異世界で彼女を探して何千里?

やま

12.1週間後

「……」


「おい」


「……」


「……おい、ゼスト」


「……」


 ピキッ!


「おいって、言ったんだろうが!」


 ゴツンッ!


「いでぇっ!?」


 突然頭に広がる激痛。俺は頭を押さえて机に伏せるしか無かった。なんだ今のは!? そう思っていると、頭の上から唸るような低い声が聞こえてくる。


「おい、ゼスト。何度も呼んでいるのに無視とはいい度胸しているじゃねえか?」


 恐る恐る顔を上げてみれば、そこには般若のような恐ろしい顔で俺を見下ろしていたグレル先生が立っていた。


「い、いや、ちょっと、ぼーっとしてまして……あは、あははは……」


「ほう。俺の授業をぼーっと受けられるほど余裕って事は、今から小テストをやっても満点が取れるんだな?」


「い、いや……」


「よし、今から小テストを行う! 8割取れなかった者は、放課後訓練場の掃除を行なってもらうからな!」


 グレル先生の言葉にクラス全員が「えぇ〜!」と不満の声を上げる。そして、次に俺を睨んでくる学友たち。わ、悪かったからそんな睨むなよ。た、頼むから。


 ……俺は言うまでもなく、放課後残る事になってしまった。


 ◇◇◇


「ったく、とんだとばっちりだぜ」


「悪かったよ。だから、そんな睨むなよ」


 俺は一緒に掃除するディッシュから顔を逸らす。周りには他にも点数が達しなかったクラスメイトがバラバラで訓練場の掃除をしている。


「しかし、最近どうしたんだよ? なんか、ぼーっとしているのが増えたんじゃねえのか?」


 黙々と掃除をしていると、ディッシュが突然そんな事を言って来た。俺はドキッとしたが、そのまま黙っている事にした、が


「前の外部演習の時からだな。あの男と話をしてからだろ?」


 そんな事を言って来たディッシュを思わず見てしまった。なんでわかるんだよ。そう思ったが、ディッシュは「やっぱりそうか。俺の勘も冴えてるぜ!」と喜んでいやがる。勘かよ。だけど、次には真剣な顔をして


「それは、俺やティリアにも話せない事なのか?」


 と、尋ねてきた。俺は自分の頭をガリガリと掻くが、至る結論は当然「話せるわけがない」に至る。


 正直に「命懸けで戦って倒した相手は、前世の学校のクラスメイトでした」なんて話しても信じないだろうし。まず、前世の事すら話せるわけがないのに、今回の事を話せるはずがない。


 だから俺は


「……悪いな」


 としか言えない。ディッシュは俺の言葉に不機嫌そうな表情を浮かべるが、俺はそれを気づいていないふりをして、掃除を進める。


 ……帝国か。ここから馬車で3週間程の距離にある大国。そこにもしかしたら俺や小林と同じように転生した奴がいるかもしれない。それにもしかしたらみなみもこの世界のどこかにいるのかもしれない。そう考えたら俺は……


 ◇◇◇


 小林と出会ってから1週間が経った。今日は学園も休みの日で、普段なら父上やディッシュと修行をしたりしていたのだが、今日は違う。


「一体どうしたのかしら、ゼストちゃん。とても大事な話があるって言っていたけど」


「さあ、俺も知らん。だがレグラーノ伯爵も招待していると言うのだから、今後の話になるんじゃないのか?」


「しかもお兄様、正装なんか着てどうしたのでしょうか?」


 俺は1人で玄関で待っていると、後ろからそんな声が聞こえる。みんなには事情は説明していないからな。不思議に思っているのだろう。因みに兄上は今日は仕事だ。


 玄関で待つ事數十分。外に馬車が入ってくる音がする。そして扉の前で止まり、ドアノッカーが叩かれる。俺は深呼吸をして扉を開けると、そこには、レグラーノ伯爵家の御者の人が立っていた。


「これは、ゼスト様。おはようございます」


「おはようございます、ゲンさん。皆様は?」


「馬車でお待ちしております。案内しても?」


「構いません。私も行きましょう」


 俺は御者のゲンさんと一緒に外に出て、レグラーノ伯爵たちを迎えに行く。俺は馬車の前で待ち、ゲンさんが馬車を開けると、中から銀髪の男性が出てくる。


 父上ほどの身長で鋼のような肉体を持つ偉丈夫で、第1兵団団長のアルテイル・レグラーノ伯爵。


 それから、腰まで伸ばした金髪を後ろで一括りにして、豊かな胸を揺らして降りて来た美人な女性は、レグラーノ伯爵の奥さんで、ティリアの母親になるミランダ・レグラーノ夫人だ。


 レグラーノ伯爵の元部下で、怪我して軍で働けなくなったところを、レグラーノ伯爵が猛アプローチして、妻にしたそうだ。残念な事にティリアは、美貌は受け継いでいるが、胸はダメだったようだ。


 因みに父上とレグラーノ伯爵は同級生になる。


「やあ、ゼスト君。久し振りだね」


「本日はお呼びだてして申し訳ございません、レグラーノ伯爵。夫人もお越し頂いて申し訳ございません」


「ふふ、構わないよ。未来の義息子が私たちを呼んでいるのなら来るさ」


 そう言って微笑むレグラーノ夫人。その後ろからひょこりと顔を出すティリア。今日は制服じゃなくてドレスを着ているようだ。


「ふ、ふん、ゼストが呼んでいると言うから、来てあげたわよ!」


 ティリアは腕を組んで尊大な口調でそんな事を言う。俺は苦笑い、伯爵たちも微笑ましそうに俺たちを見て来る。


 そんな3人を屋敷の中へと案内すると


「よくいらしてくださいました、レグラーノ伯爵、夫人も」


「屋敷で会うのは久し振りだな、ゼクティス。いつもは兵舎だからな。ああ、ここは身内しかおらんから昔のような感じで構わんぞ」


「わかった。よく来てくれたアルテイル。夫人も久しいな」


「ええ、お久しぶりです、ゼクティス様」父上と母上は順番に2人と挨拶を交わしてから、中へと案内して行く。中ではセリーネがお辞儀をしながら待っていた。


「おお、セリーネ嬢か。また綺麗になったな」


「ふふ、お褒め頂いてありがとうございます、アルテイルおじ様」


 それから、軽く話しをしてから席に座る。父上とレグラーノ伯爵が対面に座って。その隣母上、俺、セリーネと続く。レグラーノ伯爵たちも夫人、ティリアと続く。


「それでゼスト君よ。私たちを呼んだ理由はなんだね? ティリアとの事で何かあったのか?」


 早速本題へと入って来るレグラーノ伯爵。俺は真呼吸をして、レグラーノ伯爵の方を見る。これから俺が言う事は、かなり最低な事だ。ティリアを確実に傷付けるだろう。この家にもいられないだろう。


 俺は席から立ち上がり、レグラーノ伯爵の方を見る。そして頭を下げ


「レグラーノ伯爵。申し訳ないのですが、ティリアとの婚約は無かった事にして下さい」


 自分の心臓の音が聞こえるのでは? と思うぐらい、周りからは音が無くなった。

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