異世界で彼女を探して何千里?

やま

11.赤髪の男の前世

「あん? 前世の事だぁ? 何でお前に話さないといけねえんだよ」


 俺を軽く睨んでから、ぺっ、と地面に唾を吐き出しそっぽを向く赤髪の男。俺は男の胸倉を掴んで、喉元に短剣を突き付ける。


「いいから話せよ」


 赤髪の男は、俺があまりに真剣なのに驚いたのか、少し目を丸くしていたが、そこからはポツリポツリと話し始めた。


 男は帝国生まれらしく、両親の顔は知らないらしい。帝国の裏町で、盗みなどをして暮らしていたようだ。そんな時、自分は魔術が使える事に気がついた男は、その魔術を自己流で鍛える。


 何故か、魔術を使うときは、頭の中で色々と思い浮かんで、それを訓練していたら、裏町では負けないほど強くなっていたそうだ。


 どうして、そんな訓練方法が思い浮かんで来るのか、自分でも分からなかったが、それで強くなれるのならそれで良いと思っていた。


 そして、力を手に入れたら試したくなるのが、男の性というやつらしく、そのまま裏社会に手を出したそうだ。


 だけど、裏町では強かった男も裏社会では、そこそこでしかなく、ズタボロにされたらしい。それが、今こいつが所属している組織のボスだったとか。


「その時の戦いで、死にかけた俺は、突然頭の中に前世の事を思い出したんだよ。あれは20ぐらいの時か。俺が前世で、高校生、お前らのようなガキが集まる学園に通っていた時のな」


「……高校生……だと?」


「ああ、この世界じゃ考えられねえほど平和なクソの世界だ。この世界には無い空飛ぶ乗り物、馬のいらねえ車、魔術が使えない素人でも戦場で人を殺せる武器。色んな物があった。ただ、この世界に比べて法律が厳しかった。俺はあの頃は本音を隠して生きていた」


「本音?」


「ああ、俺はガキの頃の理科の実験が好きでよ。まあ、理科って言っても分からねえだろうが。特に動物の解剖がな。途中からは倫理的な問題で無くなったが、自分で動物を捕まえてやるようになった」


 ……何でこいつは、平然とこんな話が出来るんだ。狂っているとしか思えない。


「始めはカエル、ネズミ、ネコと次々大きくなっていって、その対象が人間に変わるのはそう遅くはなかった」


「……狂っているな、お前」


「はっ、なんとでも言え。俺は自分が好きな事をやっていただけだ。誰にも迷惑かけちゃいねえ。だが、あんまりやり過ぎるとバレるからな。高校では大人しくしていた。教室の端っこで本を読んで真面目君を演じながらな」


 高校生。まさか俺と同じとは。そんな偶然があるのか。……いや、もしかして……俺ははやる心臓の音を何とか落ち着かせようとして、深呼吸をする。そしてとある単語を言葉にする。


「……聖羅学園」


 俺のボソッと呟いた言葉に、俺の顔を見る赤髪の男。その目は、何故その言葉を知っていると、目で語ってくる。


「……お前もバスの事故でこの世界に転生したのか?」


 俺が1番重要な事を尋ねると、赤髪の男は突然笑い出した。


「かっはっはっはっは! まさか、このだだっ広い世界で2人目・・・に出会うとはな! しかも、そいつに捕まるとは!」


「お前は一体誰だ。それに2人目ってどういう事だ!」


「くはは、教えてやるよ。俺の名前は『小林 哲夫』周りからはメガネって呼ばれていた男だよ」


「お前……あの小林君か」


 小林 哲夫


 クラスではあまり目立つ事の無いクラスメイトだった。運動は苦手で、勉強は中の上といったぐらいの成績で、俺もそんなに話した事は無かった。席が近くになった時にごく稀に話すぐらい。


「あの時からは想像がつかねえって顔をしているな。俺はあの頃から隠していたんだよ。バレたら面倒だからな。それでお前は誰なんだよ?」


「俺の前世の名前は……神木 誠也だ」


「へぇー、あのリア中か。まさか2人目がお前とはな」


 くくくっ、と笑う小林。まさかこの世界で前世の同級生に会う事になるとは。しかも、小林が言う通りこの世界はかなり広い。それなりの人数がいるのに出会う事が出来たとはな。驚きだ。


「それで、2人目ってどう言う事だよ?」


「2人目は2人目さ。2年前、俺がまだ帝国にいる時にとある商会があってな。そこである商品が売られてたんだよ。驚いたぜ、あれは」


「とある商品?」


「ああ、将棋だよ。しかも、漢字でな」


「って事は……」


 俺が、小林に尋ねようとした時、


「ゼスト! 無事かっ!」


「ゼスト!」


「「ゼスト君!」」


 と、俺の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。声のする方を見ると、グレル先生を先頭に、王国兵団に、助けを呼びにいったティリアたちがやって来た。


 王国兵団は直ぐに小林を囲み、鎖付きの腕輪をつけていく。あれは魔力封じの腕輪で犯罪者や奴隷などに付けられる物だ。


「クックック、もしそいつが気になるのなら、帝国に行ってみな。まだいると思うぜ」


 小林は、それだけ言うと、王国兵団に連れて行かれた。グレル先生はいつの間にか気を失っていたディッシュを見て、メアリーはディッシュの治療を。ティリアは俺の心配をしてくる。


 だけど、その言葉は何1つ頭に入ってこなかった。この世界に転生して、犯罪者をやっていた小林。商会で将棋を販売している誰か。


 もしかすると、他にも同級生がいるのかもしれない。そしてもしかしてもしかすると……みなみもこの世界に転生しているかもしれない。俺の頭の中は、その事で一杯になってしまった。

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