異世界で彼女を探して何千里?

やま

32.休み

「えっ? 休み、ですか?」


「うむ、この半年間、毎日休み無しにやっておったからの。修行の目処も立ったし、偶には休むといい」


 さて、修行を始めようかと準備をしていた時に、突然ギルアンさんからそんな事を言われた。


 ……ドッキリか? 実はクリアさんとアルスさんがどっかに隠れていて、俺が喜んだ瞬間、『ドッキリ大成功!』とか書かれた看板を持って出て来たりしないよな?


 俺が周りを見回していると、ギルアンさんに呆れた様な声で尋ねられる。どうやら、ドッキリでは無く、本当に休みをくれる様だ。


「お主には3日間休みを与えるから、自由にして良いぞ。ただ、お主だけではこの森から出れないじゃろうから、クリアを連れて行くといい。わしが色々なところへ連れて行っておるから、この大陸の中ならどこでも行けるじゃろう……ああ、クリアには既に話しておるから安心して行くと良い」


 ギルアンさんはそう言い、懐から小袋を取り出して俺に渡してくる。中にはお金が入っていた。これは3日間で使えるお小遣いらしい。かなりの量が入っていたのには驚いた。俺とクリアさんの分らしい。


 ギルアンさんは、それだけ俺に渡すと、アルスさんとどこかへ行ってしまった。何か外せない用でもあったのだろう。


 しかし、休みかぁ〜。何をしようか。実家に戻るのは無しだろ。一回戻ってしまうと、過去に戻りたく無くなるからな。みんなには会いたいけど。


 そうなると、行く場所は1つしか無いよな。俺がずっと行きたかった場所。良し、そうと決まればクリアさんを探そう。


 俺は家に入ると、ソファに寝転ぶクリアさんの姿があった。なんだ、すぐに見つかったぞ。


 俺は話しかけようと近づいたが、途中で立ち止まる。理由は、クリアさんはソファの上で寝ていたからだ。いつもの眉間にしわを寄せた様な表情では無く、穏やかな表情をしている。


 いつも、こんな表情をしてたら良いのに、勿体無い。俺が穏やかに眠るクリアさんの寝顔を見ていると、俺の部屋からフランとフリューレが飛び出して来た。


 そして、俺の周りをぐるぐる回りながら2匹とも鳴き始める。やばっ、俺が意識を向けた時には既に手遅れだった。


「……何見てんだよ」


 その理由が、下から射殺す様に睨み付けてくるクリアさんと目が合ったからだ。俺はゆっくりと後ろへ下がろうとしたけど、直ぐに起き上がったクリアさんは、俺の目の前で


「歯ぁ、食いしばりやがれ!」


 ……終わった。


 ◇◇◇


「ったく、起こすなら、人の顔ジロジロと見てないで、さっさと起こしやがれ!」


「すいません」


 俺は隣を歩くクリアさんに謝る。足下では心配そうに見上げてくるフランとフリューレがいる。周りの人たちは、右頬を赤く腫らしている俺を見て、フードを被っているけど、美女だとわかるクリアさんを見てから、足下でとことこと歩くフランとフリューレを見る。


 特にフランとフリューレは人気だ。愛くるしい表情に、楽しそうに歩くその姿は、老若男女問わず虜にしている。中でも女子供たちは、きゃあきゃあ言いながら見てくる。人気者だな。


「なんでこの国に来たかったんだよ?」


 人気者のフランとフリューレを見ていると、隣を歩くクリアさんが、そんな事を尋ねてきた。別に隠す事ではないので、多分知り合いに会いに来たと伝える。


 クリアさんは、はぁ? って顔をしていたが、これで十分だ。俺たちが訪れた国は、ミストラル王国から西に位置する国、ゼスティア帝国へとやって来た。


 目的は、森で出会った前世のクラスメイト、小林の証言を確認するためだ。この程度にいるというクラスメイトに会うためにここまで来た。


 本当なら、ミストラル王国から1ヶ月以上の道のりを経て辿り着ける場所なのだが、クリアさんの空間魔術でひとっ飛びだ。楽で良い。


「それで、目的地はどこなんだよ? 帝国を指定したって事はなんか用事があるんだろ?」


「ええ、とある店に行きたいんです」


「とある店?」


「はい……あっ、あそこです」


 クリアさんと歩いていると、他のお店とは違う店が立っていた。4階建の家で、看板には名前の通りシロネコの絵が描かれていた。やっぱり何処かで見たことがある。


「確か、シロネコヤマト商会だったか? 見た事もない代物が出てくるとか」


「クリアさんは知っていたのですね」


「噂程度だがな」


 俺とクリアさんはそんな事を話しながらも、シロネコヤマト商会へとやって来た。外観は大きい事以外は普通だな。でも、人気なのは間違い無いみたいだ。先程から、人の出入りが止まないからな。


 さて、見ているだけでなく、俺も入ろうかな……そういえば、動物って入っていいのかな? 俺から離れさせなければ大丈夫かな。


 俺はフランを右肩に、フリューレを左肩に乗せる。2匹とも大人しくだら〜んと俺の肩にぶら下がる。これなら大丈夫かな?


 それじゃあ準備も出来たし、中へと入るか。


 ◇◇◇


「久し振りじゃな、レイガスよ」


「ええ、お久しぶりです、ギルアン殿、それからアルスも」


「なんだよ、急に呼び出して。何かあったのかミストラル国王陛下?」

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