世界に復讐を誓った少年

やま

26.とある冒険者の話(8)

「アァァァ!」


「近寄るんじゃねえよ!」


 俺は近寄ってくるゾンビを蹴り飛ばす。蹴られて怯んだゾンビが態勢を立て直す前に、剣を突き出し喉を突く。喉を突かれたゾンビは、俺を噛もうとしてくるが、噛まれないようにしながら押していく。


 それと同時に屋根の上から放たれる矢。俺は押しているゾンビの影に隠れて盾にする。ゾンビの体から伝わってくる矢が突き刺さる振動。危ねぇ、チラッと見えたから良かったものの、少しでも遅れたら当たっていたな。


「リンク、大丈夫か!?」


「ああ、大丈夫だ!」


 ゾンビに突き刺さった剣を抜きながら返事をする。後ろにはマリエを襲ってくる町人やゾンビたちから守るガンドが付いてくる。


 この町に入ってどれくらい時間が経ったのかはわからない。かなりの数のゾンビを倒して、町人たちを眠らせたかはわからないが、かなり倒したと思う。その代わり、俺もガンドたちも疲労や傷が増えていく。特にガンドは盾役だ。俺以上にキツイだろう。


「吹き飛べ」


 そんな中、近くゾンビを切り刻み、町人を吹き飛ばして気絶させる男。アラシが俺たちの先頭を歩いていた。二つ名に負けない程の風を剣に纏わせ、先を進んでいく。


 俺たちの数は町に入った頃に比べて3分の1まで減っちまったが、町の中央近くまで来る事が出来た。ミレーヌは多分だが町長のところにいるはずだ。


 このまま行けば突破出来る。そう思った時、何かが降って来た。ドスン! と大きな音を立てて降って来たそいつは、キョロキョロとし、獲物である俺たちを見つけると叫び出す。


「な、何よあいつ!?」


「あれは……町人を使ってやがるのか!」


 俺たちの目の前に現れた新たな魔物。そいつは、いくつもの人間の死体が重なり、無理矢理人の形になっている異形の化け物だった。体長は3mほどで、腕が異様に大きい。当然腕を作るのにも人間の死体が使われている。


「タ、タスケテ」


「イタイイタイイタイイタイ」


「コ、コロシテクレ」


 そして、動くはずのない死体の口から漏れる様々な声。彼らの声が聞こえてくる度に心が痛み気持ちが悪くなってくる。な、なんだこれ?


「っ! あの声は呪詛だわ! 心を強く持って!」


 後ろから、マリエの声が聞こえてくる。心を強く、か。俺は彼女を、ミレーヌを助ける。それに、こんな風に死者を弄ぶような奴には絶対に負けねぇ!


「フィジカルアップ!」


 俺は数少ない使える魔法、身体強化フィジカルアップを発動し、異形へと迫る。俺が走り出すと同時に迫る男、アラシも俺をチラッと見てから異形へと迫った。


 迫る俺たちを敵だと認知した異形は、大きな腕を振り上げる。かなりの質量がある腕が俺たちへと振り下ろされるが、俺とアラシは左右に分かれる。


 地面に腕がぶつかると地面は割れ、破片が辺りへと飛び散るが、俺たちはそのまま迫る。


「おらっ!」


「ふん!」


 アラシは地面に叩きつけられた腕を風を纏わせた剣で切り落とし、俺は異形の懐に入り脇腹を切り裂く。死体から断末魔が聞こえるが、俺は気にしないようにして、振り向き下から剣を振り上げる。


 異形は、痛いのかどうか知らないが叫び、俺たちを振り払うように残った腕を振るために回転する。俺とアラシは同じように腕を掻い潜るように姿勢を低くして、片足ずつ切り落とす。


 支えるものが無くなった異形は地面に倒れ込む。このまま押し切る、そう思った時、異形は今までと違った叫び声を上げた。まるで、助けを求めるかのような叫び声だ。


 そして、その考えは正しかった。その叫び声を聞いたゾンビたちが異形へと集まって来たのだ。敵の俺たちなど無視して異形へと跳びかかる。


「も、燃やし尽くせ、フレイムストーム!」


 今がチャンスだと思ったのか、マリエは自分が使える中で最強の魔法を放った。マリエが放った炎の竜巻によって、集まっていたゾンビたちは燃やされていく。


「アァァァアァァァ!」


 しかし、ゾンビたちにのしかかられていた異形が腕を振るい、炎の竜巻を搔き消してしまった。しかも、俺とアラシが切り落としたはずの腕と足が治ってやがる。その上、もう2本、腕が増えていた……もしかして、さっきゾンビを集めたのも、体を治すためだったのか?


「ちっ、厄介な敵だぜ。しかも、さっきの叫びのせいでゾンビどもも集まって来やがった」


 アラシの言う通り、さっきの異形の叫び声のせいか近くにいなかったゾンビたちも集まって来た。こりゃあやべえな。


「っ! リンク、避けろ!」


 そんな周りを見ていると、突然ガンドが叫び始める。ガンドの視線の先には異形が、そして手にはゾンビが握られていた。まさかっ!?


