異世界で彼女を探して何千里?
49.奇襲
「……ふう、支援準備っていうのも案外暇なもんだよな」
俺は周りを見ながら1人で呟く。魔人大陸との国境へとやって来て、1週間近くが経ったが、毎日食料や矢の輸送準備ばかりで、少し飽きて来てしまった。
別に戦いに行きたいというわけじゃないが、少しぐらい変化があってくれても良いんじゃないのかと思うのだが。そんな事を考えていると
「ディッシュ、手を抜かずにちゃんとやっているか?」
と、声をかけられる。振り返るとそこには、グレル先生とティリアが立っていた。
「お疲れ様です、グレル先生。ティリアもお疲れさん。手を抜かずにちゃんとやっていますよ。ただ、少し刺激が欲しいと思わなくもないですが」
「馬鹿野郎、この何も起こらない平穏な日々が良いんじゃねえか。先陣なんか行ってみろ。今頃血みどろの殺し合いをやっているところだぜ。出来れば、お前らには経験して欲しくはないものだ」
少し遠いところを見るグレル先生。そういえば、グレル先生は近衛兵団の元副団長だったな。少し不謹慎な事を言ってしまった。
「すみません、グレル先生。不謹慎でした」
「別に謝る事はねえ。ただ、気だけはぬくなよ。いくら後陣だからといっても、全く危険が無いわけじゃねえ。何が起こるかわからないのが戦争だからな」
グレル先生はそれだけ言うと、別のところへ向かってしまった。残ったティリアは呆れた風に俺を見てくる。
「……なんだよ?」
「別になんでも無いわ。あなたの気持ちはわからなくはないけど、あまり口に出すもんじゃないわよ」
「わかっているよ。ついぽろっと出ちまったんだ。今は反省しているよ。それでティリアはどうしたんだよ?」
「……私はさっきまでグレル先生のお手伝いをしていたのよ。それも終わって手が空いているだけ」
ティリアはそれだけ言うと、はぁ、とため息を吐く。この戦争に選ばれてから増えたため息。まあ、何に対してのかはティリアを知っている者からすれば丸わかりなんだが。
「そんなにゼストの事が心配だったら、来なきゃ良かったじゃねえか」
「……うるさいわね。確かにゼストの事は心配だけど、彼を理由に徴兵を断ったりはしないわよ。確かに心配だけど!」
心配なんじゃねえか。別に断っても良いと思うけどな。それからしばらくティリアと話していると、クラスの奴らが集まって来た。みんなも仕事を終えたようだ。
「しかし、暇っすね。戦いなんて嫌っすけどこれだけやる事がないのも辛いっす」
眼鏡を布で拭きながらそう呟くエマ。確かにここに来てからは準備ばかり。話に聞くと先陣は既に魔族と戦いが始まっていると聞くし。エマの言う通り戦うのは嫌だが、やる事が無いのも辛い。
ただ、こんな考えをしたせいなのか、この平穏が直ぐに崩された。
みんなで話している最中に、巨大な結界が俺たちがいる街を覆い尽くしたのだ。そして、その結界の頂点の空間には穴が空き、そこから人族とはかけ離れた姿の人たちが現れた。
姿は人それぞれ、角が生えている者や翼がある者、スライムのようにドロドロとした者など様々な姿をしているが、皆一様に同じなのが真っ赤に染まる目だ。あの目から否が応でも魔人が現れたのがわかる。
その中でも一際赤く輝く目を持つ男。その男が他の魔人たちから1歩前に出る。
「俺の名は魔王レグルス。レオルギス王国の魔王だ。俺がここにいる理由は言わなくともわかっているだろう。お前たち人族の精鋭たちが我が軍と戦っているうちに、後続を絶たせてもらう。やれ」
魔王と名乗った男が命令を下した瞬間、放たれる魔術の雨。1発1発が中級以上の威力を持つ魔術に、準備をしていなかった兵士たちは次々とやられていく。
