世界に復讐を誓った少年
44.とある家族の話(2)
「おい、用意出来たか?」
「待ってよ、ダル兄。もう少しだから」
少しでもカッコよく見せようと数少ない服を選ぶピルクに呆れた声をかけるダル。俺もティエラも苦笑いだ。
今日は確かに待ちに待った天啓の日だが、そこまで服装に気にする必要無いだろ。俺もティエラもいつも通り、当然ダルもいつも通りなのに。
「ほら行くぞ!」
「あっ! ひ、引っ張らないでよ!」
そして、痺れを切らしたダルに引っ張られるピルク。ったく。俺はティエラの椅子を押しながら家を出る。
「エマ、みんなを頼んだわよ」
「うん、ティエラお姉ちゃん、いい職業貰えるといいね!」
ティエラに抱きつくエマ。上から乗られる様な状態だから少しティエラが苦しそうだな。しかも、それを見ていた子供たちが次々とティエラへと抱きついていく。彼女は子供たちから好かれているからな。
「ほら、お前ら。俺たちは行くからティエラから離れろ。苦しそうだろ?」
でも、流石にもう行く時間だからティエラから子供たちを離す。子供たちは素直に離れてそれぞれが手を振ってくる。大袈裟だなぁ。
「……ぅぅ、かっこいい姿した僕がいい職業手に入れて、同じ場所にいた女の子たちにモテる予定なのに」
「……お前、それは夢見すぎだ」
離れたところでは、ピルクが意味のわからない事を言って、ダルが呆れているし。大丈夫かよ。
「ふふっ、行きましょう、マルス」
「ああ、そうだな」
俺はティエラの椅子を押して歩き出す。後ろで行ってらっしゃいと言う子供たちに見送られて、俺たちは教会を目指す。
学など大した生き方をして無い俺たちでも、教会では天啓を受ける事が出来るらしい。どの様な子供でも可能性はあるという事で。
「それで、マルスはどんな職業が良いの?」
「あ? どんな職業か」
突然のティエラの質問につい考えてしまう。俺がなりたい職業か。俺は前を向くティエラを見る。そんなもんは決まっている。俺がなりたい職業……
「んなもん決まっているだろ。稼げる職業に」
「……マルスらしいわね」
呆れた様な声色で行ってくるティエラ……お前に言えるわけねえだろ。恥ずかし過ぎて。
「それなら、ティエラはどんな職業が良いんだよ?」
「私? 私は体の不自由関係無く出来る事なら何でも良いわ」
そう言って微笑むティエラ。ティエラこそ、らしいじゃ無いか。まあ、そんなティエラだからこそ俺は一緒にいたいんだけどな。
「それじゃあ、もし合わない職業だったとしても、俺が側で助けてやるよ」
「ふふっ。それなら、マルスの職業がダメダメだったら私が稼いであげるわ」
そう言い笑い合う俺たち。そこまで高望みはしない。ある程度のものでも良いんだ。少しでも彼女のためになるものなら。
笑い合いながら教会へと向かう俺たちは、後ろから睨んでくる視線に気がつく事は無かった。
◇◇◇
歩く事20分ほどだろうか。ようやく教会へと辿り着いた俺たち。教会の前には子供の列が出来ている。少し離れたところでは一喜一憂している者たちも。喜んでいる者は良い職業を、悲しんでいる者を自分に合った職業じゃ無かったんだな。
「やっぱり人数多いなぁ〜」
ピルクの言う通り本当に多い。王都中の子供が集まっていると考えれば当然なのかもしれないが。俺たちもその列に並ぶ。ダル、ティエラ、俺、ピルクの順だ。
少しずつ進んで行くが、いかんせん子供が多い。数分に1人進む程度だ。これはかなり時間がかかるな、と思って待っていると、教会の前に目立つ大きな馬車が止まる。
みんなが見ていると、馬車が開かれ中から執事の様な男が降りてくる。そして、その後から俺たちと同年代くらいの小太りの男が降りてきた。貴族の子息か何かか?
