異世界で彼女を探して何千里?

やま

26.到達

「……ようやくたどり着いたか」


「ワウ」


 俺の呟きに返事をしてくれる子狼……フランが俺を下から見上げてくる。この子狼であるフランに命を救われたから2週間が経った。


 この2週間は、俺は魔力と体力回復に専念して、魔獣の殆どは、フランが倒してくれた。この森で出てくる魔獣相手でもフランは怯む事なく、圧倒的な強さを誇って倒していった。本当に俺は何もしていない。


 俺の代わりに魔獣を倒して行くフランは、倒す度に誇らしげに俺を見てくるから可愛い。フランというのは、この子狼の名前だ。前世のどこかの国の言葉で、白という意味を持つ「ブラン」の濁点とったのが、フランの名前だ。


 ブランだと何となく雄のような気がして変な感じだったので、雌でも使えるような名前にしたのだ。なぜ雌だとわかったかというと、何と無くではあるが、フランの意思がわかるようになったのだ。


 わかるのは「お腹すいた」や「遊んで」や「構って」など、単語単語だけなのだが、その中で性別を教えてくれたのだ。


 どうして、フランの気持ちがわかるようになったのかはわからないが、これから共に過ごすのに助かる能力ではある。


 ただ、これ程まで強いフランが、あの大怪我をしていた事だ。俺が倒しきれなかったオーガでさえ圧倒していたフランを、あそこまでボロボロにする魔獣が、この森には生息するという事なのだろう……会いたく無いな。


 フランに聞いたが、いまいち要領を得ず「地面」「出て来た」「真っ黒」ぐらいしかわからなかった。地面の中にいる生物って事はわかったが。


 まあ、そんなフランと一緒に森をさまよう事、2週間。ようやく目的であろう家を見つけた。どうして今まで気が付かなかったのか、不思議なくらい木々が無く拓けており、そこには家と池があったのだ。


 俺たちが、まるで境目になっているような、突然草木が無くなる地面へと足を踏み入れると


「死ね」


 耳元で、そんな声が聞こえた。そして視界には、俺の首を切り落とそうと迫る鈍く光る剣が迫っていた。あっ、死んだ。そう思った時


「ガルゥッ!」


 フランが、俺の横へと飛んで来た。そして迫る剣へと噛み付く。そのままフランの体は青白く光り出す。


「やべっ!」


 俺を攻撃して来た人物は、何が来るのかわかったのか、すぐに剣から手を離して、その場を離れる。それと同時に放たれるフランの雷。何度見ても凄え威力。


 しかし俺も、目的の場所を見つけたと、気を緩めてしまった。この数週間、気を抜く事が出来なかったせいで余計だ。まだまだ甘いな。


 俺に攻撃して来た人物、赤髪のボブで、褐色の肌をした女性は、剣を構えながら睨んでくる。久し振りの人間だが、俺を殺そうとする奴に手加減出来る程、俺もお人好しでは無いからな。ぶっ倒してやる。


 俺と褐色の女性は、剣を構えて睨み合い、フランはグルルゥ、と唸り声をあげながら、放電させている。一触即発の雰囲気だったが、ガツンッ! と響く打撲音。それと同時に


「痛え〜!」


 と、頭を押さえる褐色の女性。その後ろには、俺をこの森へと連れて来た老人が杖をついて立っていた。


「痛えじゃねえか、くそじじい! 何しやがる!」


「何をするはこちらのセリフじゃ、お前こそ何をしておるのじゃ、クリアよ」


「ふん! 先輩として1つ、ガツンとしてやろうと思っただけだ!」


 ガツンとって、思いっきり首を取りに来たじゃないか。フランがいなかったら死んでいたぞ?


「全く、坊主はお前の弟弟子になるのじゃから、仲良くせんかい」


「ちっ、俺はお前なんか認めねえからな!」


 褐色の女性は、俺を指差しながらさっさと家へと戻って行ってしまった。何だったんだ、一体。家へ走る褐色の女性の後ろ姿を見ていると、ここに俺を連れて来た爺さんがやって来た。


「よく耐え抜いたな、坊主よ。ただの貴族の小僧なら、1日もせん内に根を上げるところじゃが、耐えきった上に、家を見つけた出すとは。流石、ゼクティスの息子じゃ」


 そんな褒められると照れるじゃないか。俺が1人で照れていると、爺さんは、俺の側で大人しく座るフランを見る。


「ほほぅ、これは珍しい魔獣と契約しておるの。まさかお目にかかる事が出来るとは」


 どうやら、爺さんはフランの正体を知っているらしい。聞いたら教えてくれるかな。


「ええっと……ギルアンさんはこの子狼の事をご存知なのですか?」


「うむ、伝聞だけじゃが知っておるよ。ただ、今は疲れているだろう、家の中へ入ってゆっくり話そう。今日1日ぐらい休んでも、バチは当たらんわい。それから、わしの名前はギルアン・ガスト・ミルファーナじゃ。わしの事はギル爺さんでも、ギルでも何でもいい。よろしくの」


「はい、よろしくお願いします、ギルアンさん!」


 そうして、俺は伸ばされたギルアンさんの手と握り合う。ようやく目的のところへも辿り着いたが、ここからが修行の本番だ。気を抜かずにしっかりとやり抜こう。ただ、そろそろ気を失ってもいいよな?

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