体を焼かれ、石に貫かれ、水に押しつぶされ、風に切り裂かれ、なすすべも無く殺されていく。さっきまで平穏だった光景が、瞬く間に血に赤く染まる光景へと変わった。辺りに漂う血の匂いに、慣れていないメアリーやエマが嘔吐する。
いつもなら心配するところだが、今はそれどころじゃ無い。この降り注ぐ死の雨から逃げなければならない。嘔吐する2人を俺とゼリックが抱きかかえて、魔術を避ける。
カインズとメイリーンが魔術で壁を作ってくれるが、容易く突破されてしまう。
魔術が止んだ頃には、無事原型を保っている建物は無く、瓦礫に変わり、さっきまで歩いていた人が死体となって横たわっていた。
クラスメイトの半数近くが同じように……。本当ならクラスの奴らのところへ行きたかったが、奴らが許してくれなかった。
「今ので3分の1は死んだか。それでも3万ほどか。おまえたちならいけるよな?」
「勿論だぜ、レグルス。お前と一緒に強くなって来た俺たちが人族に負けるわけがねえだろ?」
「そうだな。お前たち、奴らを蹂躙しろ!」
1千人近くいる魔人たちが四方に散らばり襲いかかってくる。こちらにも来た!
「カインズッ!! メイリーンたちを連れて逃げろぉ!!!」
今まで飄々としてやる気を出さなかったゼリックが、真剣な表情で得意の槍を構えながら叫ぶ。こちらには魔王と名乗った男と話していた男、6本腕の男がやって来た。くそ、見るからにあの中でも上位の強さを持っているじゃねえか。
ドドドォン! 地面を大きく揺らしながら着地する男。その衝撃だけで吹き飛ばされそうになるが、耐える。
「お前らのような若い奴を殺すのは忍びないが、これも戦争だ。参加した自分らを恨め」
対峙するだけで震えそうになるほどの威圧感だが、ここは踏ん張らねえとな。あいつの代わりに、ティリアを守らねえと。
俺は周りを見ながら1人で呟く。魔人大陸との国境へとやって来て、1週間近くが経ったが、毎日食料や矢の輸送準備ばかりで、少し飽きて来てしまった。
別に戦いに行きたいというわけじゃないが、少しぐらい変化があってくれても良いんじゃないのかと思うのだが。そんな事を考えていると
「ディッシュ、手を抜かずにちゃんとやっているか?」
と、声をかけられる。振り返るとそこには、グレル先生とティリアが立っていた。
「お疲れ様です、グレル先生。ティリアもお疲れさん。手を抜かずにちゃんとやっていますよ。ただ、少し刺激が欲しいと思わなくもないですが」
「馬鹿野郎、この何も起こらない平穏な日々が良いんじゃねえか。先陣なんか行ってみろ。今頃血みどろの殺し合いをやっているところだぜ。出来れば、お前らには経験して欲しくはないものだ」
少し遠いところを見るグレル先生。そういえば、グレル先生は近衛兵団の元副団長だったな。少し不謹慎な事を言ってしまった。
「すみません、グレル先生。不謹慎でした」
「別に謝る事はねえ。ただ、気だけはぬくなよ。いくら後陣だからといっても、全く危険が無いわけじゃねえ。何が起こるかわからないのが戦争だからな」
グレル先生はそれだけ言うと、別のところへ向かってしまった。残ったティリアは呆れた風に俺を見てくる。
「……なんだよ?」
「別になんでも無いわ。あなたの気持ちはわからなくはないけど、あまり口に出すもんじゃないわよ」
「わかっているよ。ついぽろっと出ちまったんだ。今は反省しているよ。それでティリアはどうしたんだよ?」
「……私はさっきまでグレル先生のお手伝いをしていたのよ。それも終わって手が空いているだけ」
ティリアはそれだけ言うと、はぁ、とため息を吐く。この戦争に選ばれてから増えたため息。まあ、何に対してのかはティリアを知っている者からすれば丸わかりなんだが。