そのまま、まるで列なんか無いかのように無視して教会へと入ろうとする男。本当なら止めるべきなんだろうけど、相手は貴族だろう。相手するだけ面倒だ。そんな風に無視していたら、突然こちらを見てくる貴族の男。何だよ?
訳もわからずに見ていると何故か近づいて来た。そして俺たち、いや、正確に言うと俺の前にいるティエラを見ている。ジロジロとこっちの迷惑を考えずに舐めるようにティエラを見てくる。
ティエラは同年代の中でもとても綺麗だ。年上なんて目じゃ無いくらい。足が不自由でなければ、俺たちなんかとはいないと思えるぐらいだ。
「……な、何でしょうか?」
訳もわからずに戸惑いの声を上げるティエラに貴族の男はジッと見るだけ。そして少しすると離れて行き、教会へと入って行った。
「何だったんだ、あいつ?」
ダルが教会に入って行く貴族の後ろ姿を見てぽつりと呟く。それがわかれば苦労はしないんだけど。
そんな事があったが、列は少しずつ進んで行きようやく俺たちの番へとなった。まず初めはダルが神官の元へと行き、そして天啓を授けてもらう。
ダルが貰った職業はかなり珍しい『剣豪』というものだった。剣術士の上級職になり、剣を持てば剣術の経験が無くても剣が扱える様になるんだとか。
剣なんか持つ機会が無かった俺たちだ、そんなのにも当然ながら気が付かなかった。
そして、次に天啓を受けたのがティエラだ。ティエラを神官の前まで押して行き俺は離れる。そして与えられた職業は『精霊魔術師』というものだった。
その職業を聞いた神官が教会の裏へと戻ってしまったが、どうかしたのだろうか? 遠くから不安そうに俺を見てくるティエラ。俺は口パクだが大丈夫だと伝えると、彼女は不安そうな表情を崩す。
しばらくして神官が戻ってくると、ティエラも俺たちの方へと戻って来た。何か言われたのか尋ねてみると、あまり聞かない職業だったから、調べに行っていたそうだ。そんな事もあるんだな。
そして、ようやく俺の番になったため、俺は神官の前まで行く。近づいてわかったけど、神官はティエラの事を気にしている。やっぱりさっきの職業について何かあるのだろうか?
俺が見ている事に気が付いた神官は、ごほんと咳払いをして天啓を与えてくれる。体が暖かくなる感覚。これが天啓なのか。
「ふむ、今回は珍しいのが多いですな。あなたの職業は『黒騎士』という職業だ。『聖騎士』と対をなす職業で、滅多に現れる事の無い職業だ。誇ると良い」
そう言われて俺の番が終わった。黒騎士か。聖騎士って物語でも出てくる様な有名な職業じゃ無いか。それと対をなすって……これは俺の想像以上に凄い職業じゃないのか?
