異世界で彼女を探して何千里?
20.旅立ち
「うぅっ、ゼストちゃん、本当に行っちゃうのね……お母さん、寂しいわ」
母上はそう言って、俺を抱き締めてくれる。母上の暖かい体温、一定にリズムを刻む気持ちの良い鼓動が聞こえる。
「母上、修行が終われば一度帰って来ますので。それから手紙も書きますから、ね」
俺の言葉に泣く泣く離れて行く母上。母上に物凄く心配をかけてしまって申し訳ないと思う反面、前世では味わえなかった母親の愛情というものがヒシヒシと感じる。
そして母上と入れ替わるように俺に抱きついて来たのは、セリーネだ。セリーネは俺より頭1つ分小さい。俺の胸元ぐらいしか背が無いので、俺に抱きついて、胸元に頭を擦り付けてくる。
「お兄様、これからお兄様に色々と教えてもらおうと思っていたのに……」
俺は優しくセリーネの頭を撫でてあげる。
「ごめんな、セリーネ。俺も色々と教えてあげたかったけど……」
「いえ、これは私の我が儘ですから。私はお兄様の事を応援しています。頑張って下さいね」
「ああ、ありがとな、セリーネ」
セリーネも泣く泣く俺から離れて行く。そして次に顔を動かした先には、腕を大きく広げて待っている兄上の姿が。少しの沈黙。
「……俺は抱き締めてくれないのかい、ゼスト?」
「流石に男同士はあれかと……」
再び沈黙が訪れる。兄上は冗談だ、と言いながら広げていた腕を戻して、何かを渡して来た。渡されたのは小袋で、中に何か入っている。
それを受け取ると、開けても良いというので開けると、中には黄色く輝く液体が入った瓶が3本入っていた。
「これって…….」
「それは、最上級ポーションだ。ある程度の毒にも効くし、怪我も死以外のものは殆ど治せる。切られた腕を生やしたりは出来ないだろうけどね」
そう言い笑う兄上。そんな貴重な物を。俺はありがたく受け取る。これは非常用のため大切に使わせてもらおう。
そして最後に
「父上」
「お前にこれを渡しておく」
父上がそう言い渡して来たものは短剣だった。魔力を帯びているので特別なものなのだろう。
「お前には固有魔術があるだろし、主となる武器は自分で見つかるだろうが、万が一魔術が使えなかった時などに使うと良い」
「はい、ありがとうございます、父上」
俺は父上から受け取った短剣を、腰の剣と同じように装備する。短剣は必ず必要になる。これは有難い。
そして、最後に
「ゼスト。私はおじ様やお義兄様のように高価なものでは無いけど、これを」
「これは……ミサンガか?」
ティリアが俺の手を取って付けてくれたのは、赤色と白色が使われたミサンガだった。それを俺の利き手である右手首に付けてくれた。
「あら、知っていたの?」
「名前だけは」
「そう。ゼストの健康を祈って私が一から作ったの。魔術保護もしてあるから、そう簡単には切れないと思うけど……」
「ありがとな。大事にするよ」
少し不安そうに言うティリア手を握りながら言うと、ティリアも微笑んでくれる。
……これでみんなとはお別れだ。俺の修行がどれくらいかかるかはわからないが、かなりの期間会えなくなるだろう。
寂しくはなるが、そろそろ行くか。そう思った時
「おっほっほ! 別れは済んだかの、坊主よ」
突然後ろから声がした。振り返るとそこには、腰が曲がって150センチほどの身長しかない老人が立っていた。手には杖を持ち、頭のてっぺんで髪を一括りにしており、髭を生やしている老人だ。
「……ギルアン様、突然現れないで下さいよ」
「何を言うか、ゼクティスよ。これがわしの専売特許じゃぞ。女風呂だろうか、更衣室だろうかどこでも移動する。それがわしのモットーじゃ。それでは、お主の息子を預かるぞ」
父上と老人が話を始めたと思ったら、老人が俺の手を掴む。そして、老人の魔力が俺毎包んだと思ったら、目の前は既に屋敷ではなかった。
辺りは薄暗く、木々鬱蒼と茂っていた。どこかの森の中なのだろうか? その上、四方八方から生き物の気配がする。既に囲まれているようだ。ここは一体?
