異世界で彼女を探して何千里?

やま

57.旅立ち

「……そうか。クリアが行ってしもうたか」

「……申し訳ありません。クリアさんが亡くなったのは俺のせいです。俺に力が足りなかったばかりに、クリアさんが身代わりになって」

 俺は目の前に座るギルアンさんに頭を下げていた。あの戦争から1週間が経った頃。俺はティリアたちと別れて、再びギルアンさんの家へとやって来ていた。

 理由は、戦争で俺の身代わりとなって亡くなったクリアさんのお墓を作りたかったからだ。体は力として俺の中に流れたため、何も残っていないが、彼女の剣だけでもこの土地に帰したくて来た。

 同時に祖父であるギルアンさんに説明と、謝罪をするために。ギルアンさんはすぐに帰ってきた。俺の予想通り、主戦場となった場所も、あの宣言のせいで停戦し、そのまま終戦したため、帰って来たみたいだ。

 そこに、クリアさんの姿がない事に気が付いたギルアンさんに、戦争の時の話をして今に至る。側ではフランたちが心配そうに寄り添ってくれる。

「クリアは後悔してなかったか?」

「後悔……ですか?」

「うむ。ゼスト、そなたの代わりになって死んでいく事に後悔はしておらんかったか?」

「……わかりません。でも、俺に会えて良かったとは言ってくれました」

「そうか。わし以外の人間を嫌ってあったクリアがのう。それは良かった」

 俺の話を聞いて満足そうに頷くギルアンさん。それからしばらく沈黙が続いたが、俺は帰るよう促された。俺が戦争が終わってからそのままここに来た事を話したからだ。父上たちが心配しているだろうからと、言われたのだ。

 理由はそれ以外にもあるだろうが、それを言うつもりはない。ギルアンさんも孫が亡くなったんだ。俺なんかより辛いはずだ。

 それから俺はフランたちを連れて、転移で久し振りの実家へと帰って来た。

 1年と少し振りに帰って来た俺に、母上は号泣で抱きついて来た。どうやら、セリーネから戦争に参加した事を聞いたようで、余計に泣かれてしまった。

 戦争に参加していた父上や母上、兄上も大きな怪我は無いようで、みんな元気そうで良かった。どうやら、始まったばかりで、あまり激しい戦いは無かったようだ。

 大方、俺が駆けつけた補給部隊を殲滅してから、挟み撃ちにしようとしていたのだろう。魔族側もそのため兵力を温存していたようだ。

 それから、全員が生きて帰って来た事のお祝いをし、その日の夜、俺は父上に呼び出された。目の前に座る父上。俺も先に座ると、父上は口を開いた。

「あの神とやらが話した話は覚えているか?」

「はい、勿論です」

 俺はもろに関係者だからな。覚えていないわけがない。あれのせいで、俺たちはこの世界に来たのだから。

「国も神のかけらとやらを持つ者を探すようだ。私もその任を受けた。……ゼスト、そのかけらについて何か知っていないか?」

 ……流石にそう言う質問されるとは思っていなかった。俺が関わっていると気が付いたのだろうか? 

「どうして、って顔をしているな。色々とあるが、1番はお前の目的を聞いたからだ」

「俺の目的……ですか?」

「ああ。お前が人を探しに他大陸に行きたいと言った事だ。普通なら学園の授業などで他大陸の事を聞けば、命を懸けて行こうと言う者はおらん。それなのに、お前はどうしても行きたいと、俺を倒してでも行くと言う程だ。それに、お前の持つ固有魔術、それも、神のかけらとやらが関係しているのではと思ってな」