「どうだったんだ、マルス?」
「ん? ああ、黒騎士とかいう珍しい職業だったよ。何でも聖騎士と対をなすとか」
「へぇ〜、凄いわね」
そう言い笑うティエラ。しかし、さっきの神官も言っていたけど、俺たちの職業は珍しいのが多いな。これで後ピルクが……
「ふう、僕は軽業師って職業だったよ」
うん、ある意味珍しいぞ。でも、ピルクらしい。こいつは身長は150ほどで見た目通りすばしっこいからな。職業のおかげでもあったのだろう。
「よし、全員終わったから帰ろうか」
ダルの言葉で俺たちは家へと帰る。この職業だと、どんな事が出来るのだろうか。自然とわかるようになると言うが。わかるようになるのが楽しみだ。
◇◇◇
「あの女の事はわかったか?」
「はい。どうやら、スラムの孤児のようですね。ただ、教会の者たちも嗅ぎ回っておりました」
「むっ、何かあるのか?」
「わかりませぬが、その女が住む家で同じように天啓を受けていた者たち皆特殊な職業を手に入れていたようですので、もしかしたらそれが原因かも知れませぬな」
「そうなのか。よし、父上に言って教会にも協力してもらおう。それから、スラムの奴らにも協力させろ。あの女
を僕の奴隷にしてやる」
「待ってよ、ダル兄。もう少しだから」
少しでもカッコよく見せようと数少ない服を選ぶピルクに呆れた声をかけるダル。俺もティエラも苦笑いだ。
今日は確かに待ちに待った天啓の日だが、そこまで服装に気にする必要無いだろ。俺もティエラもいつも通り、当然ダルもいつも通りなのに。
「ほら行くぞ!」
「あっ! ひ、引っ張らないでよ!」
そして、痺れを切らしたダルに引っ張られるピルク。ったく。俺はティエラの椅子を押しながら家を出る。
「エマ、みんなを頼んだわよ」
「うん、ティエラお姉ちゃん、いい職業貰えるといいね!」
ティエラに抱きつくエマ。上から乗られる様な状態だから少しティエラが苦しそうだな。しかも、それを見ていた子供たちが次々とティエラへと抱きついていく。彼女は子供たちから好かれているからな。
「ほら、お前ら。俺たちは行くからティエラから離れろ。苦しそうだろ?」
でも、流石にもう行く時間だからティエラから子供たちを離す。子供たちは素直に離れてそれぞれが手を振ってくる。大袈裟だなぁ。
「……ぅぅ、かっこいい姿した僕がいい職業手に入れて、同じ場所にいた女の子たちにモテる予定なのに」
「……お前、それは夢見すぎだ」
離れたところでは、ピルクが意味のわからない事を言って、ダルが呆れているし。大丈夫かよ。
「ふふっ、行きましょう、マルス」
「ああ、そうだな」
俺はティエラの椅子を押して歩き出す。後ろで行ってらっしゃいと言う子供たちに見送られて、俺たちは教会を目指す。
学など大した生き方をして無い俺たちでも、教会では天啓を受ける事が出来るらしい。どの様な子供でも可能性はあるという事で。
「それで、マルスはどんな職業が良いの?」
「あ? どんな職業か」
突然のティエラの質問につい考えてしまう。俺がなりたい職業か。俺は前を向くティエラを見る。そんなもんは決まっている。俺がなりたい職業……
「んなもん決まっているだろ。稼げる職業に」
「……マルスらしいわね」
呆れた様な声色で行ってくるティエラ……お前に言えるわけねえだろ。恥ずかし過ぎて。
「それなら、ティエラはどんな職業が良いんだよ?」
「私? 私は体の不自由関係無く出来る事なら何でも良いわ」
そう言って微笑むティエラ。ティエラこそ、らしいじゃ無いか。まあ、そんなティエラだからこそ俺は一緒にいたいんだけどな。
「それじゃあ、もし合わない職業だったとしても、俺が側で助けてやるよ」
「ふふっ。それなら、マルスの職業がダメダメだったら私が稼いであげるわ」
そう言い笑い合う俺たち。そこまで高望みはしない。ある程度のものでも良いんだ。少しでも彼女のためになるものなら。
笑い合いながら教会へと向かう俺たちは、後ろから睨んでくる視線に気がつく事は無かった。
◇◇◇
歩く事20分ほどだろうか。ようやく教会へと辿り着いた俺たち。教会の前には子供の列が出来ている。少し離れたところでは一喜一憂している者たちも。喜んでいる者は良い職業を、悲しんでいる者を自分に合った職業じゃ無かったんだな。
「やっぱり人数多いなぁ〜」
ピルクの言う通り本当に多い。王都中の子供が集まっていると考えれば当然なのかもしれないが。俺たちもその列に並ぶ。ダル、ティエラ、俺、ピルクの順だ。
少しずつ進んで行くが、いかんせん子供が多い。数分に1人進む程度だ。これはかなり時間がかかるな、と思って待っていると、教会の前に目立つ大きな馬車が止まる。
みんなが見ていると、馬車が開かれ中から執事の様な男が降りてくる。そして、その後から俺たちと同年代くらいの小太りの男が降りてきた。貴族の子息か何かか?