『ここは、人族大陸の中で3番目に脅威とされているユグラード魔山じゃ。わしの家はこの山のどこかにある。そこに辿り着けば、鍛えてやろう』
俺をここまで連れて来た老人の声がそれっきりで聞こえなくなった。そして、それと同時に、辺りの気配が一気に俺に近づいてくる。
近づいて来たのは、大きさ1メートル程の黒い狼だった。王都の近くでは見た事のない種類だ。そんな狼が、全部で20体ほど。これはいきなりやばすぎるだろ!
俺は直ぐに剣を抜く。身体強化を発動して、迫る黒狼たちと対峙する……ん? なんだか、魔力の循環が何時もより楽な気がするが……まあ良い、そんな事を考えている場合じゃない。
「来いよ、狼ども!」
ぶった切ってやる!
◇◇◇
「……行っちゃったわね」
「ああ」
涙を浮かべながら先程までゼストがいた位置を見るミリアーナ。俺はそんなミリアーナの肩を抱く。初めて家族が家を出るのだ。誰よりも家族を愛しているミリアーナには辛いだろう。
「おじ様」
悲しむミリアーナを慰めていると、ティリアが側に立っていた。前話していた事だろう。
「ティリア嬢。本当にやるんだな?」
「はい。ゼストの隣に立つには、私自身強くなるしかありませんから!」
決意の決めた輝く目で、俺を見てくるティリア。ったく、あの馬鹿息子はこの子といい、ディッシュといい、友人、恋人に恵まれやがって。
「わかった。ティリア嬢とディッシュは今日から第3兵団で俺が鍛えてやる。他の兵団長も手伝ってくれるだろう。ただ、その分過酷になる事はわかっているな? 途中で諦めたら二度と鍛えない」
「わかっています。覚悟の上です!」
ゼスト、油断していたらあっという間に追い抜かれてしまうぞ。
母上はそう言って、俺を抱き締めてくれる。母上の暖かい体温、一定にリズムを刻む気持ちの良い鼓動が聞こえる。
「母上、修行が終われば一度帰って来ますので。それから手紙も書きますから、ね」
俺の言葉に泣く泣く離れて行く母上。母上に物凄く心配をかけてしまって申し訳ないと思う反面、前世では味わえなかった母親の愛情というものがヒシヒシと感じる。
そして母上と入れ替わるように俺に抱きついて来たのは、セリーネだ。セリーネは俺より頭1つ分小さい。俺の胸元ぐらいしか背が無いので、俺に抱きついて、胸元に頭を擦り付けてくる。
「お兄様、これからお兄様に色々と教えてもらおうと思っていたのに……」
俺は優しくセリーネの頭を撫でてあげる。
「ごめんな、セリーネ。俺も色々と教えてあげたかったけど……」
「いえ、これは私の我が儘ですから。私はお兄様の事を応援しています。頑張って下さいね」
「ああ、ありがとな、セリーネ」
セリーネも泣く泣く俺から離れて行く。そして次に顔を動かした先には、腕を大きく広げて待っている兄上の姿が。少しの沈黙。
「……俺は抱き締めてくれないのかい、ゼスト?」
「流石に男同士はあれかと……」
再び沈黙が訪れる。兄上は冗談だ、と言いながら広げていた腕を戻して、何かを渡して来た。渡されたのは小袋で、中に何か入っている。
それを受け取ると、開けても良いというので開けると、中には黄色く輝く液体が入った瓶が3本入っていた。
「これって…….」
「それは、最上級ポーションだ。ある程度の毒にも効くし、怪我も死以外のものは殆ど治せる。切られた腕を生やしたりは出来ないだろうけどね」
そう言い笑う兄上。そんな貴重な物を。俺はありがたく受け取る。これは非常用のため大切に使わせてもらおう。
そして最後に
「父上」
「お前にこれを渡しておく」
父上がそう言い渡して来たものは短剣だった。魔力を帯びているので特別なものなのだろう。
