異世界で彼女を探して何千里?

やま

36.誘拐

「……あの天童院が皇太子ってマジかよ」


 俺はそのままソファに背を預ける。まさかのとんでもない話に俺は全く関係ないのに頭を抱えてしまった。いや、多分関係無いなんて言えなくなるんだろうな。


「ええ、今年で確か16歳だったかしら。昔から読み書きに魔術、武術になんでも出来た帝国始まって以来の天才、神童って呼ばれているわ。ただ……」


「あの性格が治っていないって事だろ?」


 俺の言葉に桜木は頷く。はぁ、あいつとは高校で初めて出会ったが、以前から天童院の噂は聞いていた。


 とんでもなく正義感の強い男らしく、中学生でヤクザに喧嘩を売ったとか、偶然出くわした強盗犯を半殺しにしたとか。


 あいつは困っている人がいれば助けて、悪い奴がいれば倒す。昔のヒーローものみたいな考え方を地でいく奴で、どんな些細な悪事にも首を突っ込んでいくからな。その事でクラスが何度迷惑を被った事か。


 その上タチの悪い事にあいつ負けないんだよな。怪我はする事はあってもどの相手にも勝って来るので、本人も正義は負けないと妄信しているんだよな。


「それで、どこで天童院と会ったんだ? いくら商会の会長と言っても、皇太子に会う事なんて出来ないだろ?」


「あいつが会いに来たのよ、あなたみたいにね」


 ああ、なるほど。確かに記憶の持っている奴ならこの店の事は気になるよな。


「その時に何か言われたか?」


「……そうね、その時に」


 桜木が何かを言おうとした瞬間


「商会長! 大変です!」


 と、副商会長のフェルシーさんが慌てた様子で部屋へと入って来た。かなり慌てた様子で一体どうしたのかと俺と桜木はつい顔を見合せてしまう。


「一体どうしたのよ、フェルシー。そんなに慌てて?」


「それが、子供たちが!」


 その言葉を聞いた瞬間、桜木の顔色が変わり勢い良く立ち上がり、フェルシーさんに掴みかかるように迫る。な、何だ?


「子供たちに何かあったの!?」


「お、おつかいに行っていた子供たちが、帰ってこないそうで、院長が聞いて回ったら、男たちに連れて行かれたって」


「兵士たちは? 兵士たちにその事は伝えたの!?」


「はい、伝えましたが、直ぐに動いて下さるかどうかは……」


 そう言い顔を俯かせるフェルシーさん。桜木はそのまま勢いで部屋を飛び出そうとしたが、俺が腕を掴んで止める。


「何するのよ! 離して頂戴!」


「落ちついて下さい、商会長。何も手掛かりが無いまま探すのは得策ではありません。一度落ち着いて……」


「そんな、落ち着いて要られますか! 今この間にも子供たちが!」


「わかっている! 俺も手伝うから、一旦落ち着け!」


 俺は勢いに任せて、桜木の両頬を押さえてしまう。ぶにゅ、とたこ口になった桜木は目を点にさせながらも、こくこくと頷いてくれる。よし。


「少し付いてきてくれ」


 俺はそのまま部屋を出ていく。そのまま階段を上っていき4階の飲食コーナーへと向かう。そこの奥では


「ワウ」


「なっ! そ、そこに置くのか! ちょ、ちょっと待てよ。少し考え……」


「ワウ」


「あっ、焦らすなって!」


 頭を抱えているクリアさんと、ペシペシと机を叩いて焦らすフランの姿があった。その隣ではフリューレが横から将棋盤を覗いていた。


「えっ? なんで犬が将棋してるの?」


 その光景に桜木は普通の感想を述べる。ただ、フランは犬じゃなくて狼だ。あいつ、犬って言うと怒るから本人の前では言うなよ。


 そして俺たちが近づくと、気が付いたフリューレが将棋盤を飛び越えて俺に飛んできた。俺は優しく抱きかかえてあげると、ぺろぺろと俺の頰を舐めて来る。ははっ、擽ったいって。


「ワウッ!」


「ああっ!」


 その間に将棋の方も決着がついたようだ。うわぁ、クリアさんの王がフランの駒に囲まれていた。あれは逃げられないわ。


「ワォーン!」


 そしてフランが勝利の雄叫びを上げる。色々と気にはなる事があるが素直に凄いので撫でて上げる。すると、フランも気持ちが良いのか掌に頭を擦り付けて来る。


「ええっと、か……ゼスト君、この子たちはゼスト君の?」


「はい、僕の大切な仲間ですよ。クリアさん、落ち込んでるところ悪いんですが、お願いを聞いてもらっても良いですか?」


「……何だよ。なんかあったのかよ?」


 ギロッと睨んで来るけど、話は聞いてくれるようだ。そこからさっき桜木に聞いた話をそのままクリアさんに話す。それを聞いたクリアさんは


「ったく、人間って奴は同族にすら手を出すのかよ。本当に腐った種族だぜ」


 と、ぽつりと呟く。クリアさんがどうして人族を恨んでいるのかはわからない。クリアさん本人が人族の血を半分受け継いでいるのにも関わらず。その内聞けたら良いのだけど、今はそれよりも誘拐された子供たちの事だ。


「 今は何があるかわかりません。クリアさんがいてくれたら心強いです」


「どうせ、フランとかも連れて行くんだろ? 俺1人じゃあ将棋出来ねえから仕方なく付いて行ってやるよ。仕方なくだからな!」


 クリアさんは腕を組んでそっぽを向きながらそんな事を言ってきた。全く、素直じゃ無い人だ。クリアさんが将棋盤を仕舞うのを見ながら、桜木の方へと向く。


「チェルシュさん。何か子供たちが身につけていた物とかありますか? このフランなら微かな匂いでも子供たちを追う事が出来ます」


 俺が左腕に抱きかかえているフランをずいっと前に出すと、桜木はハッとした表情を浮かべる。前世で警察犬とかを知っている桜木にはピンと来たのだろう。直ぐに階段を降りて行く。


 その後を俺たちは追いかけて行く。商会を出てからしばらく走ると、前世で言う保育園のような場所があった。遊具があって砂場があったと。ただ、今は誰も遊んでいない。外で女性たちが何かを話し合っているところだった。


「院長! 子供達は!?」


「商会長! それが……それが……」


 院長とやらはそのまま泣き崩れてしまった。やはり手掛かりが無いままか。


「院長、今は泣いている暇は無いわ。それよりもお願いをしたい事があるのよ」


「お願い……ですか?」


「ええ、攫われた子供たちが身に付けていた物とか何か無いかしら? それがあれば多分見つけられるわ」


 桜木はそう言いながら俺を見て来るので俺は頷く。あの森の中ですら俺の匂いを辿って来たフランだ。この街中だけなら簡単だろう。


 子供たちは返してもらうぞ。

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