世界に復讐を誓った少年
1.プロローグ
「おらっ! とっとと歩きやがれ、この悪魔が!」
そう言いながら僕の背を蹴り飛ばしてくる兵士。雨が降った後なので地面の土は水でドロドロ。その中に僕は倒れ込み、体中が泥で汚れるけど、誰も何も言わない。それどころかいい気味だと笑ってくる。
……どうして僕がこんな目に。ただ、1つ変わった職業を手に入れただけじゃないか! それなのに、たったそれだけなのにどうして僕は殺されなきゃいけないんだ!
◇◇◇
「ハルト、早く起きなさい! 今日は大切な日でしょ!」
バタンッ! と、大きな音と共に開けられる扉。僕の部屋に勢い良く入って来た人物、母さんは僕がかぶっていた布団を引っぺがす。
布団を頭まで被っていたため窓から入り込む太陽の光にも気が付かず、母さんが起こしに来るまで朝になっていた事に気が付かなかった。
「もう、ハルトが起きるのが遅いからステラちゃんとリーグくんはもう待ってるわよ!」
未だにウトウトとしていた僕だけど、母さんの言葉にギョッとする。僕は驚いた顔で母さんを見るけど
「何度も起こしたわよ。でも、後5分、後5分って起きなかったんじゃない。もう、12歳になるんだから1人で起きて欲しいわ」
色々と小言を言ってくるけど、今の僕はそれどころじゃなかった。慌てて布団から飛び出して顔を洗いに行く。水桶は家の外にあるため外に出ると、母さんの言っていた通り、既に2人は待っていた。
僕が住む村で同い年の幼馴染。ステラとリーグだ。彼らは家から慌てて出て来た僕を見てそれぞれの表情を浮かべていた。
「やっぱり私の言った通りね、ハルト。ワクワクして眠れなくなるって」
家の前にある高さの低い石垣に乗ってくすくすと笑ってくるステラ。太陽の光がステラの腰まで伸びた銀髪をキラキラと輝かせる。村1番どころか、僕たちが住む村がある領地の中でも1番の美人だと言われるほどの容姿をしている、僕がずっと心に思っている初恋の相手だ。
その隣にはイライラとした表情を浮かべるリーグが背を石垣に預けて僕を睨んでくる。彼は村1番の剣術の使い手で、魔法も得意、更に容姿はステラの隣に並んでも違和感が無いほど、逆にお似合いと思ってしまうほどのイケメン。
村の中では1番出世すると言われている。僕なんかとは大違いだ。僕は普通の村人、それどころかみんなにはどこか抜けていると言われるほどだ。現に、大事な日に寝坊してしまったし。
「お前は昔からそうだ。大事な時ばかり問題を起こす。さっさと支度をしろよ。お前を待っていたせいで、馬車に乗れなかったら許さないからな」
「ご、ごめんって。直ぐに用意するから」
怒鳴るリーグに謝りながら僕は顔を洗い、部屋へと戻る。戻る途中で母さんが朝ごはんがどうとか言ってくるけど、それを食べている時間はない。
念のために昨日の内に準備していて良かった。直ぐに用意していた服に着替えて荷物を担ぐ。荷物と言っても、馬車で2時間ほどのこの村から一番近い町に行くだけだから、そんな大したものは無いのだけど。
着替え終えると直ぐに家を出る。母さんには行ってきますと言うだけで家を出たのだけど、まさか、これが最後の行ってきますになるなんてこの時は思ってもみなかった。
慌てて家を跳び出ると、用意を出来た僕を見たステラは、よっ、と石垣から跳び下り、リーグは、ふん、と腕を組みながら先に歩いて行く。
「ご、ごめんね、ステラ。待たせちゃって」
「ふふ、別に構わないわよ。それより寝癖が付いてるわよ。直してあげるから少し頭を下げて」
僕は言われるがまま頭を下げると、ステラは魔法で濡らした手で優しく頭を撫でてくれる。その時、近寄ったステラから甘い香りが漂ってくる。僕はバレないようにドキドキとしていると、チッ、と舌打ちが聞こえてくる。
恐る恐る前を向くと、リーグが忌々しそうに僕を睨んでいた……いつからだったかな、リーグが僕を敵視するようになったのは。昔は3人で仲良く遊んでいたのに。
そんな事がありながらも村の中央に向かうと、町に向かうための馬車が3台並んでおり、この辺りの村の子供たちや親が集まっていた。子供は今年は僕たち合わせて13人。例年に比べたら多い方だ。
