世界に復讐を誓った少年

やま

31.罠

「……わかってはいたが、この光景はこの国の王子としてキツイものがあるな」


 私の眼前に広がる光景。隊列を組み整然と並ぶ姿がより悔しく感じる。本当なら私たちと共に並ぶべき仲間たち。その仲間たちへとこれから刃を向けなければいけないのだから。


「覚悟をして下さい、殿下」


「わかっている。我々も負けるわけにはいかないからな。準備は出来ているか、将軍?」


「はい、殿下。既に命令は出しております。後は最後の確認をするだけです」


「わかった。やってくれ」


 私の言葉を聞いた将軍が兵士たちへと指示を出す。そして、こちらから一騎馬に乗った兵士が、反乱軍の方へと向かっていく。


 兵士は我々の軍と反乱軍との間の中間地点で止まると、反乱軍へ最後の降伏勧告をする。これで降伏してくれればいいのだが……ここまでやって来てそんな事は無いか。反乱軍は勧告を無視して矢を放って来た。兵士には当たらなかったが、あれは明確な敵対行動だ。


「……残念だが、最後の勧告も撥ね付けられた。全軍、戦闘準備を」


 ここまで士気の上がらない戦いは初めてだな。それも当然といえば当然だが。同じ国の人間同士で争うのに士気が上がる方がおかしい。


「放てぇ!」


 そんな事を考えていたら将軍の号令により放たれる矢。弓兵隊が矢を放ったのか。反乱軍は盾を掲げるが……何だあれは。


 普通ならば矢を防ぐ時は何人か一組で隊を作り盾を合わせて大きな壁にするのだが、盾の掲げ方はバラバラ、盾と盾の間には隙間が出来、兵士に矢が刺さる。反乱軍を指揮している奴は馬鹿なのか?


「殿下、これは罠ですかな?」


「……わからない。わからないが、油断はせずに進ませろ。将軍の言う通り誘き寄せるための罠かもしれない……もしそうなら、それを考えた奴は最低だがな」


 私の言葉に頷く将軍。少しでも早くこの戦いを終わらせよう。こんな意味の無い事で兵士たち、我が国の民たちを傷付けるわけにはいかない。


 それから、少しずつ距離を縮めて行き反乱軍を包囲する。反乱軍の中には指揮官がいないのか、兵士たちは勝手に動き回るだけで、全くまとまっていない。良かったのは最初の隊列だけだ。


 全く反乱軍の意図がわからない。自ら宣戦布告した割には全く戦いにならない。何か、勝機があるから反乱した訳では無いのか?


「……殿下、どうします? この感じなら、降伏を再度勧めれば初めの頃よりは頷くと思いますが」


 どうするべきか。確かに将軍の言う通り反乱軍は既に壊滅状態だ。隊列など崩れているどころか、中には逃げ出す者もいる。軍なんてあってないようなものだ。


「そうだな、降伏する者は手厚く対応をするんだ。抵抗する者もなるべく殺さないように」


「わかりました」


 それから、将軍が指示を出して行き、反乱軍の大半が降伏をした。ここまで開戦から1時間も経っていない。そしてあっという間に反乱は鎮圧された。


 それから、残りは戦後処理のため私は陣に戻り、テントの中で書類を整理していると、将軍が入ってくる。因みにユネスは王都へと戻っている。この状況を父上に伝えるためだ。


「首謀者は?」


「それが、貴族たちは見つからず、この軍を率いていた大将は、普段は普通の町の中隊長をしているような男でした」


「何でそんな奴が大将を? ……取り敢えず連れて来てくれ」


 私の指示で将軍が連れて来たのは、確かに冴えない男だった。ずっとぶつぶつと「自分は悪く無い」や「無理矢理やらされたんだ」とか言っている。


「お前はなぜここに連れてこられたかわかっているな?」


「ま、待ってください、殿下! ち、ちがうのです! 私は無理矢理この役目を負わされたのです! 信じてください!」


「なら、お前にこのような事を命じた奴は誰だ? 侯爵か?」


「そ、それは……ぐぶっ?」


 私が捕らえた兵士に今回の首謀者について問いただそうとした時、突然兵士が苦しみ始めた。私の前に将軍が立ち何があっても動けるように庇ってくれる。その間も兵士は地面をのたうち回り苦しんでいる。


 そしてしばらくすると兵士ピクリとも動かなくなってしまった。


「……死んだのか?」


「わかりませぬが、私が確認しますので殿下はお下がりください」


 将軍はそう言うと慎重に兵士へと近づいていく。私も何かあれば直ぐに動けるように構えながら眺めていると、ガバッと勢い良く頭を上げる兵士。私たちは咄嗟に構えるが、そこから動かない。それもそうか、手足は縛っているのだから。そして


「ヤハリ、即席ノ軍デハ勝テナイカ」


 突然話し始める兵士。ただ、雰囲気からして先ほどまでの兵士では無い……誰かが乗り移っている? そんな魔法があるのか?


「……お前は誰だ? 今回の首謀者か?」


「コレハ始メマシテ、殿下。ソシテマンマトカカッテクレテアリガトウ」


 明らかに見下したように笑みを浮かべる兵士。いや、笑っているのは兵士では無いのだが、それでも切りたくなる。今は我慢しないと。こいつから少しでも情報を集めるために。


「オ礼ニプレゼントヲアゲルヨ。喜ンデモラエルトイイノダガ」


 兵士に乗り移った誰かがそう言った瞬間、外から人のものとは思えない叫び声が聞こえて来た。断末魔のような叫びが頭を揺らす。こ、これは!?


「サア、第2ラウンドト行コウジャナイカ。後ソレカラ、早ク王都ニ戻ッテ来ナイト王都無クナッチャウカラネ」


 それだけ言うと兵士はガクッと頭を下げて倒れてしまった。今度こそは本当に死んでしまったようだ。


 私と将軍は慌ててテントから出ると、外では戦いが始まっていた。それは先ほどまで戦っていた反乱軍ではなく、反乱軍の死体が動き出したゾンビたちに、地面から這い上がってくるスケルトン。そして、人間を何体も合わせたような巨大な化け物が。


「な、なんだこれは?」


 全く予想していなかった事態に逃げ惑う兵士たち。それもそうだ。命を懸けた戦いが終わって直ぐだ。気が緩んでいたところにこんな事が起きて、慌てるなって言う方が無理だ。


「とにかく、早くここを離れるぞ! 早く立て直せば倒せる数だ!」


「わかりました!」


 ……それに、首謀者の最後の言葉が気になる。王都で何かが起きているのか? ……くっ、悔しいが頼みましたよ、姉上。

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