異世界で彼女を探して何千里?
31.お風呂
「ほれほれほれ、どうした?」
「くそっ、あのじじい! バカバカ撃ちやがって! 何でも治せるからって、本気で撃ちやがって! 土精ノ籠手!」
遠くから魔術を放ってくるギルアンさん。どのような傷でも治す事が出来るアルスさんがいるので、向こうは俺を殺す気で魔術を放ってくる。
ただ、俺も痛い思い、死ぬ思いをするのは当然嫌なので、迫る魔術を防ぐ。両手に発動した土精ノ籠手で、迫る魔術を殴って防ぐ。
数発受ければ、土精ノ籠手の限界がきて壊れてしまうが、壊れた側から再度創り出す。
「ほっほっほ、創造魔術には慣れてきたようじゃな。それでは速度を上げるぞ!」
その宣言通り、ギルアンさんの魔術を放つ速度が、さっきの倍近くまで上がる。って、やば! このままじゃ間に合わない!
俺は左腕で地面を殴る。そして魔力を流すと、地面が隆起して壁が出来る。ロックウォールだ。これで少しは持つはず……だと思ったが、考えが甘かったようだ。
一瞬にして砕かれた土の壁。俺は辛うじて両手を交差させて頭は守るが、それ以外のところは魔術で撃たれた。
ギルアンさんの魔術が止んだ頃には全身傷だらけ、血だらけになって、その場に倒れてしまった。
「アルス、頼んだぞ」
「あいよ。ハイヒール」
そして、動けなくなった俺の元にアルスさんがやって来て、回復魔術をかけてくれる。これが毎日の日課となっている。
俺がギルアンさんにこの森に連れてこられた日数を含めれば、既に半年が経過した。
ギルアンさんに殺す宣言をされてからは、毎日魔獣の討伐とギルアンさんとの訓練が行われるようになった。当然手加減無しのやつ。
この半年で死んだ回数は指では数え切れないほどだ。今日何とか耐えられたのが奇跡なぐらい。ギルアンさんはこういう修行に慣れているのか、俺の実力の少し上の力で攻めて来るのだ。
それで受けた傷をアルスさんに治してもらうを毎日続けている。
この半年間は地獄のような日々だったが、その成果は一応は出ている。今では1日中創造魔術を発動しても疲れなくなったし、複数発動もする事が出来た。
「ほら、終わったぞゼスト」
「ありがとうございます」
俺がアルスさんに傷を治してもらっていると、ギルアンさんも側にやって来ていた。遠くで見ていたフランとフリューレもだ。
「ふむ、この半年で中々持つようになったの。以前は1分も待たなかったが、今では10分近くは持つようになったの」
……10分かぁ。ギルアンさんレベルの敵だとそれぐらいしか持たないのか。最近の戦いで気が付いたが、確かに魔力の総量は上がっているけど、今度はそれを使い切れていない。何か考えないとな。
「取り敢えず、風呂でも入って来たらどうだ。体の傷は治っても、血塗れだろうからな」
俺はアルスさんの言葉に頷く。確かに服とか自分の血で真っ赤だからな。直ぐに脱ぎたい。それにこの格好をしていると、フランたちは寄って来てくれないのだ。2匹とも俺の血は嫌いらしい。正確に言えば匂いが嫌なのだとか。好きな人の血は嗅ぎたく無いとかで。
そんな少し離れた位置にいる2匹を伴って、家へと戻る。この家の風呂は、近くの川から水を引き、水を温める魔道具でお風呂にしている。
フランもフリューレたちもお風呂は大好きだ。当然元日本人である俺も風呂は大好きだ。1日3回は風呂に入っているな。
朝起きた時に1回、こんな風に修行を終えた後に1回、夜に1回と。流石に入り過ぎかなとは思ったりもしたのだが、好きなものは仕方ないと諦めた。