親たちはそれぞれの子供たちに頑張れと声をかけて行く。当然、ステラやリーグたちにもだ。特に村で期待されているリーグは村長たちからも声をかけられている。
僕はその光景を見ているだけ。母さんは来ない。父さんが僕が小さい時に死んでから、ずっと1人で僕を育ててくれた。今は近くの森で取れる薬草などを取って村で薬剤師として何とか生活が出来ている。
今頃森に向かっているはずだ。朝から夜遅くまで働き詰めの母さん。そんな母さんを安心させるために、今回の天啓では少しでもいい職業を手に入れたい。
僕たちが住むこの世界では、神から与えられる『職業』と言うものがある。職業と言っても、実際に働くものではなくて、その人の資質のようなものだ。
例えば、国に使える兵士でも職業が剣術士の人もいれば槍術士の人もいたり。村人でも農民や狩人など様々な物がある。あくまでもその人の資質なのでその職業に合った仕事をしなければならないと言うことではない。
農民でも商人の人はいるし、剣術士などの戦闘系の職業を持っていなくても兵士になる事は出来るし。
僕は出来れば狩人みたいな森に入っても活躍出来る職業がいい。そうすれば、母さんが無理して危険な森に入る事も無く仕事が出来るからね。
どうやら僕たちが最後だったみたいで、村長が全員集まったのを確認すると、順番に馬車に乗せて行く。僕も乗ろうとすると、後ろから肩を掴まれて引っ張られる。
僕は尻餅をついて顔を上げると、さっきまで僕がいた場所にはニヤニヤと笑みを浮かべた巨大な男の子がいた。後ろにはその取り巻きが3人いて、3人も同じように笑みを浮かべていた。
彼は村長の息子であるレグル。12歳なんだけど身長が180手前まであって、横幅も僕が2人並んだぐらいの大きさの、僕たちの年代のリーダーである。
「ふん! とろとろと鈍臭い奴が俺様より早く乗ろうとするんじゃねえよ!」
レグルはそう言うと唾を吐いて馬車へと乗って行った。僕は痛むお尻を押さえながら立ち上がる。
溜息を吐きながら空を見上げると、雲が厚くなって暗くなっていた。今にも雨が降り出しそうな雲空だ。その空はまるで僕の未来を表すかのようだった。
そう言いながら僕の背を蹴り飛ばしてくる兵士。雨が降った後なので地面の土は水でドロドロ。その中に僕は倒れ込み、体中が泥で汚れるけど、誰も何も言わない。それどころかいい気味だと笑ってくる。
……どうして僕がこんな目に。ただ、1つ変わった職業を手に入れただけじゃないか! それなのに、たったそれだけなのにどうして僕は殺されなきゃいけないんだ!
◇◇◇
「ハルト、早く起きなさい! 今日は大切な日でしょ!」
バタンッ! と、大きな音と共に開けられる扉。僕の部屋に勢い良く入って来た人物、母さんは僕がかぶっていた布団を引っぺがす。
布団を頭まで被っていたため窓から入り込む太陽の光にも気が付かず、母さんが起こしに来るまで朝になっていた事に気が付かなかった。
「もう、ハルトが起きるのが遅いからステラちゃんとリーグくんはもう待ってるわよ!」
未だにウトウトとしていた僕だけど、母さんの言葉にギョッとする。僕は驚いた顔で母さんを見るけど
「何度も起こしたわよ。でも、後5分、後5分って起きなかったんじゃない。もう、12歳になるんだから1人で起きて欲しいわ」
色々と小言を言ってくるけど、今の僕はそれどころじゃなかった。慌てて布団から飛び出して顔を洗いに行く。水桶は家の外にあるため外に出ると、母さんの言っていた通り、既に2人は待っていた。
僕が住む村で同い年の幼馴染。ステラとリーグだ。彼らは家から慌てて出て来た僕を見てそれぞれの表情を浮かべていた。
「やっぱり私の言った通りね、ハルト。ワクワクして眠れなくなるって」
家の前にある高さの低い石垣に乗ってくすくすと笑ってくるステラ。太陽の光がステラの腰まで伸びた銀髪をキラキラと輝かせる。村1番どころか、僕たちが住む村がある領地の中でも1番の美人だと言われるほどの容姿をしている、僕がずっと心に思っている初恋の相手だ。
その隣にはイライラとした表情を浮かべるリーグが背を石垣に預けて僕を睨んでくる。彼は村1番の剣術の使い手で、魔法も得意、更に容姿はステラの隣に並んでも違和感が無いほど、逆にお似合いと思ってしまうほどのイケメン。
