世界に復讐を誓った少年

やま

41.聖夜の夢

「ほら〜、ハルト〜、起きなさい〜」


「うぅん〜、後5分」


 母さんの悪魔の声が聞こえてくる中、僕は布団を深く被り眠る。壁の隙間から入ってくる風が冷たくて、布団から出ようとは思わない。


 このまま、眠ってやる! そう思って目を瞑っていると、ドタバタと大きく歩く足音が僕の部屋へと近付いてくる。


 そして勢い良く開けられる扉。なおそれを無視していると


「こらっ! 起きなさいって言っているでしょ!」


 思いっきり布団をひん剥いてくる母さん。僕の体温で温まっていた布団の中が外気によって急激に冷やされて行く。さ、寒い!!


「な、何するんだよ、母さん!」


「ハルトが全く起きないからでしょ! 今日は祭りの準備なんでしょうが!」


「……僕、祭り嫌い」


 僕は冷える体をさすりながらそっぽを向く。すると、はぁ、とため息を吐く母さん。ううっ、母さんのため息は苦手だ。母さんがため息を吐く時はいつも僕を心配している時だからだ。でも、今回は嫌なものは嫌だ。


 毎年1度神様が贈り物をくれるって祭りがあるけど、どうせ僕と母さんは参加出来ないんだ。それどころか、村人の殆どが参加するから、参加しない母さんは寒い中見張りをさせられたりする。その事が僕は嫌でたまらない。


「もう、困った子ね」


 そっぽを向く僕に母さんは苦笑いしながら僕の隣に腰掛ける。そして優しく抱き締めてくれた。


「ハルトが私の事を考えてくれているのはわかるけど、そのせいでハルトが仲間外れにされるのは嫌かな」


「でも……」


 僕は俯いていると、頭を優しく撫でてくれる母さん。そして、背中を思いっきり叩いてくる。痛いっ!


「ほらっ、そんな顔してないで行って来なさい! ステラちゃんやリーグ君の言う事ちゃんと聞くのよ!」


 ニコニコと笑う母さんに僕は何も言えなくなって部屋を出る。外にある水桶で顔を洗うだけど、寒いこの時期にはつらすぎる。それでも、我慢をして顔を洗い朝食を食べてから目的の場所へと向かう。


 そこでは、大人たちの指示に従い僕やリーグ、ステラなど子どもたちが祭りの準備をする。ただ、僕とリーグたちの間には色々と差があった。


 リーグたちが失敗しても笑って許してもらえるが、僕が失敗すると怒られ、酷ければ殴られる。偶にステラが庇ってくれる時もあるが、リーグが僕が鈍臭いのが悪いと言えばなにも言わなくなる。


 レグルたちに限っては僕のその光景を見て笑い者にしてくる。レグルは村長の息子なので、準備などは免除されているのだ。


 なんとか夜までに準備が終わったけど、僕は参加出来ない。理由はなんだったっけな。確か、この祭りは家族全員で祝うものであって、家族のいない者は参加出来ないとか、そんな感じだった。


 多分そんな決まりはないはずだ。だけど、現に父親のいないのは僕の家だけで、力の無い僕にはそんな事を言えるわけもなく、ただ、楽しそうに、美味しそうなものを食べるみんなを見ているしかなかった。


 最後には子どもたちへとプレゼントなんて物があったけど、当然僕には無い。いつも通りの黒くて硬いパンと塩辛い干し肉を食べて家に帰る。


 母さんはまだ見張りから離れられないため家の中は僕1人だ。火も付けていないからとても寒い。僕は母さんが帰って来た時に暖かく過ごし易いように火を付けて椅子に座って待っていた。


 気が付けば僕は椅子で眠っていたようで、微かに聞こえるのは母さんの泣く声と、僕に対する謝罪だった。あぁ、謝らないでよ、母さん。母さんは何も悪く無いんだから。だから謝らないで……。


 ◇◇◇


「……なんだこれ」


 目が覚めた僕の視界に始めに入って来たのは肌色の柔らかいものだった。柔らかいものに顔を挟まれて、頭の後ろは抱き込まれるようにされているため身動きが取れない。時折頭を優しく撫でてくる感触がむず痒い。


 物凄く柔らかい感触と甘い匂い。一体何なんだと思って顔を何とか上げてみると、そこには涙を流したミレーヌの姿があった……何で泣いているんだよ?