「そんなにゼストの事が心配だったら、来なきゃ良かったじゃねえか」
「……うるさいわね。確かにゼストの事は心配だけど、彼を理由に徴兵を断ったりはしないわよ。確かに心配だけど!」
心配なんじゃねえか。別に断っても良いと思うけどな。それからしばらくティリアと話していると、クラスの奴らが集まって来た。みんなも仕事を終えたようだ。
「しかし、暇っすね。戦いなんて嫌っすけどこれだけやる事がないのも辛いっす」
眼鏡を布で拭きながらそう呟くエマ。確かにここに来てからは準備ばかり。話に聞くと先陣は既に魔族と戦いが始まっていると聞くし。エマの言う通り戦うのは嫌だが、やる事が無いのも辛い。
ただ、こんな考えをしたせいなのか、この平穏が直ぐに崩された。
みんなで話している最中に、巨大な結界が俺たちがいる街を覆い尽くしたのだ。そして、その結界の頂点の空間には穴が空き、そこから人族とはかけ離れた姿の人たちが現れた。
姿は人それぞれ、角が生えている者や翼がある者、スライムのようにドロドロとした者など様々な姿をしているが、皆一様に同じなのが真っ赤に染まる目だ。あの目から否が応でも魔人が現れたのがわかる。
その中でも一際赤く輝く目を持つ男。その男が他の魔人たちから1歩前に出る。
「俺の名は魔王レグルス。レオルギス王国の魔王だ。俺がここにいる理由は言わなくともわかっているだろう。お前たち人族の精鋭たちが我が軍と戦っているうちに、後続を絶たせてもらう。やれ」
魔王と名乗った男が命令を下した瞬間、放たれる魔術の雨。1発1発が中級以上の威力を持つ魔術に、準備をしていなかった兵士たちは次々とやられていく。
体を焼かれ、石に貫かれ、水に押しつぶされ、風に切り裂かれ、なすすべも無く殺されていく。さっきまで平穏だった光景が、瞬く間に血に赤く染まる光景へと変わった。辺りに漂う血の匂いに、慣れていないメアリーやエマが嘔吐する。
いつもなら心配するところだが、今はそれどころじゃ無い。この降り注ぐ死の雨から逃げなければならない。嘔吐する2人を俺とゼリックが抱きかかえて、魔術を避ける。
カインズとメイリーンが魔術で壁を作ってくれるが、容易く突破されてしまう。
魔術が止んだ頃には、無事原型を保っている建物は無く、瓦礫に変わり、さっきまで歩いていた人が死体となって横たわっていた。
クラスメイトの半数近くが同じように……。本当ならクラスの奴らのところへ行きたかったが、奴らが許してくれなかった。
「今ので3分の1は死んだか。それでも3万ほどか。おまえたちならいけるよな?」
「勿論だぜ、レグルス。お前と一緒に強くなって来た俺たちが人族に負けるわけがねえだろ?」
「そうだな。お前たち、奴らを蹂躙しろ!」
1千人近くいる魔人たちが四方に散らばり襲いかかってくる。こちらにも来た!
「カインズッ!! メイリーンたちを連れて逃げろぉ!!!」
今まで飄々としてやる気を出さなかったゼリックが、真剣な表情で得意の槍を構えながら叫ぶ。こちらには魔王と名乗った男と話していた男、6本腕の男がやって来た。くそ、見るからにあの中でも上位の強さを持っているじゃねえか。
ドドドォン! 地面を大きく揺らしながら着地する男。その衝撃だけで吹き飛ばされそうになるが、耐える。
「お前らのような若い奴を殺すのは忍びないが、これも戦争だ。参加した自分らを恨め」
対峙するだけで震えそうになるほどの威圧感だが、ここは踏ん張らねえとな。あいつの代わりに、ティリアを守らねえと。
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