「お前には固有魔術があるだろし、主となる武器は自分で見つかるだろうが、万が一魔術が使えなかった時などに使うと良い」
「はい、ありがとうございます、父上」
俺は父上から受け取った短剣を、腰の剣と同じように装備する。短剣は必ず必要になる。これは有難い。
そして、最後に
「ゼスト。私はおじ様やお義兄様のように高価なものでは無いけど、これを」
「これは……ミサンガか?」
ティリアが俺の手を取って付けてくれたのは、赤色と白色が使われたミサンガだった。それを俺の利き手である右手首に付けてくれた。
「あら、知っていたの?」
「名前だけは」
「そう。ゼストの健康を祈って私が一から作ったの。魔術保護もしてあるから、そう簡単には切れないと思うけど……」
「ありがとな。大事にするよ」
少し不安そうに言うティリア手を握りながら言うと、ティリアも微笑んでくれる。
……これでみんなとはお別れだ。俺の修行がどれくらいかかるかはわからないが、かなりの期間会えなくなるだろう。
寂しくはなるが、そろそろ行くか。そう思った時
「おっほっほ! 別れは済んだかの、坊主よ」
突然後ろから声がした。振り返るとそこには、腰が曲がって150センチほどの身長しかない老人が立っていた。手には杖を持ち、頭のてっぺんで髪を一括りにしており、髭を生やしている老人だ。
「……ギルアン様、突然現れないで下さいよ」
「何を言うか、ゼクティスよ。これがわしの専売特許じゃぞ。女風呂だろうか、更衣室だろうかどこでも移動する。それがわしのモットーじゃ。それでは、お主の息子を預かるぞ」
父上と老人が話を始めたと思ったら、老人が俺の手を掴む。そして、老人の魔力が俺毎包んだと思ったら、目の前は既に屋敷ではなかった。
辺りは薄暗く、木々鬱蒼と茂っていた。どこかの森の中なのだろうか? その上、四方八方から生き物の気配がする。既に囲まれているようだ。ここは一体?
『ここは、人族大陸の中で3番目に脅威とされているユグラード魔山じゃ。わしの家はこの山のどこかにある。そこに辿り着けば、鍛えてやろう』
俺をここまで連れて来た老人の声がそれっきりで聞こえなくなった。そして、それと同時に、辺りの気配が一気に俺に近づいてくる。
近づいて来たのは、大きさ1メートル程の黒い狼だった。王都の近くでは見た事のない種類だ。そんな狼が、全部で20体ほど。これはいきなりやばすぎるだろ!
俺は直ぐに剣を抜く。身体強化を発動して、迫る黒狼たちと対峙する……ん? なんだか、魔力の循環が何時もより楽な気がするが……まあ良い、そんな事を考えている場合じゃない。
「来いよ、狼ども!」
ぶった切ってやる!
◇◇◇
「……行っちゃったわね」
「ああ」
涙を浮かべながら先程までゼストがいた位置を見るミリアーナ。俺はそんなミリアーナの肩を抱く。初めて家族が家を出るのだ。誰よりも家族を愛しているミリアーナには辛いだろう。
「おじ様」
悲しむミリアーナを慰めていると、ティリアが側に立っていた。前話していた事だろう。
「ティリア嬢。本当にやるんだな?」
「はい。ゼストの隣に立つには、私自身強くなるしかありませんから!」
決意の決めた輝く目で、俺を見てくるティリア。ったく、あの馬鹿息子はこの子といい、ディッシュといい、友人、恋人に恵まれやがって。
「わかった。ティリア嬢とディッシュは今日から第3兵団で俺が鍛えてやる。他の兵団長も手伝ってくれるだろう。ただ、その分過酷になる事はわかっているな? 途中で諦めたら二度と鍛えない」
「わかっています。覚悟の上です!」
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