異世界で彼女を探して何千里?

やま

22.黒い鬼

「……こいつは」


 俺の目の前には、真っ白な体毛を赤く染めて、木に寄り添いかかる1頭の子狼の姿があった。俺は一瞬、ここのところ襲いかかって来ない黒狼の仲間かと思ったが、この子狼から放たれる威圧感が違うと教えてくれる。


 現に俺が目の前に現れた瞬間、立ち上がり臨戦態勢になり、唸り声を上げながら、俺を睨んでくる。この子狼からとは思えない程の殺気を放って。


 強さ的にはBぐらいだろうか。この魔山では、強い方だけど、頂点では無いぐらいの強さ、現段階では。これから強くなれば、確実にこの山の頂点になるだろう。


「グルゥ!」


 そんな子狼は、俺へと飛びかかって来た。想像より速いが避けられない速度では無い。しかし、驚いたのは次の攻撃だった。


 子狼が飛びかかってきたのを避け、子狼を見ていると、何と空中で跳ねて、再び俺へと向かって来たのだ。まるで、空中に足場があるかのように。


 しかも、一直線ではなく、空中をジグザグに移動してくる。何だこいつは? 速さとトリッキーな動きで、相手を惑わせようとしてくる子狼。だけど


「キュッ!」


 まるで、踏み外したかのように、子狼の体が揺れる。いや、実際に踏み外したのだろう。子狼が作っていると思われる足場を。


 地面の上にズサっと倒れる子狼。少し呼吸も辛そうだ。気がつかなかったけど、後ろ右足が違う方を向いて腫れ上がっていた。折れているようだ。


 うーん、本来なら魔獣は倒すべきなのだが、何故か俺の直感が助けようと、言っている。助けた瞬間襲ってくるかもしれないが……あ〜やめだ、やめだ。考えるだけ無駄だな。


 俺は倒れ込む子狼の近くに行き、創造魔術を発動。俺の右手に現れたのは、水色の杖だ。それを見た子狼はビクッと震えたが、諦めたのか目を閉じる。


 その子狼の近くにしゃがみ込み、水色の杖を子狼に当てる。そして


「ウォーターキュア」


 青魔術である回復魔術を発動。俺は本来は青魔術は使えないのだが、固有魔術の創造魔術のおかげで、属性武器を創造している間は、使う事が出来るようになった。ただ、普通の人が同じ魔術を使うのに比べて、魔力の消費は上がってしまったのだが。


 しかも、俺が出来るのは応急処置程度だ。子狼の回復を促進させるぐらいと、傷口を塞いで血を止めるぐらいしか出来ない。後は子狼の回復力にかけるしか無い。


 突然、体の痛みが和らいだ子狼は、キョトンとした顔で、自分の体を見て、そのつぶらな瞳のまま俺を見てくる。


 ある程度回復させたら、俺は食用に取っておいた魔獣の肉を、子狼の前に置く。まだ他にもあるから、子狼の顔ぐらいの大きさの肉を渡しても大丈夫だ。


「ほれ、これ食って体直せよ。今回は見逃すけど、次に会ったら倒すからな。じゃあな」


 さて、俺も進みますか。背後に、子狼の視線を感じながらも、俺は森の中を進む。


 しかし、柔らかそうな毛だったな。撫でたらふわふわとして気持ち良さそうだった。俺は特に犬派、猫派ってのは無かったけど、生き物は買えなかったからな。


 あのもふもふを撫でてから離れれば良かったかな? 撫でたら撫でたで噛み付いて来そうだけど。


 ◇◇◇


 子狼と別れてから2日が経った。この2日間は、あまり変わる事が無い景色に、そろそろ嫌気が刺してきた頃、そいつが現れた。


 体調3メートルほど。木々をなぎ倒し、手にはどこで手に入れたのかわからないが、巨大な黒剣を持ち、俺の体より太い腕。その腕が体から4本生えていた。頭からは角が生えており、右側の角は折れていた。


 まるでおとぎ話の鬼のような風貌だ。こいつがオーガか。しかも普通のオーガとはちがう。普通のオーガで個体差はあるが、C〜Bランク。だけどこのオーガは、見るからにA以上の雰囲気がある。


 オーガは俺を見つけると、ニヤリと笑う。こいつ、俺を食べ物としか思って無いな。


 ……雰囲気的に逃がしてくれそうに無いな。戦うしか無いのか。しかし、今の俺にAランクの魔獣を倒す事が出来るのだろうか?


 Aランクといえば、国の軍隊が出るほど脅威だ。そんなやつ相手に俺1人で。


「ガァァァァァッ!」


 ちっ、考えている暇はなさそうだ! 見た目の巨体に似合わない速さで、俺に迫るオーガ。上の2本の腕で黒剣を持ち、下の両腕は、俺を殴る構えをしている。


 俺は腰の剣を抜き構える。その時、既に目の前で、斜めに黒剣を振り下ろしてくるオーガ。黒剣に当たらないようにしゃがむと、俺がしゃがんだ場所に俺の体ほどの拳が迫る。


 俺は迫る拳から、飛び退くように避けて、オーガの懐に入る。近づけば黒剣は触れないだろうと思っていたが、オーガは3本の腕を使って、黒剣を逆手持ちにして、俺の頭上から突き刺そうと、下ろしてくる。


 俺は、振り下ろされる黒剣を逸らそうと剣を構えるが、その瞬間、背筋がゾクっと悪寒が走った。何かわからないが、これはまずいと思った俺は、緑魔術で風を足に集めて、一気にその場から離れる。


 その時、オーガの拳が掠ったが、そんな事に構っている暇はなかった。何故なら、黒剣が地面に刺さった瞬間、触れた地面が爆発したからだ。あの剣、魔剣かよ。


 ……これは結構やばいな。

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