異世界で彼女を探して何千里?

やま

6.この世界に来て

「はぁっ!」


 俺は切りつけて来る剣を、体を晒して更に相手の手を掴み力の流れている方へと引っ張る。相手はそのまま勢いに流されこけるが、入れ替わるように別の相手が槍で突いてくる。


 俺の顔を狙った三連突きを右手に持つ剣で弾き、槍持ちの相手へと槍の内側に入る。槍持ち入る慌てて引き戻そうとするが、それよりも早く懐に入り腹部に掌打を打つ。


 槍持ちは掌打をくらった腹部を押さえて悶絶するが、そこを狙って剣を振り下ろそうとすると、割り込むように2つの影が。


 新たに剣を持った相手が2人。更に後ろから複数人。俺を囲んできたのか。


 俺は囲みから抜けるように移動しながら攻撃するが、次第に追い込まれていく。そして少し気を逸らした好きに、横から剣が振り下ろされ、俺の剣が弾かれてしまう。


 そこに迫る複数の刃。全ての刃が俺の首元を狙って伸びていく。四方八方から伸びてき、俺は逃げる事が出来ずに首元に刃が当てられる。ヒンヤリとする冷たい感覚。そして俺は……


「はい、そこまで。まあ、魔術無しじゃあこんなもんだろう」


 父上の号令で俺から離れて行く相手たち、兵士の皆さんたちだ。俺は疲労感や緊張感からのせいで、ドッと疲れたのでその場に座り込む。そこに


「お疲れ様、ゼスト。これはい、汗拭き用の布と飲み物よ」


 両手に布と筒を持ったティリアが俺の側に立ち、手に持つ2つを渡してくれる。俺は有難く受け取り、筒に入っている水を飲んで、乾いた喉を潤す。


「……ふぅ、有難うティリア。助かったよ」


「えへへ、別に構わないわよ。私はあなたの婚約者なのだから」


 俺がお礼を言うと、嬉しそうに微笑んでくれるティリア。そこに


「おいおい、訓練の合間でも夫婦でイチャつくなよ。見てるこっちが恥ずかしいぜ」


 別のところで訓練を受けていたディッシュが戻ってきた。ディッシュも所々砂まみれで傷まみれだ。ディッシュも厳しくやられたようだな。俺もあちこちに痣があるぜ。


 俺が第3兵団の父上の下で訓練を始めてから半年が経った。初めの頃は、やはり戸惑いの方が大きかったが、今では少しずつではあるが、この世界に慣れてきている。


 だけど、今でも朝ふと起きると、俺は「神木 誠也」で、「ゼスト・アルラルト」の事は全部夢だったんじゃないのか? と。その内みなみがいつもみたいに迎えに来るんじゃないか? と、考えてしまう。


 しかし、辺りを見渡せば、この半年間で見慣れたゼストの部屋だ。そこで、ああ、俺はゼストになったんだな、もうみなみには会えないんだ、と悲しい気持ちになってしまう。


 全く女々しくて涙が出て来る。ここまでみなみに依存していたとは。


 だけど、もう戻る事の出来ない事に縛られていられないとも思い始めた。


 じゃないと、俺を生んでくれた父上や母上、色々と相談に乗ってくれる兄上、俺を兄と慕ってくれるセーリネ、俺をライバルとして見てくれるディッシュやクラスのみんな、そしてこんな俺を好きだと言ってくれるティリアに失礼だ。


 ただ、ティリアの気持ちに応える事はまだ出来ない。彼女の気持ちはわかっているのだが、俺の中にはまだ……


「ゼスト、どうしたの、急にそんな難しい顔して?」


 俺が1人で考え込んでいると、目の前には心配そうに俺を覗き込んで来るティリアの顔があった。少し驚いたが、俺は何でもないと首を振ると、ティリアは首を傾げながらも納得して離れてくれる。


「そういえばゼストたちは、明日から学園の外部演習だったか?」


「はい、父上。クラス毎にわかれて、ここから2時間ほど離れた村で2泊3日過ごして、その間に魔獣との戦い方などを訓練します」


 この世界は魔獣が存在するからな。魔獣とは体内に魔力の塊である魔石を持っている生き物の事だ。魔石があるかどうかで、普通の獣と魔獣を区別する。


 昔の学者の話では、普通の獣が空気中に漂う魔素を体内に蓄えて、変異した姿が魔獣だと言われていたりもする。定かではないが。


「そうか。まあ、ゼストとディッシュは既に何度か経験しているから大丈夫だとは思うが、気は抜くなよ」


 俺とディッシュは父上の言葉に頷く。特に俺は。俺が魔獣と戦ったのは、まだ神木 誠也の記憶が戻る前の話だ。戻ってからは外に出ていないので、まだ見た事すら無い。


 初めて見る魔獣、それを殺さないといけないとなるも、もしかしたら体が動かなくなるかもしれない。でも、倒さないと、逆に殺されるのがこの世界だ。だから嫌でもやらないとな。


 ただ、この外部演習で、この事をこれほど実感するとは思わなかったが。

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