そんな事を考えながら風呂場の扉を開けると、そこにはエプロン姿のクリアさんが、洗濯カゴを持っていた。
この家の家事全般はクリアさんが全てしてくれている。掃除洗濯料理にと。話し方や行動は偶に粗暴な感じがするけど、とても女性らしい人だ。洗濯カゴの上に乗っているあれも大きいし。
「何見てやがる! ささっと、その汚れた服を脱ぎやがれ!」
おっと、怒られてしまった。俺は急いで上着を脱ぎ下を脱ごうとしたところで、クリアさんがジッと俺を見ているのがわかった。そんなに見られると、脱ぎづらいのだが。
そして、俺とクリアさんの目が合った。クリアさんの顔はだんだんと赤くなっていき「ぬ、脱いだら置いとけよなっ!」と怒りながら、風呂場から出て行ってしまった。
俺は苦笑いしながらクリアさんの後ろ姿を見ているしか出来なかった。この半年間はずっとこんな感じだ。こんな風に何かと怒られる事が多いのだが、魔獣の討伐にはついて来てくれるし、危なくなると助けてくれもする。
なんだかんだ言いながらも助けてくれる良い人だ。だけど、この半年間一緒にいた割には、俺はクリアさんの事をあまり知らないんだよな。
クリアさん自身もあまり自分の事を話そうとはしない方だし。ギルアンさんからは、わしの口からは話せん、としか言われなかったし。もう少し仲良くすれば話してくれるのだろうか? 仲良くなれるかどうかも怪しいが。
「ワウワウ!」
「コン!」
おっと、お風呂が楽しみな2匹が早く早く! とせっついてくる。俺は最後の砦を脱ぎ、浴場への扉を開ける。むわっと熱気が出てくるけど、この熱気がまた良い。
扉を開かれた瞬間、2匹は自分たちのために用意されたお湯の入った桶へと走る。汚れたままお風呂に入らないようにするための、人間でいうかけ湯のようなものだ。
あれもそろそろお風呂に入るだろうからと、クリアさんが用意してくれたものだ。本当になんでも出来る人だ。
バシャバシャと桶に入って遊んでいる2匹を横目に、俺も掛け湯をする。そして布に石鹸を付けて体を洗う。この石鹸はギルアンさんが森の植物を使って作ったらしい。
自分の体を洗い終えると、次は2匹の体だ。2匹を泡まみれにしてあげると、ぶるぶると体を振るう。うわっ、目に入った!
俺が仕返しに、頭からお湯をかけてやると、楽しかったのかもう一回と強請る2匹。俺は何度かかけてあげてから、両手に抱えてお風呂に入る。
2匹ともお風呂の中で泳いでいる。犬かきが上手いな。フランは狼でフリューレは狐だけど。俺は縁に背を預けて脱力する。
この前、あと少しで修行も終わりだとギルアンさんは言っていた。この地獄のような日々からも解放されるのか。
俺はお風呂の中で喧嘩をし始めそうな2匹を見ながら、そんな事を考えるのだった。
……お湯が冷たくなって、ピリピリして来たぞ。頼むから壊さないでくれよ?
「くそっ、あのじじい! バカバカ撃ちやがって! 何でも治せるからって、本気で撃ちやがって! 土精ノ籠手!」
遠くから魔術を放ってくるギルアンさん。どのような傷でも治す事が出来るアルスさんがいるので、向こうは俺を殺す気で魔術を放ってくる。
ただ、俺も痛い思い、死ぬ思いをするのは当然嫌なので、迫る魔術を防ぐ。両手に発動した土精ノ籠手で、迫る魔術を殴って防ぐ。
数発受ければ、土精ノ籠手の限界がきて壊れてしまうが、壊れた側から再度創り出す。
「ほっほっほ、創造魔術には慣れてきたようじゃな。それでは速度を上げるぞ!」
その宣言通り、ギルアンさんの魔術を放つ速度が、さっきの倍近くまで上がる。って、やば! このままじゃ間に合わない!