そのまま、まるで列なんか無いかのように無視して教会へと入ろうとする男。本当なら止めるべきなんだろうけど、相手は貴族だろう。相手するだけ面倒だ。そんな風に無視していたら、突然こちらを見てくる貴族の男。何だよ?
訳もわからずに見ていると何故か近づいて来た。そして俺たち、いや、正確に言うと俺の前にいるティエラを見ている。ジロジロとこっちの迷惑を考えずに舐めるようにティエラを見てくる。
ティエラは同年代の中でもとても綺麗だ。年上なんて目じゃ無いくらい。足が不自由でなければ、俺たちなんかとはいないと思えるぐらいだ。
「……な、何でしょうか?」
訳もわからずに戸惑いの声を上げるティエラに貴族の男はジッと見るだけ。そして少しすると離れて行き、教会へと入って行った。
「何だったんだ、あいつ?」
ダルが教会に入って行く貴族の後ろ姿を見てぽつりと呟く。それがわかれば苦労はしないんだけど。
そんな事があったが、列は少しずつ進んで行きようやく俺たちの番へとなった。まず初めはダルが神官の元へと行き、そして天啓を授けてもらう。
ダルが貰った職業はかなり珍しい『剣豪』というものだった。剣術士の上級職になり、剣を持てば剣術の経験が無くても剣が扱える様になるんだとか。
剣なんか持つ機会が無かった俺たちだ、そんなのにも当然ながら気が付かなかった。
そして、次に天啓を受けたのがティエラだ。ティエラを神官の前まで押して行き俺は離れる。そして与えられた職業は『精霊魔術師』というものだった。
その職業を聞いた神官が教会の裏へと戻ってしまったが、どうかしたのだろうか? 遠くから不安そうに俺を見てくるティエラ。俺は口パクだが大丈夫だと伝えると、彼女は不安そうな表情を崩す。
しばらくして神官が戻ってくると、ティエラも俺たちの方へと戻って来た。何か言われたのか尋ねてみると、あまり聞かない職業だったから、調べに行っていたそうだ。そんな事もあるんだな。
そして、ようやく俺の番になったため、俺は神官の前まで行く。近づいてわかったけど、神官はティエラの事を気にしている。やっぱりさっきの職業について何かあるのだろうか?
俺が見ている事に気が付いた神官は、ごほんと咳払いをして天啓を与えてくれる。体が暖かくなる感覚。これが天啓なのか。
「ふむ、今回は珍しいのが多いですな。あなたの職業は『黒騎士』という職業だ。『聖騎士』と対をなす職業で、滅多に現れる事の無い職業だ。誇ると良い」
そう言われて俺の番が終わった。黒騎士か。聖騎士って物語でも出てくる様な有名な職業じゃ無いか。それと対をなすって……これは俺の想像以上に凄い職業じゃないのか?
「どうだったんだ、マルス?」
「ん? ああ、黒騎士とかいう珍しい職業だったよ。何でも聖騎士と対をなすとか」
「へぇ〜、凄いわね」
そう言い笑うティエラ。しかし、さっきの神官も言っていたけど、俺たちの職業は珍しいのが多いな。これで後ピルクが……
「ふう、僕は軽業師って職業だったよ」
うん、ある意味珍しいぞ。でも、ピルクらしい。こいつは身長は150ほどで見た目通りすばしっこいからな。職業のおかげでもあったのだろう。
「よし、全員終わったから帰ろうか」
ダルの言葉で俺たちは家へと帰る。この職業だと、どんな事が出来るのだろうか。自然とわかるようになると言うが。わかるようになるのが楽しみだ。
◇◇◇
「あの女の事はわかったか?」
「はい。どうやら、スラムの孤児のようですね。ただ、教会の者たちも嗅ぎ回っておりました」
「むっ、何かあるのか?」
「わかりませぬが、その女が住む家で同じように天啓を受けていた者たち皆特殊な職業を手に入れていたようですので、もしかしたらそれが原因かも知れませぬな」
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