異世界で彼女を探して何千里?

やま

17.話

「……ティリア」


 扉から物凄く申し訳無さそうに部屋へと入ってくるティリア。俺もあんな事を言ってしまって物凄く気不味いが、しっかりと話しなければ。


 ティリアはそのまま部屋には入って来たが、扉の前で、立ったままだ。俺は少し痛む体を起こして、ベッドから足を出し、ベッドに腰掛けた状態になる。そして、俺の隣をポムポムと叩く。


 ティリアも俺が言いたい事がわかったのか、少し迷いはしたが、折れて俺の隣へと座る。少し間が空いているのが、今の俺とティリアの空気を表しているな。


 それから再び沈黙が訪れる。俺もティリアも一言も話さない。ここは俺から話すしかないよな。元はと言えば俺が悪いのだし。


「ティリア」「ゼスト」


「「えっ?」」


 ……なんて定番な。俺もティリアも同時に名前を呼ぶなんて。


「ぜ、ゼストからどうぞ」


 ティリアは少し恥ずかしそうに、俺に先を譲ってくれた。そうだな。俺が話し出さなければ話は進まない。ふぅ、深呼吸して心を落ち着かせてと。戦う時よりも緊張するな。


「ティリア、さっきは悪かったな。急にあんな事を言って」


「……ゼストは私との婚約をどう思っていたの? 私はあの時からずっとゼストの事を思って来た。だから、この婚約の話が来た時は本当に嬉しかったの」


 あの時? 昔の俺はティリアに何かしたのだろうか? わからないけど、俺の事をずっと思ってくれていたのは嬉しい。


「俺もティリアの事は、嫌いではないよ。むしろ好ましく思っている。だけど、今は好きにはなれないんだ」


 これは、俺がただ女々しいだけだ。俺の言葉に苦しそうに顔を歪めるティリア。彼女のそんな顔を見るは俺も始めてだ。


 ……正直に話すべきか? だけど、俺の話は突拍子も無い話だ。普通だと信じてもらえないだろう。だけど、彼女には話しておかないといけない気がする。


 ……話すか。俺はティリアの方へと体を向けて、彼女と目を合わせる。彼女の目は、何を言われるか不安そうに揺れていた。


「ティリア、今から誰にも言っていない大切な話がある。この話はティリアの心の中に留めておいて欲しい。出来るか?」


 俺の言葉に一瞬戸惑うような表情を浮かべるが、俺が真剣に言っている事がわかって、ティリアも真剣な表情に変わり、頷いてくれる。


「ティリア。突拍子も無い話なのだけど、本当の話だ。信じて聞いて欲しい」


 それから俺は、ティリアに前世の記憶がある事を話していく。多分原因は半年前の魔力の暴走が原因だという事も。


 昔の名前。どのようなところに住んでいたのか。前世で俺が死んだ原因。同じクラスメイトと出会い、もしかしたらクラスメイトたちがこの世界に転生しているかもしれない事。そして、前世の俺の大切な人もこの世界にいるかもしれない事。


 全て俺の妄言だと、言われてしまったらそれで終わるような話を、ティリアは最後まで真剣に話を聞いてくれた。


 昔の俺の親の事は軽くしか話さなかった。話しても仕方がなかったからな。本当に簡単にだけ伝えた。


「信じられないかもしれないが、これが俺だ。前世のセイヤ・カミキであり、今世のゼスト・アルラルトでもある」


「……そんな事があるのね。でも、ゼストは変わっていないのよね?」


「ああ、俺は俺だ。ただ昔の記憶が戻っただけで、小さい頃からティリアと過ごした思い出は消えていない」


 俺がそう言うと、ティリアはホッとした表情を浮かべる。


「それで、この前犯罪者に襲われた時があるだろ?」


「うん。あの演習の時よね。あの赤髪の男が襲って来た」


「ああ。俺とディッシュで何とか倒した奴だ。あいつがこの世界で初めて出会ったクラスメイトだったんだよ」


「ええっ?」


 まあ、あの捕まえた男が、俺の知り合いなんて全く思わないだろう。俺も予想外だったし。


「そいつから話を聞いたのだけど、さっきも話した通りこの世界には、俺の前世の時のクラスメイトが来ている。そんなに会いたいと思う奴はあまりいないが、来ているのなら絶対に会いたい人が1人だけいるんだ」


「それが、昨日言っていた探している人?」


「ああ、俺の人生を変えてくれた大切な人だ」


 俺が彼女の事を思い出していると、ティリアは暗い顔をする。その表情に心が苦しくなるが、そのまま話を進める。


「だから俺は、探しに行きたいんだ。最悪、その人の生死だけでも知りたいから。まあ、その前に修行をしないといけないけど」


 ティリアは俺の言葉を黙って聞き、1人で考え込んでしまった。彼女が何を言うかはわからないが、ここは待とう。


 それから、ティリアは10分ほど考えて、何かを決めたような表情で俺を見てくる。


「ゼスト、わかったわ。話してくれてありがとう」


 ティリアはそれだけ言うと、部屋を出て言ってしまった。あんな事を言った俺に愛想を尽かしたか? それは悲しいが、いつ帰ってくるかわからない俺なんかのために、彼女が人生を振る必要は無い。これで良かったんだ。


 俺はこの考えが勘違いだとは気が付かず1人で納得してしまった。

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