 予想通り次の瞬間、ゾンビが投げられた。しかも、かなりのスピードで。ガンドの声のおかげで咄嗟に避ける事が出来たが、避けられなかった兵士たちは巻き込まれて潰されてしまった。


 人間1人分の重さがある物体が飛んでくるのだ。とんでもないものだろう。くそっ、本当にやりづれえ。目の前には切っても治る異形に、その回復源であるゾンビども。そして、操られている町人たち。このままだと全滅しちまう。


 他のところはどうなっているか分からねえが、このままだと、逃げるのも視野にいれないと。くそっ、また逃げるのかよ、俺は。


 次々と球のようにゾンビを投げてくる異形。かなりのスピードでギリギリ避けているが、避けきれなかった兵士はぶつかり潰されていく。くそ、どうすれば、


「リンク、俺が奴の腕を防ぐ! その内に、奴を倒せ!」


「だけど、それじゃあ、お前が!」


「あいつを倒さねえと先に進めねえだろうが! 行くぞ!」


 そういったガンドは、異形へと盾を構えながら突っ込んで行く。職業が重戦士のガンドならもしかしたらあの異形の攻撃も耐えられるかも知らない。だが……考えている暇はねえ。もう既にガンドは異形の目の前だ。こうなったら、早めにあいつを倒すまでだ!


「マリエ! サポートを頼む!」


「わかったわ! スピード、ディフェンス、パワーエンチャント!」


 マリエの魔法が俺の体に当たり強化される。速度を上げた俺は、ガンドの後ろに付く。ガンドに向かって振り下ろされる異形の拳。ガンドは盾を掲げ、拳へとぶつける。


 ガン! と、大きな音が何度も聞こえて、同時にガンドの苦しむ声も聞こえてくる。だけど、ここで怯むわけにはいかない。なんとか踏ん張ってくれているガンドのためにも!


 俺はそのままガンドの横を通り過ぎて異形へと向かう。ガンドの後ろから突然現れた俺に、異形も反応が遅れる。


「行くぜ、職技『八連閃』!」


 魔法とは違う職業の持つ力、職技を発動する。俺の職業は剣士。当然、剣士から得られる職技は剣術に関する技ばかりだ。その中で俺が使える最高の技だ!


 職技を発動した俺の剣は異形の体を切り裂いて行く。4本の腕を切り裂き、胸元を十字に、首元をクロスさせるように。計8回の斬撃が異形を襲う。


 異形が反応する間も無く切ることが出来たが、疲労が体を襲う。魔法は魔力を消費するように、職技は体力を消費する。あまり連続して使えないのが難点だが、それを引いても職技は強い。


「やるじゃねえか」


 首を切り落とされ倒れた異形を見ていると、アラシが俺の背を叩きながらそんな事を言ってくる。ははっ、Aランクにそんな事を言ってもらえるなんて光栄だね。


 ガンドの方はマリエに治療して貰っていた。ミレーヌ程ではないが、マリエも治癒系の魔法が使えるからな。


 体力を回復させたいところだが、先へ進まないと。俺は疲労で悲鳴を上げている体に鞭を打って前へ進もうとする。だけど、動く事が出来なかった。


 その理由は目の前にある。ガンドが体を張って止めて、なんとか倒した異形が、俺たちの目の前に2体新たに姿を現したからだ。


 ゾンビたちだけでも厄介なのに、この異形も何体も出せるのかよ!?


「これは撤退するしか無いな」


 アラシがポツリと呟く。だけどそんなこと出来るわけない。ここまで来て退くなんて。今領主様が出せる限界の人数なんだぞ? その人数で勝てなかったら、もう国に頼るしか。でも、そんな事をしていたらミレーヌは……この考えが自分勝手なのはわかっている。だけど、だけど!


 その時、異形の間の地面に黒い影が現れた。俺もアラシも突然現れた影に警戒する。影の中からはカツン、カツン、と階段を登るかのような足音が聞こえてくる。そして、現れたのが黒いローブを着た人物。お前が


「ミレーヌを攫った奴か!!」


 俺は疲弊した体を無理矢理動かしてローブの奴に向かって走り出す。異形たちが阻もうとするが、1体はアラシが、もう1体はガンドとマリエが抑えてくれた。


 俺は真っ直ぐローブの奴を目指す。ローブの奴は迫る俺を見ても動く気配が無い。俺なんか眼中にないってか? その事を後悔させてやる!


「職技『天雷撃』!」


 剣を上段から一気に振り下ろす職技を発動。ローブの奴の頭上目掛けて剣が振り下ろされる。叩き潰す勢いで振り下ろされるが、それでも動く気配が無い。訳がわからないまま振り下ろしたが、その理由が直ぐにわかった。


 こいつは、避ける必要が無かったからだ。俺の剣を阻むように発動される障壁。それがあったから。それに、この障壁は見覚えがある。これは……


「ホーリーバースト」


 ローブの奴の背後から放たれる光の砲撃。俺は剣を防がれた障壁を利用して何とか砲撃を避けるが、後ろにいたゾンビや町人たちへと被弾し爆発した。なんて威力だよ。


 そして、ローブの奴の背後から現れたのは、全身黒色で金色のラインが入った特殊な修道服を着た俺たちの大切な仲間、ミレーヌが俺たちに手を向けながら現れたのだった。

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