 まさか、そこまで言い当てられるとは。ここまでバレているのなら隠しても仕方ないか。俺はあの神に転生させられた事を話す。

 記憶の事を話すかどうか迷ったが、この事を話さなければ、俺が他大陸に行く理由も話せない。どんな風に思われるか怖かったけど、父上に全て話した。

「……前世の記憶を持ったままこの世界に転生か。それで、前世の思い人に会うために他大陸に渡りたかったのか」

「はい。ただ、今はそれも迷っています」

 そこで、魔王レグルスとの話をする。彼が俺と同じ転生者で、前世の事には区切りを付けて、この人生を歩んでいる事を。

「もしかしたら、その想い人も同じように生きているかもしれないというのが不安なのか?」

 父上の言葉に俺は頷く。女々しいかもしれないけど、万が一みなみを見つけても、もうすでにこの世界で好きな相手が出来ているかもしれない。

 今までは探しに行こうと思っていたけど、レグルスと出会った事で、その事を自覚してしまったのだ。前世の事は前世の事として区切りを付けて、この世界で生きている事を。

 それをみなみの口から言われたらと思うと、今までのように行きたいと思わなくなってしまったのだ。その事を告げると、父上にため息を吐かれてしまったが。

「それでも、会わなければわからんだろうが。もしかしたらお前の事を思っているかもしれんし、お前の言う通り既に相手がいるかもしれん。だが、会わない事にはその事はわからないんだぞ。それに、あの神の言葉通りなら、死ぬ可能性だってある。お前はそれでもいいのか?」

「俺は……」

「ええいっ! 迷うぐらいなら行って玉砕して来い! そのために修行したのだろうが! それに、お前のために亡くなったエルフの少女との約束は良いのか? ハーフを助けると約束したのだろ? 何を迷う必要がある」

「……父上」

「私を倒してまで行こうとした気持ちはどうした。その程度でティリアと別れようとしたのか?」

 真剣な眼差しで俺を見てくる父上。そうだよな。会う前から弱気になってどうするんだよ、俺は。それに、本当にみなみの事が好きなら、彼女の幸せを考えてその時は諦めてあげるべきだよな。

「決まったのなら、ティリアには話しておくのだぞ。最悪、刺される覚悟もしておくのだな」

 そう言って笑う父上。確かに、俺が他の大陸に行く理由が、前世の女に会いに行くなんて言ったら、普通だったらそうなるよな。でも、ケジメとしては話さないと。

 俺は父上と話をした次の日にティリアに会いに行き、父上に話した同じ内容の事をティリアへと話した。ティリアになんて言われるかこわかったけど、返って来た言葉は「待っている」だった。

 俺はいつ帰れるかわからないし、争いに巻き込まれて死ぬかもしれない事を伝えたが、それでも待っていると。

「それに、前世の女かは知らないけど、負けるつもりは無いから!」

 と、言われてしまったら、もう何も言えないよな。あの時のティリアの覇気は、父上以上だった。

 それから、俺は旅立つ準備を1ヶ月ぐらいかけてした。色々な人に挨拶もしないといけなかったしな。

 旅に行くのは俺と相棒たちのフラン、フリューレ、フラムだ。見送りは無い。前日に全て済ませているからな。

 早朝、誰もいない中、俺は門へと辿り着いた。ただ、門には

「来たな、ゼスト」

 何故か、ディッシュが待っていた。明らかに旅に出る用の荷物を持って。

「どうして、ディッシュが?」

「決まっているだろ? お前についていく為だよ」

 そう言って笑うディッシュ。俺は止めようと口を開こうとしたが、ディッシュの目が真剣だったの見てやめた。どうせ俺が止めたってこいつは付いてくるだろう。それなら、言っても意味が無い。

「脱落するなよ?」

「お前こそ、振られて落ち込むなよ?」

 俺とディッシュは言い合いながらも笑う。

 ……みなみ。どのような、事が起きても絶対にお前に会いに行く。どのような結末だろうと受け入れてやる。

 俺は決意を改めて門をくぐる。まずは獣人大陸。そこで、獣人大陸にいる山岡に会いに行く。もう、俺の事は忘れているかもしれないが、他の転生者について何か手掛かりを知っているかもしれない。

「みんな、行こう」

「ワウッ!」

「コン!」

「キュー!」

「おう!」

 何があろうと、突き進んでやる。クリアさん、見ていて下さいね。あなたの分まで、俺は生きて目的を果たします!

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