「あっ、目覚めましたか、ハルト様?」


「あ、ああ、おはようミレーヌ。それで、この状態は?」


「おはようございます、ハルト様。始めに私はハルト様に謝らなければいけません」


 そう言い体を起こすミレーヌ。シミひとつない綺麗な肌を隠す事なく起き上がったため、僕は慌ててシーツをかけてあげる。お礼を言いながらも謝ってくるミレーヌ。何で謝るんだ?


「ハルト様と夜をご一緒させて頂くようになってからですが、時折ハルト様が魘される事がありました。覚えておりますか?」


「いや、覚えていないけど……僕が?」


 全く記憶に無い。基本毎日ミレーヌと眠っているが毎朝気持ちよく起きている気がするし。


「実は私がハルト様が魘されている時に精神を落ち着かせる魔法を使っておりました」


 ふむ……ん? それは僕にとって良い事じゃ無いのか? それなのにどうしてミレーヌは謝るんだ?


「その際に私……毎回ハルト様の夢の中を見ているのです!」


 ……あー、そういう事ね。勝手に僕の夢を見た事に対して謝っているのか。でも、それも今更な気がするな。ミレーヌに僕の痛みの追体験をさせた時も見せているし。


 僕の夢の中を思い出しているのか、小さい頃の僕も可愛いとか恥ずかしい事を言っているミレーヌだけど、真剣な表情に変わって僕を見てくる。


「まず、聖夜祭には家族で無いと参加してはいけないという決まりはございません」


 聖夜祭? ……あー村の祭りの事か。あれって聖夜祭って言うのか。知らなかった。


「現にあの村の村長は当然その事を知っております。聖夜祭は色々とありますが、子供たちにプレゼントを渡すのも行事の1つです。そのため、村の税から祭りの分の税は引かれており、その中にはプレゼント代を含まれているはずなのです。ですから……」


「僕の分は村長、もしくはレグルのものになっているって事?」


 僕の言葉に頷くミレーヌ。見た事もないような怒りの表情を露わにしている。そんな顔をしないでくれよ。俺は笑っているミレーヌが見たいのだから。


 確かに、今思い出せば、あの村での僕の扱いは最悪だった。どう言う理由であんな扱いだったのかはわからないけど、他の生活を知っているミレーヌがそんな顔をするほどおかしかったのだろう。


「まあ、今更だな。あれに抗おうとしなかった僕が悪い。だから、そんな顔をしないでくれ。綺麗な顔が台無しだ。それに、あの村は必ず潰すから」


「はい! 私もお手伝いします! あっ、でも今は少しこうさせてください!」


 ミレーヌが笑顔に戻ったと思ったら、再び僕の頭を抱くように抱きしめてくるミレーヌ。そして、頭の上から「よしよし」と優しく撫でてくれる。この感覚……母さんにされた時みたいだ。思わず涙が出そうになったけど、何とか我慢する。ミレーヌの前で泣くのはなんか恥ずかしい。


 それからミレーヌが満足するまで頭を撫でられて、僕たちは着替えた。ミレーヌの顔が満足そうなのは良い事だけど、物凄く恥ずかしい。思わず、母さん、って言いそうになったぞ。危なかった。


 僕とミレーヌは城の1階にある客間に今住んでいる。ネロたちは地下を作ってそこでせっせと兵士の人数を増やしている。どうやら、近くに森があるらしく、その中に落ちている死体を持ってきているらしい。


 後は墓地から少しずつ持ってきているのだとか。一気に持ってくると、地盤が崩れて大きな穴が空いてしまうのだとか。


「今日はどうされますか?」


「この周辺の国について調べたいな。力を集めるにはこの国だけでは足り……」


「な、何をするヘンリル!? 手を離すのだ!」


 今日の予定を話し合いながら廊下を歩いていると、フィアの声が聞こえて来た。その後に続く男の声。僕は無視出来ずに角を曲がると、そこにはフィアの腕を掴み何処かへと連れて行こうとする男がいた。あれは確か王太子か。王都に戻って来ていたんだな。だけど


「僕の所有物に何をしている」


 僕の物をどこかへと連れて行こうとするのは頂けないな。

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