世界に復讐を誓った少年

やま

34.『七剣』の実力

「……ぐっ、なんて圧だ。まさか、このような者までいたとは」


 私は剣を握る手が汗で湿っているのがわかる。今まで何度か死の感覚というのは味わった事があるが、これほど濃密な死というのは初めてだ。


「それでは行くぞ炎姫よ。何本まで耐えられるかな? 一剣ソードワン疾風ノ大剣ゲイルガルノドフ!」


 漆黒の鎧を纏った騎士が、周りに浮かぶ剣のうち、深緑色をした大剣を右手に迫って来る。くっ、なんて速さだ!? 私より数段上の実力を持つ実力者。命を賭しても勝てる見込みは少ないだろう。だが、負けられない!


「はぁっ!」


「ふんっ!」


 黒騎士の剣と私の剣がぶつかり合う。黒騎士の風と私の炎がせめぎ合い辺りへと吹き荒れるが、周りの事を気にしている余裕が今の私には無かった。


 黒騎士は、剣がぶつかった後、すぐに剣を引いて下から切り上げて来る。くっ、大剣を使っているのになんて速さだ。


「ほらほらどうした? 炎姫の名が泣くぞ?」


 黒騎士はそう言いながら更に速度を上げて来る。まだ、本気では無いようだが、その油断が命取りになるぞ!


「フレイムウィップ!」


 私は空いている左手で炎の鞭を出す。そして、黒騎士の死角から足を狙って振る。しかし、黒騎士の足に触れた瞬間、炎の鞭は細切れにされてしまった。


「ほらっ!」


「ぐっ、きゃあっ!」


 うぅっ、炎の鞭が細切れにされたのに気を引かれて、黒騎士の大剣を受け損ねた。何とか、剣で防いだけど、威力は逃しきれずに王城の壁まで。


「ははっ、可愛らしい声も出るじゃ無いか。だが、自分の魔法が破られたくらいで、気を逸らしてはいけないな。ふむ、自分より強い者と戦うのが少ないのか? 惜しいな」


 吹き飛ばされた私にゆっくりと近づきながらそう言う黒騎士。今まで魔物相手でも引き千切られたことが無かったが、黒騎士にはいとも簡単に破られてしまった。


 ……ふふっ、こんな恐怖と同時に、高揚感を味わうなんていつぶりだろうか。この者相手になら手加減する必要もあるまい!


「はっ!」


 私は体を炎へと変えるようにに発動する。かなり魔力を消費するが、もう、手加減など出来ない。城を燃やさないように注意するだけだ。


「職技『魔道一体』」


 私が職技を発動すると、体が炎へと変貌し、紅色に変わる私の体。職技『魔道一体』。自身の体に魔法を合わせて、自然の力を得る事が出来る。


 私が得意なのは当然火魔法。そのため、体が自然と得意な火へと、炎へと変わっていく。


「ほう、炎姫など、噂程度だと思っていたが、『魔道一体』まで使えるとは。なるほどなるほど。二つ名は嘘ではなかったらしい。懐かしいな。その力を見ていると『紫電』を思い出す」


 私の姿を見て嬉しそうな声を上げる黒騎士。それに『紫電』というのは、400年ほど前に聖王国にいた伝説の魔法剣士では無いか? そんな者とも知り合いとは、この者は一体何者なのだ?


 いや、そんな事を考えている暇は無いな。私は相棒である剣を構える。魔剣では無いが、私が本気を出しても壊れる事のない私の右腕とも言ってもいい剣だ。その剣に高密度の炎を纏わせる、


「行くぞ!」


 私は真っ直ぐと黒騎士へと向かう。だが、先ほどの実力から言って、何も考え無しに攻撃を仕掛けても意味が無い事は分かっている。


 なので、牽制にはならないかもしれないが、まずは炎の矢を放つ。この姿になれば無演唱で放てるため、牽制にはもってこいなのだ。


 そして予想通りに、黒騎士にはこの程度は牽制にはならないようだ。黒騎士は大剣を振るう事なく、全ての炎の矢を掻き消してしまったのだ。おそらくだが、風の壁を見えないように作っているのだろう。


「その程度では私を止められないぞ! ウィンドカッター」


 逆に風の刃を放ってくる黒騎士。だけど、私も避けるような事はせずに真っ直ぐと進む。私に迫る刃は、寸分違わずに私の首や腕を切り裂く……が、私の体は炎、切り裂かれただけで、元に戻る。


 これが『魔道一体』の強みだ。物理攻撃も、魔法攻撃すらも効かない殆ど無敵の状態になる技。唯一ダメージを受けるのが、使用した属性の弱点となる属性のみダメージを受ける。


 私の火魔法の弱点となるのは水魔法。相手が水魔法を使わない限り、ダメージを受ける事は無い。


 更に黒騎士が大剣を振るってくるが、大剣は私の体を通り過ぎ、私は無傷。そのまま炎の槍を放つ。黒騎士は軽々と避けるが、少しずつ逃げ場を無くすように攻めて行く。


「うおおぉぉぉっ!」


「ははっ! その粋だぞ、炎姫! もっとだ。もっと見せてみろ!」


 幾重も迫る私の攻撃を笑いながら軽々と避ける黒騎士……くっ、私の本気でもそこまで差があるのか。王国でも上位であると言われた私ですら足元にも及ばぬとは。


 それから、更に猛攻を仕掛けても私の攻撃は当たる事も無く、黒騎士に翻弄されっ放しだった。気が付けば『魔道一体』は解除されて、私は吐きそうになる気持ちを無理矢理抑え付けていた。


「……もうやめて下さい、姫様! 私たちが押さえますから、今はお引き下さい!」


「そうです! おら、化け物たち! 俺たちが相手だ!」


 背後からそれぞれが声を上げる兵士たち。私は吐き気以上に彼等の言葉に泣きそうになるのを我慢する。そうだ、何を弱気になっているのだ、私は。例え私がいなくとも、彼等がいれば……。


 私は最後の魔力を全て剣へと集める。燃え盛る私の愛剣。これほどの熱量は耐え切れないかもしれないが、あの黒騎士を切るまでは耐えて欲しい。


「はぁ……はぁ……行くぞ黒騎士よ! はぁぁっ! バーンエッジ!」


「その心意気やよし! 真正面からねじ伏せる! 一剣奥義ソードワン・マスタリー暴虐風王バーサクエア!」


 黒騎士が攻撃を放った瞬間、私の愛剣はバラバラに切り裂かれ、私は視界が何度も上下左右変わり、気が付けば地面へと横たわっていた。


 剣を握ろうとも右腕は無く、左腕は手が無かった。立とうとも腰から下が無く、先程まで私が立っていた場所で倒れていた。


 私は先ほどの攻撃の余波で、城の壁が崩れる音を聞きながら視界が暗くなるのを待つしか無かった……。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品