異世界で彼女を探して何千里?

やま

19.送別会

 俺の突然の発表に目を丸くして驚くみんな。その中でとある人物は、周りの中から早くに正気に戻り、机をバシンッ! と思い切り叩く。その音にみんなが振り向くと、男はそのまま俺の下まで歩いて来た。そして


「おいっ! 一体どういう事だよ、ゼスト!」


 俺に向かって怒鳴って来る。その男、ディッシュは俺を掴みかからんとばかりに寄って来た。まあ、この中で1番に声を上げるとしたら、ディッシュなのは予想がついていた。


「言った通りだ。俺は学園を辞める」


「だから、なんで辞めるか聞いてんだよ! 今までそんな事、一回も言った事がねえじゃねえか!」


 そのまま、予想通り俺に掴みかかってくるディッシュ。そこに割るようにグレル先生が入り込み、ディッシュの腕を掴む。


「おい、落ち着けよ、ディッシュ。これじゃあ、ゼストも話せねえだろうが。興奮するのもわかるが、一旦落ち着きやがれ」


「……わかりました」


 ディッシュは、グレル先生の言葉に渋々といった風に頷き、元の席へと戻っていった。


「そ、それで、どうして、ゼスト君は学園を辞めるの?」


 そんな一触即発の雰囲気に少し驚いたメアリーが、恐る恐る尋ねてきた。前世の話は出来ないから、少し誤魔化すしかないな。


 それから、ティリアに話したような前世の事などは隠しながらも、俺がこの国を出て、世界を周りたい事を伝える。その前に力不足なので、修行する事も。


「だから、みんなには申し訳ないが、俺はここを去る。俺がいなくなっても頑張ってくれよ?」


 俺が笑いながら言っても、当然みんなは暗い顔をする。どうしたものかと、考えていたら、ディッシュが再び立ち上がる。


 だけど、先ほどのように怒っている様子はなく、冷静になっているようだ。


「ゼストの考えは変わらないんだよな?」


「ああ、俺はもう決めたからな。父上たちにも、ティリアにも既に話している」


「そうか。それなら俺はもう何も言わねえ。俺に一言も相談無しに決められたのは、少しショックだったが、俺はお前を応援するよ」


「……ははっ、悪かったよ、ディッシュ。それとありがとな」


 俺とディッシュが笑い合っていると


「それでは、ゼストの送別会をしようではないか! 金額は俺が持とう! 何、親友のためのものなら痛くも痒くも無いさ!」


 ゼリックがそんな事を言ってくる。王子らしい発言にみんなも歓喜の声を上げる。


「はは、ゼリックだけに良い格好はさせられないよ。勿論僕も出そう」


 それに乗っかるようにカインズも言う。そして、ゼリックとカインズが手を叩くと、音も無く燕尾服を着た男と、侍女服を着た女が現れる。燕尾服の方がゼリック、侍女服の方がカインズだ。


 2人はそれぞれの従者に指示を出すと、それぞれが頭を下げて姿を消した。近くで見ているに、いつ消えたかわからないほどの速さ。2人もかなりの手練れのようだ。


 それから、みんなに囲まれて色々と話をしていると、2人が帰って来た。再び音も無く。何だか、凄いを通り越して怖くなって来たぞ。


「良し、それでは会場が準備出来たから向かうとしよう」


 ゼリックの号令にクラスのみんなが部屋を出て行く。いつの間にかグレル先生は教室からいなくなっていた。俺たちだけで楽しめって事か?


 教室を出て、学園の外に出ると、馬車が数台並んでいた。まさか、この短時間で馬車まで用意するとは。恐るべし、王族、公爵家。


 そのまま、俺たちは馬車に乗り、数分ほど揺られる。着いたのは、学生がよく使う飲食店だった。今日はここを貸し切りにしたらしい。従業員が総出で待ち構えていた。


 みんなで中に入ると、机が並べてられて、その上には既に料理と飲み物が配置されていた。立食式のようで椅子は無い。


 各机に行くと、みんながそれぞれグラスに飲み物を注いでいく。流石にお酒は無いが。貴族の子供たちは夜会などで稀に飲む事はあるが、基本は15歳になってからだ。この辺は前世とは違うな。


「それでは、ゼストの送別会を始めよう。みんなグラスを持ってくれ……良し、ゼスト、君は俺たちの学友であり、ライバルでもあった。そんな君が学園を出ていくのは悲しい事だ。だけど、俺は笑顔でお前を送ろう。これが今生の別れでは無いからな。必ず戻って来て国の為に働いてくれると信じている! それでは、ゼストの新たな門出を祝った乾杯!」


「「「「乾杯!」」」」


 ゼリックの音頭で始まった送別会。みんなでワイワイと騒ぎながら食べる食事は、前世でみなみが突然開いた菓子パーティーを思い出す。何を思ったか、あいつ突然お菓子と飲み物を大量に買って教室に持って来たんだよな。


 それから、みんなでぎゃあぎゃあ騒いで先生に見つかるという、今思えば笑える事もしていたんだよな。


 そんな昔の事を思い出しながら、みんなと楽しく話をする。俺がまず帝国に行く話をしたので、色々と帝国の事も聞けた。特にメアリーは商会をしているため、俺が探している店も知っていた。


 商会の名前は『シロネコヤマト商会』という名前らしい。どこかで聞いた事のある名前を弄ってやがる。そこでは、見た事のないような商品が所狭しと並べられているらしく、値段も貴族から平民まで幅開く手がつけられる値段だそうだ。


 そのため、帝国の中では急成長した商会であり、最近では他の商会の販路も狙っているらしい。その商会の会長は女らしい。一体誰なのか気になるな。


 だけど、そこに行けるのもまだまだ先の話だ。今考えても仕方がない。


 周りを見渡すと、いつの間にか上半身を脱いだゼリックとディッシュが腕相撲をやっていたり、クラスメイト同士が告白して、何故か恋人同士になっていたりと、不思議な現象が起きてはいたが、楽しく送別会は終わった。


 俺も、これで心置きなく出る事が出来るな。

「異世界で彼女を探して何千里?」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く