異世界で彼女を探して何千里?

やま

40.VS白竜

「……おいおい、来るの早過ぎるだろ」


 俺は悪態をつきながらも、空を見上げる。帝都の空には体長20メートルほど。どの武器、魔術ですら弾いてしまうほどの強靭な鱗に覆われ、圧倒的な存在感を放つ、魔獣たちの中でも最強種、空の王者と呼ばれる竜が、怒りの咆哮を上げて飛んでいた。


「小僧、その腕に抱いているのは」


 俺が最悪の現状に固まっていると、クリアさんが尋ねてくる。俺がこの地下でこの子を見つけた事を説明する。クリアさんは納得してくれたが、この状況は本当に不味いのだろう。あのクリアさんが顔を青くさせているのだから。


「それでどうするんだよ。あの白竜、その子を返しただけだと、多分」


「ええ、俺たち人族の事を許してはくれないでしょう」


 最低でも帝都を潰すまでは帰らないと思う。それほどまで白竜は怒っているだろう。それも当然だろう。自分の子供が誘拐されれば、誰だって怒る。


「ちっ、本当に面倒な事になっちまったな。それでどうするんだよ? このまま俺の転移で戻るか?」


「……流石にそれは出来ませんよ。関わった以上見捨てる事は出来ません」


「……はぁ、そう言うと思ったよ。わかった。手伝ってやる。俺が時間を稼いでる間に、地下にいた奴らを逃せ。わかったな」


「わかりました。無茶はしないでくださいね?」
  
「はっ、誰に言ってやがる」


 クリアさんはそう言いながら転移を発動して目の前から姿が消えた。俺はすぐに白竜の方を見ると、白竜へと切りかかっているクリアさんの姿が見えた。


 クリアさんは転移を駆使して白竜を惑わしていた。良し、今の内だ。


「チェルシュさん!」


「ゼスト君! これって……」


「ええ、この子を探して親が来たんです。帝都は既にかなりの被害が出ています。チェルシュさんたちも早く避難を」


「ゼスト君はどうする気なの?」


「俺は、この子を親へと返さないといけないので、行きます。だから早くチェルシュさんたちも避難して下さい」


 俺が強く言うと、桜木は悔しそうに手を握る。そして何度か深呼吸をした後に頷いて子供たちを連れて行ってくれる。 


 すれ違いざま、耳元で「無事に帰って来てね」と囁かれた。当たり前だよ、桜木。せっかくお前とも会えたんだから、こんなすぐに別れてたまるかよ。


「フラン、フリューレ。今から俺たちが相手するのは、あの空を飛ぶ白竜だ。かなり厳しい戦いになると思うけど、付いて来てくれるか?」


 俺がしゃがみながら2匹に尋ねると、2匹とも「ワウ!」「コン!」と元気に返事をしてくる。伝わってくる感情も「当たり前」「ずっと一緒」という感情ばかりだ。


 俺は2匹の頭をわしわしと撫でてから白竜を見る。白竜は周りを飛び回るクリアさんを煩わしそうに相手をしている。更に地上から白竜へと魔術が放たれていた。あれは帝国軍か。


 かなりの魔術が放たれていて轟音が鳴り響くが、ここから見る限りでは大きな傷は付いてそうに見えない。かなり硬いのだろう。


 俺の攻撃が通るかは不安なのだが、やるしかないよな。俺とフラン、フリューレは屋根を伝ってクリアさんと白竜が戦っているところへと向かう。


「くそっ、なんて高さだ」


 しかし、思っていたよりも高いところで戦っているぞ、あれ。クリアさんは空間魔術があるため、下に降りずとも転移を繰り返して戦えるけど、流石に創造魔術ではまだ空を飛ぶ事はできない。


 跳ぶ事は出来るけど。仕方ない。練習中のアレをやるか。俺は両足に風精ノ蓮脚を発動。両足に風を纏わせる。


「フランとフリューレは下から援護をしてくれ。あっ、それからこの子を預かっておいてくれ。俺は行ってくるよ」


 2匹が元気良く吠えるのを聞いた俺はフランの背に子竜を乗せて屋根を蹴る。そして何度も空中を蹴る。風を足場にして空を跳んでいるのだ。魔力の量をミスると風を踏み抜いてしまうから最低限必要な量を見極めてやらなければいけない。無駄に多くは消費したくはないからな。


 空中で土精ノ籠手も発動。俺は暴れ回る白竜の顔の下へと向かい、そして


「落ち着きやがれ、この野郎!」


 白竜の顎を下から殴り上げる。「グルゥ!?」と驚きの声を上げてはいるが殆どダメージは入っていないようだ。そして鋭い眼光で俺を見てくる白竜。


「グルゥアアアアアア!」


 白竜は短剣並みの長さを持つ牙がぎっしりと生えた口を開けて迫ってくる。こいつ、噛み付く気か。俺は空中を蹴って避ける。うおっ、背後からガチンッ! と大きな音と共に物凄い風圧が! こ、怖すぎる!


「こっちもいるのを忘れるんじゃねえよ!」


 俺が白竜の噛み付きを避けていると、白竜の頭上にクリアさんが転移してくる。そして手に持つ剣を振り下ろす。ズドン! と白竜の頭とクリアさんの剣がぶつかる音が響く。


 流石にこの一撃は効いたのか一瞬怯む白竜だが、頭を振ってクリアさんを落として、白竜は空中で回転した。そして俺とクリアさんに迫るのは、5メートルぐらいの長さがある尻尾だった。


 って、やばい! こんなものに殴られれば大怪我じゃあすまねえ! 俺は風を蹴って白竜の尻尾を避ける。クリアさんも転移で避けたようだ。


 しかし、避けて安心する暇もなく次の攻撃が飛んで来た。いつの間に発動していたのか、白竜の周りに飛んでいた白い球が、俺たち目掛けて放たれたのだ。


 俺は再び風を蹴って避ける。ちっ、避けたやつが全部下へと落ちていく! もう、みんな避難はしていると思うけど。


「ボサッとしてるんじゃねえよ、この野郎!!」


 俺が下への被害を見ていたら、突然耳元にクリアさんの叫び声が聞こえてくる。そして同時に変わる視界と耳に轟く轟音。


 俺は一瞬何が起きたのかわからなかったが、帝都の惨状を見て嫌でも理解してしまった。着弾点から一直線に伸びる破壊跡。こいつ、ブレスを吐きやがったな。


 着弾点てから伸びて帝都の外壁を吹き飛ばし、遠くの山まで跡が残っている。なんて一撃だよ。白竜は再び自分の体の周りに白球を作って俺たちを見ていた。


『矮小な人間どもよ。我が愛しの子を盗んだ罪、その命を持って償うが良い!』


 突然頭に響く声。それと同時に白竜の体が輝き出し、全方位に放たれる光の線。数百、数千にはくだらない光の線は無差別に狙って地上へと降り注いだ。俺もクリアさんも、避ける場所もない程の弾幕により、防御を余儀無くされた。


 俺はクリアさんを庇うように立ち、迫る光の線を土精ノ籠手を交差させて防ごうとするが、目の前一杯の光に埋め尽くされる。


 所々で轟く爆音。目の前は真っ白な俺には、その音だけが嫌に残っていった。

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