだと、王太子も大怪我を負ったため姉であるフィアに譲った事にしている。その事を国民たちは不思議には思ったようだが、特に問題が起きる事なく浸透していった。


 自身の母親や王太子の妻などへの説明はフィアに任せたが、僕の事を知っているのだろう、両者とも特に逆らわずに納得してくれたようだ。


 大臣たちも全員が隠居して一新された。大臣たちのトップにはネロを置いている。表に出る時は肉体を持っているから問題は起きないだろう。


 貴族たちも集めて顔合わせなどもしていたが、中にはフィアに求婚する奴もいたな。自分がいればこの国は安泰だとかなんとか。


 まあ、そう言う奴らはフィアに護衛として付けているデュラハンと決闘をしてもらい追い払ったが。


 デュラハンは現在20体近くいる。リーシャの力に呼ばれた死んだ騎士の魂を使って作った。強い分、偶にしか現れないが、それらを全員フィアの護衛にしている。勿論頭は付けさせている。


 護衛を付けさせた理由は、女王になってから暗殺が増えた事が原因だ。みんな、この国を狙っているようで、初めの頃は毎日のように現れた。そのため、護衛を付けさせたのだ。


 フィアが眠る部屋の外ではデュラハンで良いが、流石に部屋の中まで入れさせるのは可哀想だと思った僕は、デュラハンの他にもティアの血を使って悪魔の影ドッペルゲンガーも数体作った。


 僕の影よりはかなりランクが下がるけど、暗殺者を抑える時間ぐらいは稼ぐ事が出来るし、フィアに姿を変えて、影武者となる事も出来るのでかなり役には立っていると思う。


 それからゾンビやスケルトンの配下も増えていった。上位種や変異種なども出来て中々戦力も整ってきた。まだ、全部で5万ほどだが、普通の国相手なら問題無い。


 ただ、第1目標である帝国を相手するにはまだまだ足りない。これ以上兵士を増やすとなるなら、メストア王国だけでは全く足りない。


「何かお考えですか、ハルト様?」


 再び始まったリーシャとマルスの特訓を見ていると、クロノが作った魔道具である車椅子に座るティエラと、その車椅子を押すミレーヌが側にやって来た。


 ミレーヌはマルスたちが連れてきた子供たちに読み書きや魔法を教えている。僕も偶に色々と教えてもらっている。  


 どうやら、教会にいた時は孤児院のようなものもしていたらしく、子供が好きらしい。彼らがここに来てから夜が激しくなったのは言うまでもない。


「ん? 僕たちのこれからの事を考えていたんだ。兵力は増えたけど、これ以上この国で増やすのは厳しくなって来たからね。そろそろ他の国行こうかなって考えているんだ」


「……そうですね。確かにこの国の人口的にもこれ以上増やすのは厳しいかも知れませんね。でしたら……」


「創造主よ、少し良いか?」


 僕がミレーヌと今後の事について話し合っていると、クロノが作った転移の道具でネロが地下に現れた。ミレーヌは僕との会話を中断されたからか少し膨れているが、ネロが転移の道具を使う程急ぎという事で、ティエラの車椅子を少し引いて待っている。


「何かあったのか?」


「ああ、この国に来客が来た」


 来客? それなら僕にじゃなくてフィアが相手するはずだけど、どうしてわざわざ僕にそれを知らせるんだ? 訳がわからずに首を傾げていると


「来たのは亜人国だ。それだけなら女王に謁見させて終わりなのだが、来た目的が創造主に会う事だった」


 ……はぁ? どうして僕の存在が知られているんだ? 確かにこの国では国王や大臣などに会ったりはしたけど、基本はローブを着て顔は出さないようにしている。


 それに、殆ど表立って外には出ないようにしているため、他国に知られることは無いはず。知られているとすればクソ女神ぐらいだ。


「……誰かが僕の事を話したか?」


 残る問題だとしたら生かしている元大臣たちの誰かが、僕の事を他国に話したか。だけど、それはネロがあり得ないと言う。生かした彼らの側には鳥型のスケルトンがいる。


 そいつらが常に監視して、不穏な動きをすればネロに伝わるようにしているから、あり得ないと言う。


「うーん、仕方ない。知られているのならコソコソ隠れても意味が無いな。会いに行こう。おーい、リーシャ!」


 別に会う義理は無いのだが、どうして僕の事を知っているのかだけでも知りたい。それに亜人国の人間だ。どんな人たちなのかも知っておきたいし。


 地下にはミレーヌとティエラ、半分白目を剥いて気を失いかけているマルスを残して、僕は案内にネロ、護衛としてリーシャを連れて上へと上がる。


 王宮内へと上がり案内されたのは、当然ながら謁見の間だ。中に入ると既に人払いはされており、玉座の席に赤色で華やかに装飾されてドレスを着るフィアが座り、フィアを挟むように両隣にはデュラハンが立っている。


 そして、フィアの視線の先には亜人国から来たと思われる者たちが立っていた。変な事をしないように壁際にもデュラハンが立つ。


 さて、僕に何の用かな?

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