異世界で彼女を探して何千里?

やま

42.狂っている男

「キュル? キュルル」


 風圧に吹き飛ばされた子竜は、よたよたと自身の母親であった白竜の元へと向かう。既に首は切り落とされ遺体となってしまった白竜へと、鳴きながら擦り寄る子竜だが、当然動く事は無い。


 白竜の遺体の上に乗ってペチペチと叩いたり、動かそうと押したりするが、勿論動かない。あの子も気がついているはずだ。だけど、認めたく無いのだろう。子竜の涙を流す目を見ればわかる。


 俺はこれ以上、あんな悲しい姿を見ている事は出来なかった。涙を流す子竜へと近付こうとすると、俺と子竜の間に割り込むように入って来る影。


「そういえばまだ君がいたんだね。ここで悪の血は根絶やさなければ」


 俺と子竜との間に割り込んで来た影、金髪の男は、子竜に向かって剣を振り下ろしていた。こいつ何をしているんだ!


 俺は直ぐに風魔の短剣を握り滑り込ませるように子竜と男の間に入る。そして、振り下ろされる剣を短剣で防ぐ。


「てめえ、何しやがる!」


「君こそ何をしているんだ。邪魔をするな」


 男は俺の短剣を弾くと、直ぐに切りかかって来る。短剣で何とか防ぐが、悔しいがこいつとは実力の差がある。このままでは押し切られてしまう。


 俺は男の剣を防ぎ、短剣を男の足下へと投げる。剣を防いでいる間に短剣には魔力を溜めており、男の足下に突き刺さった瞬間、短剣から風が吹き出す。


「むっ!」


 男は風を防ぐように顔を手で覆う。その間に俺は白竜に寄り添う子竜を担いでその場から離れる。しかし、次の瞬間、背中に痛みが走った。


「全く、手間をかけさせるな!」


 軽く後ろを見ると、下から剣を振り上げていた男の姿があった。ここから少し距離を取るぐらいならあの風で時間は稼げると思ったんだが無理だったか。


 俺は直ぐに武器を創造。創ったのは蒼い炎を纏う大剣、蒼炎剣というものだ。俺が剣を横に振ると、剣から蒼い炎が噴き出し男を阻む。


 しかし、男は持っている剣で炎を切り裂き突きを放って来た。子竜ごと俺を突き刺すために。俺も蒼炎剣で弾くが、何度か弾いているうちに違和感を感じる。


 蒼炎剣から出る炎が少しずつ弱まっていっているのだ。それも、男の剣に触れる度。明らかあの剣に何らかの能力があるな。だけど、それを考えている暇がない。


 男の持つ剣に何かしらの能力があったとしても、それ抜きで押されているのだ。このままでは本当に不味い。そう思った時、空から雷が落ちて来た。


 男は直ぐに後ろへと跳んで避けるが、地面に着地した瞬間、地面から氷柱が男を目掛けて生えて来た。突然の奇襲だが、慌てる事なく生えて来る氷柱を全て避ける男。こいつ、どんな反応速度してるんだよ。


 だけど、これは助かった。この攻撃が誰なのかわかっている俺は安心して距離を取る事が出来る。更に


「死ね」


 と、男の背後から迫る一閃。昔俺が反応出来なかった攻撃を直ぐに対応する事は悔しいが、そのおかげで俺から目を離してくれた。


 俺を助けるために男へと攻撃してくれたのは、勿論俺の大切な仲間のフランとフリューレ、そしてクリアさんだ。


 クリアさんは剣が防がれたのを見ると舌打ちをしながら直ぐに空間魔術を発動し四方八方から連撃を繰り出す。


「これは珍しい。だけどまだまだだ。光装」


「なっ!? ちぃっ!」


 なんて奴だ。男は光を纏った瞬間、クリアさんの転移の速度に反応して来やがった。更にクリアさんが転移するよりも先にクリアさんの転移先を察知して攻撃をして来る。そのせいでクリアさんは防戦一方に。


「フラン、この子を頼む!」


「ワウ!」


 俺は手に抱えていた子竜をフランへと預け、蒼炎剣を消して新たに両手に創造魔術で創った風天・雷牙を創造する。雷と風を見に纏い速度を上げる。


 先ほどの倍近くの速度で攻撃を繰り出すが、男は特に慌てた様子もなく俺の剣戟を受け止める。それもクリアさんの相手をしながらだ。くそっ、なんて奴だ。


「全く面倒だなぁ。光爆破」


 男は地面に剣を突き刺すとそこを支点として光の爆発が起きる。俺とクリアさんは光の爆風に吹き飛ばされ、そして気が付けば目の前には男の姿が。


「これで終わりだ」


 男は俺に向かって剣を突き出して来た。心臓目掛けて突き出して来た剣を、俺は咄嗟に左手に持っていた雷牙を離して握る。握ったところで勢いの弱まらない剣は、俺の掌を切り裂きながら突き進む。


 しかし、これで良い。俺の目的は止める事ではない。この程度で止められるとも思っていないしな。俺は握っている剣を心臓から逸らすのが目的だ。


 心臓を狙う剣を上から押さえて脇腹へと逸らしたが、脇腹へと刺さるのは避けられなかった。


 脇腹へと剣が刺さる痛みを感じながらも、俺は剣の刃を握った左手を離す。脇腹へと剣が刺さる速度が上がるがそのまま進ませ男の右手首を掴む。これで逃げられないだろう。


 そしてそのまま右手に持つ風天を男へ向かって振り下ろす。この程度の痛みなら修行で何度も受けた。耐えられない事は無い。


 男は直ぐに俺の右腕を掴んで振り下ろす剣を止める。そのまま男は脇腹の剣を更に深く突き刺して来たが、俺はそれを考えないようにして右手の風天を消す。そして今度は逆手持ちにして再び創造。男の左肩へと振り下ろした。


 さすがにこの事は予測出来なかったのか男の肩へと深く突き刺さる風天。男は慣れていないのか、痛みから流れるように俺から離れていく。脇腹の剣を一気に引き抜かれて激痛が走るが、脇腹を押さえて風天を構えながら俺も距離を取る。


「ぐうっ! お、お前! この俺に傷を合わせたな! 許さない、許さない、許さない! 許さないぞ!」


 そう言って切れた男。それに比例して更に膨れ上がる魔力。全く面倒な奴だ。しかし、男が動き出す前に


「そこまでだ!」


 崩れた城の方から怒鳴る声が響く。みんなが城の方を見ると、城からは王冠をかぶった男の人が先頭に、後ろには騎士達が並ぶ。男の人の直ぐ後ろにはギルアンさんとアルスさんも一緒だった。一体どういう事だ?

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