村の中では1番出世すると言われている。僕なんかとは大違いだ。僕は普通の村人、それどころかみんなにはどこか抜けていると言われるほどだ。現に、大事な日に寝坊してしまったし。
「お前は昔からそうだ。大事な時ばかり問題を起こす。さっさと支度をしろよ。お前を待っていたせいで、馬車に乗れなかったら許さないからな」
「ご、ごめんって。直ぐに用意するから」
怒鳴るリーグに謝りながら僕は顔を洗い、部屋へと戻る。戻る途中で母さんが朝ごはんがどうとか言ってくるけど、それを食べている時間はない。
念のために昨日の内に準備していて良かった。直ぐに用意していた服に着替えて荷物を担ぐ。荷物と言っても、馬車で2時間ほどのこの村から一番近い町に行くだけだから、そんな大したものは無いのだけど。
着替え終えると直ぐに家を出る。母さんには行ってきますと言うだけで家を出たのだけど、まさか、これが最後の行ってきますになるなんてこの時は思ってもみなかった。
慌てて家を跳び出ると、用意を出来た僕を見たステラは、よっ、と石垣から跳び下り、リーグは、ふん、と腕を組みながら先に歩いて行く。
「ご、ごめんね、ステラ。待たせちゃって」
「ふふ、別に構わないわよ。それより寝癖が付いてるわよ。直してあげるから少し頭を下げて」
僕は言われるがまま頭を下げると、ステラは魔法で濡らした手で優しく頭を撫でてくれる。その時、近寄ったステラから甘い香りが漂ってくる。僕はバレないようにドキドキとしていると、チッ、と舌打ちが聞こえてくる。
恐る恐る前を向くと、リーグが忌々しそうに僕を睨んでいた……いつからだったかな、リーグが僕を敵視するようになったのは。昔は3人で仲良く遊んでいたのに。
そんな事がありながらも村の中央に向かうと、町に向かうための馬車が3台並んでおり、この辺りの村の子供たちや親が集まっていた。子供は今年は僕たち合わせて13人。例年に比べたら多い方だ。
親たちはそれぞれの子供たちに頑張れと声をかけて行く。当然、ステラやリーグたちにもだ。特に村で期待されているリーグは村長たちからも声をかけられている。
僕はその光景を見ているだけ。母さんは来ない。父さんが僕が小さい時に死んでから、ずっと1人で僕を育ててくれた。今は近くの森で取れる薬草などを取って村で薬剤師として何とか生活が出来ている。
今頃森に向かっているはずだ。朝から夜遅くまで働き詰めの母さん。そんな母さんを安心させるために、今回の天啓では少しでもいい職業を手に入れたい。
僕たちが住むこの世界では、神から与えられる『職業』と言うものがある。職業と言っても、実際に働くものではなくて、その人の資質のようなものだ。
例えば、国に使える兵士でも職業が剣術士の人もいれば槍術士の人もいたり。村人でも農民や狩人など様々な物がある。あくまでもその人の資質なのでその職業に合った仕事をしなければならないと言うことではない。
農民でも商人の人はいるし、剣術士などの戦闘系の職業を持っていなくても兵士になる事は出来るし。
僕は出来れば狩人みたいな森に入っても活躍出来る職業がいい。そうすれば、母さんが無理して危険な森に入る事も無く仕事が出来るからね。
どうやら僕たちが最後だったみたいで、村長が全員集まったのを確認すると、順番に馬車に乗せて行く。僕も乗ろうとすると、後ろから肩を掴まれて引っ張られる。
僕は尻餅をついて顔を上げると、さっきまで僕がいた場所にはニヤニヤと笑みを浮かべた巨大な男の子がいた。後ろにはその取り巻きが3人いて、3人も同じように笑みを浮かべていた。
彼は村長の息子であるレグル。12歳なんだけど身長が180手前まであって、横幅も僕が2人並んだぐらいの大きさの、僕たちの年代のリーダーである。
「ふん! とろとろと鈍臭い奴が俺様より早く乗ろうとするんじゃねえよ!」
レグルはそう言うと唾を吐いて馬車へと乗って行った。僕は痛むお尻を押さえながら立ち上がる。
溜息を吐きながら空を見上げると、雲が厚くなって暗くなっていた。今にも雨が降り出しそうな雲空だ。その空はまるで僕の未来を表すかのようだった。
コメント
seabolt
始まりから、立場の弱い少年が中心、なんかワクワクします。