俺は左腕で地面を殴る。そして魔力を流すと、地面が隆起して壁が出来る。ロックウォールだ。これで少しは持つはず……だと思ったが、考えが甘かったようだ。
一瞬にして砕かれた土の壁。俺は辛うじて両手を交差させて頭は守るが、それ以外のところは魔術で撃たれた。
ギルアンさんの魔術が止んだ頃には全身傷だらけ、血だらけになって、その場に倒れてしまった。
「アルス、頼んだぞ」
「あいよ。ハイヒール」
そして、動けなくなった俺の元にアルスさんがやって来て、回復魔術をかけてくれる。これが毎日の日課となっている。
俺がギルアンさんにこの森に連れてこられた日数を含めれば、既に半年が経過した。
ギルアンさんに殺す宣言をされてからは、毎日魔獣の討伐とギルアンさんとの訓練が行われるようになった。当然手加減無しのやつ。
この半年で死んだ回数は指では数え切れないほどだ。今日何とか耐えられたのが奇跡なぐらい。ギルアンさんはこういう修行に慣れているのか、俺の実力の少し上の力で攻めて来るのだ。
それで受けた傷をアルスさんに治してもらうを毎日続けている。
この半年間は地獄のような日々だったが、その成果は一応は出ている。今では1日中創造魔術を発動しても疲れなくなったし、複数発動もする事が出来た。
「ほら、終わったぞゼスト」
「ありがとうございます」
俺がアルスさんに傷を治してもらっていると、ギルアンさんも側にやって来ていた。遠くで見ていたフランとフリューレもだ。
「ふむ、この半年で中々持つようになったの。以前は1分も待たなかったが、今では10分近くは持つようになったの」
……10分かぁ。ギルアンさんレベルの敵だとそれぐらいしか持たないのか。最近の戦いで気が付いたが、確かに魔力の総量は上がっているけど、今度はそれを使い切れていない。何か考えないとな。
「取り敢えず、風呂でも入って来たらどうだ。体の傷は治っても、血塗れだろうからな」
俺はアルスさんの言葉に頷く。確かに服とか自分の血で真っ赤だからな。直ぐに脱ぎたい。それにこの格好をしていると、フランたちは寄って来てくれないのだ。2匹とも俺の血は嫌いらしい。正確に言えば匂いが嫌なのだとか。好きな人の血は嗅ぎたく無いとかで。
そんな少し離れた位置にいる2匹を伴って、家へと戻る。この家の風呂は、近くの川から水を引き、水を温める魔道具でお風呂にしている。
フランもフリューレたちもお風呂は大好きだ。当然元日本人である俺も風呂は大好きだ。1日3回は風呂に入っているな。
朝起きた時に1回、こんな風に修行を終えた後に1回、夜に1回と。流石に入り過ぎかなとは思ったりもしたのだが、好きなものは仕方ないと諦めた。
そんな事を考えながら風呂場の扉を開けると、そこにはエプロン姿のクリアさんが、洗濯カゴを持っていた。
この家の家事全般はクリアさんが全てしてくれている。掃除洗濯料理にと。話し方や行動は偶に粗暴な感じがするけど、とても女性らしい人だ。洗濯カゴの上に乗っているあれも大きいし。
「何見てやがる! ささっと、その汚れた服を脱ぎやがれ!」
おっと、怒られてしまった。俺は急いで上着を脱ぎ下を脱ごうとしたところで、クリアさんがジッと俺を見ているのがわかった。そんなに見られると、脱ぎづらいのだが。
そして、俺とクリアさんの目が合った。クリアさんの顔はだんだんと赤くなっていき「ぬ、脱いだら置いとけよなっ!」と怒りながら、風呂場から出て行ってしまった。
俺は苦笑いしながらクリアさんの後ろ姿を見ているしか出来なかった。この半年間はずっとこんな感じだ。こんな風に何かと怒られる事が多いのだが、魔獣の討伐にはついて来てくれるし、危なくなると助けてくれもする。
なんだかんだ言いながらも助けてくれる良い人だ。だけど、この半年間一緒にいた割には、俺はクリアさんの事をあまり知らないんだよな。
クリアさん自身もあまり自分の事を話そうとはしない方だし。ギルアンさんからは、わしの口からは話せん、としか言われなかったし。もう少し仲良くすれば話してくれるのだろうか? 仲良くなれるかどうかも怪しいが。
「ワウワウ!」
「コン!」
おっと、お風呂が楽しみな2匹が早く早く! とせっついてくる。俺は最後の砦を脱ぎ、浴場への扉を開ける。むわっと熱気が出てくるけど、この熱気がまた良い。
扉を開かれた瞬間、2匹は自分たちのために用意されたお湯の入った桶へと走る。汚れたままお風呂に入らないようにするための、人間でいうかけ湯のようなものだ。
あれもそろそろお風呂に入るだろうからと、クリアさんが用意してくれたものだ。本当になんでも出来る人だ。
バシャバシャと桶に入って遊んでいる2匹を横目に、俺も掛け湯をする。そして布に石鹸を付けて体を洗う。この石鹸はギルアンさんが森の植物を使って作ったらしい。
自分の体を洗い終えると、次は2匹の体だ。2匹を泡まみれにしてあげると、ぶるぶると体を振るう。うわっ、目に入った!
俺が仕返しに、頭からお湯をかけてやると、楽しかったのかもう一回と強請る2匹。俺は何度かかけてあげてから、両手に抱えてお風呂に入る。
2匹ともお風呂の中で泳いでいる。犬かきが上手いな。フランは狼でフリューレは狐だけど。俺は縁に背を預けて脱力する。
この前、あと少しで修行も終わりだとギルアンさんは言っていた。この地獄のような日々からも解放されるのか。
俺はお風呂の中で喧嘩をし始めそうな2匹を見ながら、そんな事を考えるのだった。
……お湯が冷たくなって、ピリピリして来たぞ。頼むから壊さないでくれよ?
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