世界に復讐を誓った少年

やま

29.次に向けて

「ふわぁぁ〜……もう朝か」


 窓から明るい太陽の光が射す中、僕は目が覚めた。まだ、完全に起きていない頭で辺りを見回す。すると、ぼーっとしている僕の左手が何か柔らかいものに挟まれる。左側を見ると


「うへへぇ〜……ハルトしゃま〜」


 と、僕の左手を抱きしめる様に、一糸纏わぬ生まれたままの姿でミレーヌが眠っていた。いつもは僕より早く起きているのだが、昨日は彼女の元仲間を殺したご褒美と、あの男に罵倒されて傷付いた心を癒すために少し激しくしちゃったからな。まだ、疲れているのだろう。


 柔らかい感触が名残惜しいけど、深い谷間から左手を抜く。僕の左手の感触が無くなったからか、ミレーヌは眉を顰めて悲しそうな顔をするが、頭を撫でてあげるとまたにへらぁ、と笑みを浮かべる。起きて……無いよね?


 でも、隣で気持ち良さそうに眠っている彼女を愛おしく思うほどに、僕自身やっぱり壊れてしまったんだと感じてしまう。


 隷属する前はただの肉塊にしか見えなかったこの柔らかい胸や、醜い豚にしか見えなかったこの顔も、とても綺麗で愛らしく見えるのだから。


 いや、元々はそう感じるのが正しかったのだろう。同じ女であるリーシャから見ても、ミレーヌは綺麗だと言われるほどだ。僕の見え方が変わってしまったのだろう。


 理由は簡単だ。何も縛っていない相手だと信用出来なくなっただけだ。その元凶は当然だが村での出来事だ。親しいと思っていた者たちにナイフで体中を刺され、好きだった人にも刺されたのだから。その上、目の前で殺される母さんを誰も助けてくれなかったのだから。


 だから、普通の相手は信用出来ない。いつ裏切るかわからないからな。それに比べたら、僕の魔力で復活したリーシャたちや、隷属で縛っているミレーヌは僕を裏切る事の無い僕の所有物だ。


 僕は昔から自分の物は大切にする主義だからね。当然、僕の物となったリーシャたちは大切に扱うし、ミレーヌにだって愛着は湧く。その代わり、僕の所有物を傷つける奴は絶対に許さない。


 ……そのせいで昨日飛び出しちゃったけど。ミレーヌの元仲間の男が、僕の大切な物を侮辱したから、ついイラっとして飛び出してしまった。本当は出る事なく見ているだけだったので、計画を少し狂わせた事にネロに怒られてしまったけど。まあ、後悔してないけどね!


 ただ、こんなにも早くミレーヌに手を出してしまったのは、無いなと自分でも思う。だけど、これは仕方ないと思う。あんな可愛い女の子が自ら体を引っ付けて来るんだぞ。童貞に抗えるわけがないだろう!


 僕は心の中でそんな事を叫びながら、ズボンだけ履いて部屋から出る。今僕が住んでいるのは町長が使っていた屋敷の隣にある別館だ。町長の屋敷は町長に使ってもらわないといけないから、こっちを使っている。


 部屋を出るとすぐリビングになっており、既にリーシャがフォークを両手に持って朝食を待っていた。


「おお、おはようマスター。昨日は激しかったな」


「……おい、その言い方やめろよ。恥ずかしいだろうが」


「別にいいでは無いか、本当の事なのだから。そんな事より、早く座ってくれ。ネロの奴がマスターがいないと朝食は出さないって言うんだ!」


「当タリ前デスヨ、リーシャサマ。我ラノ主デアル創造主ヨリ先ニ食ベルナドイケマセヌ」


 リーシャが文句を言っていると、奥の方からネロがお盆に料理を乗せてやって来た。今はもう見慣れたけどローブを着た骸骨がピンクのエプロンを着けているのは不思議で仕方ない。合わなすぎる。


 ネロは僕たちの中で家事全てが得意だ。掃除、洗濯、料理は勿論のこと、裁縫までこなしてしまう。


 今では家の事はネロが率いるスケルトン部隊に任せている。意志のないスケルトンでも、家事が出来る奴をどこからともなくネロが連れてくるんだよな。ネロ曰く、死ぬ前の技能は死しても身に染み付いているのだとか。


 ネロ以外にもスケルトンたちが次々と料理を運んでくる。僕もいつも座る位置に座り、目が覚めたミレーヌは僕の隣へと座る。ネロは食べられないため3人での食事だ。


「そういえば、捕らえた兵士たちはどうした?」


「奴ラノ殆ドハ死ンダタメソイツラハ配下ニシタ。奴ラヲ率イテイタ隊長タチハ、操リ領主ノ元ヘト帰シタ」


「よし、それじゃあ、結果が出るまで待機だな。この地の領主を手に入れたら周りの領主達を呼べ。段取りはネロに任せる。その後は国取りだ」


「了解シタ、創造主ヨ。ソノ命ヲ遂行シヨウ」


 ◇◇◇


 1週間後


「アトラ様! アトラ様!」


 執務室の外をドタバタと走る足音。そして勢い良く開けられた扉。私は眉を顰めながら扉の方を見る。扉を勢い良く開け入って来たのはシリューネ領団長だった……珍しいですね。彼がこんな慌てて入ってくるなんて。


「何かあったのですか?」


「港町フリンクに蔓延る死霊系の魔物の討伐に向かっていた隊が戻って来ました」


 だから慌てて部屋へと入って来たのですね。しかし、シリューネ領団長の表情が良くありません。これはまさか


「ただ、帰って来た者は200も満ちませんでした」


「どう言う事ですか!? あの町へと向かった人数は2千近く……」


「その殆どが殺されたようです!」


 私はシリューネ領団長の言葉で力なく座り込んでしまいました。冒険者の数を合わせての2千という数は、この領地での殆どの兵士の数になります。その殆どが殺されたとなれば……


「……ともかく、帰って来た者に会いましょう。どちらに?」


「こちらです」


 私はシリューネ領団長の後に続き部屋を出ます。シリューネ領団長に案内されて来たのは、屋敷の中庭でした。そこには全身傷だらけの兵士たちが座り込んでいました。


 皆、目に生気はなく、動く気力も無いといった感じです。その中で私たちに気が付いた兵士が1人やって来ます。彼は確か……今回の戦いの指揮を任せた兵士です。彼は私の前まで来ると膝をついて頭を下げて来ました。


「申し訳ございません。町を取り戻す事が出来ませんでした!」


 頭を地面に付けるほど下げる兵士。私は力が抜けそうになるのを何とか踏ん張ります。ここで倒れている暇はありません、何とか今後の事を考えないと。しかし、それを考える時間はありませんでした。


 力なく座り込んでいた兵士たちが、周りにいた兵士や侍女たちを襲い始めたのです。圧倒的に数で劣る私たち。私の前に立ち守ろうとしてくれるシリューネ領団長も10人近くの兵士たちに取り押さえられてしまいました。


「な、何をするのだ! 貴様!」


「命令……遂行……する」


 虚ろな目で私に近づく隊長……これは誰かに操られて……くっ、背後から私の腕を掴む兵士たち。私は動く事が出来ずその場に座らされる。そして、隊長の手には奴隷が付ける隷属の首輪が握られていた。


 私は抵抗する間も無くその首輪を付けられる。そして命令される。命令は周辺を治める領主を集めるも言うものだった。


 シリューネ領団長たちが目の前で殺される中、私は与えられた命令をこなす為に動くのだった。

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