異世界で彼女を探して何千里?

やま

25.子狼

「……なんでこんなところに」


 俺は、目の前にいる子狼につい話しかけてしまつた。もしかしたら、殺すために追いかけて来たのか、と思ってしまったが、それなら俺をオーガから助けるような真似はしないだろう。


 現に、まるで俺をオーガから庇うように、目の前にいるのだから。そして俺が話しかけたのがわかるのか、首だけ俺の方を向けて「ワウ!」と吠える。


 子狼は、再びオーガの方へと向き直ると、体からバチバチと青白い光が子狼を包む。光と言うよりか、これは電気か? 雷を纏っている。


 そして、子狼の前に現れる3つの雷の球体。大きさは10センチ程度だが、中では渦巻くように雷が迸っている。その雷の球体がオーガをめがけて飛んでいく。


 オーガは振り払うように腕を振るが、オーガが触れた瞬間、バシンッ! 大きな音が走ると同時に、オーガの体から煙が立ち込める。


 オーガの雷の球体が触れた拳は、黒く焦げていた。その上、雷のせいでか、体が痺れているようでその場に膝をつく。


 直ぐに立ち上がってきたが、雷の球体をかなり警戒している。だけど、オーガの体は既に満身創痍だ。もう、満足に動く事は出来ないはずだ。


 顔は切り取られ、腕は黒く焦げて、体を焼かれて。武器も手から離して、大量の血を流している。普通ならもう死んでいるはずなのだが。


 満身創痍のオーガは、まだ怪我がマシな方の左腕で構える。子狼もそれに答えるように、前足に雷を纏わせる。どちらもこれで決着を着けるようだ。


 左腕を振り上げるオーガ。オーガに向かって走り出す子狼。オーガの拳が、子狼へと向かうが、子狼は横へと避け、そのままオーガの懐へと入った。


 そして、子狼の雷を纏わせた爪がオーガへと刺さる。次の瞬間、先ほどの球体以上の雷が、オーガの体内を迸る……えぐいなあれは。体内から焼くなんて。


 オーガは全身から煙を出しその場に倒れる。血液が沸騰し、体内の水分も全て沸騰させれば、流石に耐えられないだろう。目が蒸発するのは気持ち悪かった。


 しかし、俺がある程度ダメージを与えていたとはいえ、オーガを圧倒するとは。この子狼は一体何なんだ? 謎過ぎる。


 子狼は、オーガが動かない事を前足でつついて確認すると、俺の方へとやってくる。オーガの次は俺ってか?


 子狼が俺の目の前まで歩いてくると、オーガの時と同じように、前足で頭をつついてくる。焼け爛れた右側が痛むからやめて欲しいのだが。


 子狼は、御構い無しにと俺をつついた後、口を開ける。こいつ、俺を食うのか? 俺なんか食っても不味いと思うが……抵抗しようにも体が動かん。


 そのまま食われるのも癪だったので、子狼をずっと睨みつけてやる。これで少しは気まずくて食いづらいだろう、この野郎。体の動かない俺の最後の抵抗だ。


 少しずつ顔を近づけてくる子狼だったが、俺が思っていた事は起きなかった。子狼はそのまま顔近づけていき、俺を噛まずにチロチロと顔を舐めてきたのだ。生暖かい柔らかいものが俺の顔を濡らす。


 そして「ワゥ!」と一鳴きすると、子狼の体が光りだす。何だ? と思い見ていると、俺の魔力が少し回復してきた。使い果たして殆ど空だったのに。


 このタイミングで回復するという事は、明らかに目の前の子狼の仕業だろう。だけど、怠かった体も少し軽くなった。何とか地面に手をついて体を起き上げる。


 腰のポーチから残り2本になったポーションを1本取り、半分飲み、もう半分は右顔と右腕、胸元の絆にかける。


 ふぅ、これで痛みは引いた。量が少なかったせいか、腕の火傷の部分は、カサブタを剥がしたように色が若干白かった。多分顔もそうなのだろう。胸元の傷も、跡が残っている。まあ、死ぬよりかはマシか。


 俺は近くの木に寄り添い一息つく。俺が木に寄り添いあぐらをかいて座ると、何故か子狼は、あぐらをしている俺の足の上に乗って来た。


 そして、足の上でくるくる回ると、丁度良い感じだったのか、足の上で体を寝かせる。膝の上に丁度頭がくるように。


 こいつ、何でこんなに俺に懐いているんだ? もしかして、傷を治してあげたのに、恩義を感じているとか?


 俺は恐る恐る子狼に手を伸ばす。子狼は片目だけ開けて、俺の手を見るけど、そのまま目を瞑った。俺に敵意が無いのがわかったのだろう。俺はそのまま子狼に触れて、子狼を撫でる。


 うおお……柔らけえ! あまり生き物に触れた事はないが、多分トップクラスの柔らかさだ。いつまでも撫でたくなる。


 子狼も気持ちが良いのか、喉をぐるぐる鳴らしながらゆったりと寝ていた。


 直ぐにでも、この場を移動したかったが、1時間ぐらい、その場で休憩してしまった。その間、運が良い事に魔獣が1体も来なかった事には助かった。今の俺では満足に戦う事が出来なかったからな。


 子狼もその間、俺の足の上でジッとしていた。時折、顔を上げて何処かを睨みつけては、再び寝るというのを繰り返していたが。


 何とか体を起こして、動けるようになった俺は、まず自分の剣を取りに行く。オーガに吹き飛ばされた時に、落としてしまったからな。


 少しボロボロにはなってしまったが、まだ使えない事は無いので、鞘にしまう。次にオーガの剣だが……俺には持てない。大きいし重たい。


 身体強化の魔術を使えば持てるだろうが、常に使っておく事なんて出来ないし、まず、こんな大きな剣を使う事は無いだろう。少し勿体無い気もするが放置だ。


 最後にオーガの骸から剥ぎ取りだ。残っていた方の角は何かに使えそうだから取り、後は爪と牙ぐらいか。それから肉だな。少し切って食べてみたが、普通に美味かった。俺が持てる分切り取る。残りはこの森の魔獣にくれてやる。


「さてと……」


「……」


 これ以上は、血の匂いなどで他の魔獣が寄ってくるので、さっさと離れよう……と思ったのだが、足下には子狼がいる。全く離れる気配も、何処かへ行く気配も無いのだが。


「……俺について来る気か?」


「ワウ」


 まるで当たり前だ、と言わんばかりに吠える子狼。うーん……まあ、良いか。この子狼はかなり強い。色々と助けてくれるかもしれない。俺はしゃがんで、子狼の頭を撫でると、子狼は嬉しそうに目を細める。尻尾もパタパタと元気に振られている。


「それじゃあ、行くか」


「ワウ!」

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