異世界で彼女を探して何千里?

やま

30.死に戻り

「……はぁ……はぁ、死ぬ。何だよあいつ、なんで真後ろまで腕が曲がるんだよ。骨格の意味無いじゃないか」


 家に戻って来た俺は庭で大の字に寝転がる。今日討伐に向かったジャイアントマンティスなのだが、普通に死にかけた。


 真正面だと鎌の攻撃に、暴風を纏っているため、中々近づけなかったから、背後からと思い攻めたのだが、ぐりんと首を回してきた上に、腕まで背後に回してきたのだ。あれには焦った。関節なんて関係無かったからな。


「ったく、こんなんでへばってんじゃねえよ。情けねえヤツだな」


 そんな大の字で倒れる俺の横をクリアさんは、悪態をつきながら通り過ぎて行く。


 ぐぬぬ、言い返せないのが悔しい。クリアさんは俺が辛うじてジャイアントマンティスを倒した後に現れた2匹目のジャイアントマンティスを、一度押される事なく倒してしまったからな。


 クリアさんの空間魔術で、ジャイアントマンティスの周りを移動して翻弄し、空間を切り取る事で、ジャイアントマンティスの体を切り飛ばすのだから。


 あんな攻撃、誰が避けられるのか。魔術が発動する前に僅かに魔力が感知できたけど、あんな一瞬で発動されたら避けられないぞ。


「ワウッ!」


「コンッ!」


 俺が先ほどの戦いを思い出して寝転んでいると、フランとフリューレが俺の体の上に乗り出した。俺が寝転んでいるのが遊びだと思ったのか、2匹の感情は「遊ぶ! 遊ぶ!」で一杯だ。


 俺の周りを回っては、腹の上で跳ねたりと物凄く自由な2匹。じゃれついてくる2匹は可愛いし楽しいが、戻らなければ。


 俺は2匹に謝って立ち上がる。2匹はブーイングと共にジャンプキックをかましてくるが、また、暇な時遊んであげるから。


 2匹の耳も尻尾も垂れている姿を見て心が痛むが、そのまま俺は家に入った。入ってすぐに何故かクリアさんは立ったままだったが。


「遅かったの、ゼストよ」


「あっ、すみませんギルアンさん、少し外で休んでいて」


「何、構わぬよ。それよりもお主に紹介したい人物がおる」


 そう言うギルアンさんが見る方を見ると、そこには白髪で全身真っ黒な服を着た男が座っていた。とんでもない実力者って事はわかるけど、ギルアンさんと同じで底が見えない。


「俺の名前はアルスだ。じいさんに呼ばれて来た」


「俺はゼストです。よろしくお願いします」


 アルスさんは椅子から立ち上がり、俺の前まで来ると手を差し伸べてきた。握手って事か。俺も右手を出して握ろうとした時


「っ! 逃げろ!」


 クリアさんの叫び声が聞こえた。俺の握手は空振り、俺の胸にはアルスさんの右腕が刺さっていた。


「ガルゥッ!」


「ギュルッ!」


 俺が傷つけられたとわかったフランとフリューレは、直ぐにアルスさんに攻撃を始めた。フランは雷撃を放ち、フリューレは氷柱を放った。


 どちらも部屋の中で放つような技ではない程の強力な攻撃だったのだが、全て見えない壁に阻まれた。


「悪いが邪魔は無しじゃ」


 全てギルアンさんが防いだようだ。俺はそれをまるで他人事のように見ていた。気が付いたら膝をついていたし。体が冷えていくのがわかる。あの時に似ているな。


 ただ、あの時とは違う事がある。それは体が動く事だ。そして無意識の内に常時発動して創造していた風魔の短剣を握っていた。


 俺は短剣を持った右腕を振るった。何かを切った感覚はあったが、霞む目には何も見えなかった。腕を振った勢いのまま倒れこむ。ベチャと生暖かいものが頰を濡らすが、俺はそのまま目を閉じ……


「さっさと起きやがれ、馬鹿野郎」


 る前に頭を叩かれた……あれ? 俺は体を起こすために手を床につけると普通に力が入る。俺はその場にあぐらをかいて座った……あれ?


 自分の体を見てみると、床は血塗れだ。そこに寝転んだ俺も床に接していた部分は赤く染めていた。まあ、それはいい。それよりも


「傷が無い」


 確かにアルスさんに胸を貫かれたはずだ。感触はあったし、痛みもあった。なのに、そこには穴が空いているだけで、俺の体には傷1つなかった。何故だ?


「ほっほっほ、驚いたか?」


 俺は声のする方を向くと、ギルアンさんが笑っており、アルスさんが自分の手を治癒魔術で治していた。さっき切ったのはアルスさんの手か。


「一体何が起きたのです?」


「アルスはな治癒魔術の使い手なのじゃが、その中でもかなりの才能を持っておっての。死んでから1時間以内なら蘇らせることも出来る」


 ……はっ? なんだそれ? そんな事出来るのかよ。って事は俺の胸も治癒魔術で治されたってわけか。


「クゥーン!」


「キュン!」


 呆然と胸を触っていると、フランとフリューレが走って来て、全力ですり寄って来る。悪かったな2匹とも。心配かけてしまった。


「このような事をしたのには理由があっての。これも魔術を増やす方法の1つなのじゃ。人間は死にかける、実際に死んでから奇跡的に助かったりすると、稀にじゃが、死ぬ前より感覚が鋭くなっていたり、力が強くなっていたりする事があるらしい。魔力も同じでな。死ぬ度に魔力の上限が上がるのじゃ」


 ……マジかよ。って事は、今ので俺の魔力上限は上がっているのか? ……うん、わかりません。


「アルスの治癒魔術の腕があるからこそ出来るのじゃが、これからお主には何度も死んでもらう。死ぬのが嫌じゃったら……強くなるのじゃ」


 ……何、その問答無用なスパルタ方式は。

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