異世界で彼女を探して何千里?

やま

2.この世界の家族

「……もうこんな時間か。気持ち良かったから眠ってしまったのか」


 俺は、欠伸をしながら体を起こす。ティリアに怒鳴られたから、ずっとここで横になって考えていたら、気持ち良すぎて眠ってしまったようだ。


 空はもう赤く染まっており、学生も既に下校しているようだ。残っているのは部活動をしている奴か、勉強熱心な奴が図書館や訓練場を使っているぐらいだろう。


 俺もさっさと帰ろうかと思い教室へ戻ると、そこには


「やっと帰って来たな、馬鹿生徒が!」


「痛えっ!?」


 そんな声と共に振り下ろされる拳。俺はあまりの痛さに、殴られた場所を手で押さえて蹲る事しか出来なかった。


「この野郎、授業を1日全てをサボるとはいい度胸してるじゃねえか、あん?」


 俺は恐る恐る顔を上げるとそこにはゴリ……もとい俺の通うクラスの担任が腕を組んで立っていた。


 名前はグレル・バッカーニア先生。元王国近衛団の副団長で、学園長の推薦で教師となった人物だ。


 見た目は完璧にゴリラだが実力はかなりのもので、授業はわかりやすく、この人のクラスになった生徒は、かなり成績が上がると言われているほどだ。


「……痛てて……別に殴る事ないじゃ無いか、グレル先生」


「はっ、1日授業をサボっている奴が何言ってんだよ……前の事故から生徒たちがお前の様子がどこかおかしいと言っている。まだ、調子が戻らねえのか?」


 さっきまでの威圧的な雰囲気ではなくて、物凄く俺を心配してくる。あの時もこの人は直ぐに駆けつけてくれたな。


「大丈夫ですよ。怪我は魔術で治りましたし」


「そうか? お前は今までサボるなんて事しなかったからな。少し心配になっちまったよ。まあ、何かあったら話してくれよ。金と女以外の事なら相談に乗ってやるよ」


 そう言ってニカっと笑うグレル先生。俺は頭を掻きながら


「はい、何かあれば相談します」


 と、言って荷物を持って教室を後にした。グレル先生は物凄く良い先生なのだが、この事を話せるわけがない。前世の記憶があるなんて話せば、事故の後遺症かなにかと疑われるだけだしな。


 それから俺は、1人王都を歩く。空はすっかりと暗くなってしまっている。両親たちも心配しているだろうな。


 俺の父親は王宮で働く武官のため、領地は持っていない。だから王都に国から頂いた屋敷がある。俺もそこから通っている。


 外から来た生徒には寮が与えられるが、全員が入れる程は無いので、王都に住んでいる生徒は全員が通いだ。まあ、こんなに近いのに寮って言われても逆に困るんだけどな。


 屋敷に戻ると、そこで


「ああっ! やっと帰って来たわね、ゼストちゃん! もう、心配かけて!」


 思いっきり抱き締められた。顔が物凄い重量感があるものに挟まれて呼吸が……。


「ティリアちゃんに、最近ゼストちゃんが授業をサボっているって聞いて、私、不良になったんじゃ無いかって心配で心配で! それに帰りも遅いし、何度探しに行こうかと思ったことか!」


 ……や、やばい、い、意識が


「母上、そこまでにして下さい。ゼストが死にそうですよ」


 そこに、救いの声がかけられる。その声にようやく離してくれた女性、俺の母親であるミリアーナ・アルラルト。元宮廷魔術師で昔は「紅蓮の乙女」なんて呼ばれていた人だ。


 見た目は20代なのだが、実際には40手前だ。物凄い巨乳の持ち主な上に、どこか天然が入っている。今では3人の母親をしている。ただ、物凄く心配性なのだ。今みたいに。


「……はぁ、はぁ、た、ただいま帰りました、母上、兄上」


「ああ、お帰りゼスト。クク、ティリアから聞いたよ。最近良く授業をサボっているだって? 父上が聞いたらなんて言うか」


「そうよ! どうしてそんな事するの? はっ! もしかしてまだ体の調子が悪いの!? ゼクスちゃん! 医者を! 医者を呼んでちょうだい!」


 俺を見てクスクスと笑う金髪イケメンは、俺の兄であるゼクス・アルラルト。18歳という若さで、王国近衛団に所属する天才だ。俺の記憶でも5回戦って1回ほどしか勝てない。


「まあまあお母様。落ち着いて下さい。お兄様たちが困っていますよ」


 そこに割って入って来たのが、金髪の少女。まるで人形のような可憐さは母上を若くさせたような雰囲気を持つ。胸は引き継がなかったが。


 俺たちの妹で、セリーネ・アルラルト。今年10歳で同じ学園の後輩になる。金髪の髪を肩口で揃えている。


「うぅぅ……でもゼストちゃんが心配で……」


「ふふ、大丈夫ですよ、お母様。偶にはそういう時もありますよ。……例えば、醜い婚約者に迫られた時とか」


 最後の方はボソッとしか聞こえなかったが、物凄く悪い顔をしているぞ、セリーネ。


 この3人に加えて


「おっ、珍しいじゃ無いか、全員が玄関にいるなんて。もしかして俺の出迎えか?」


 そこに丁度帰ってきた男性、俺たちの父親で、王国軍の第3兵団の団長を務める、ゼクティス・アルラルトだ。王国兵団は全部で10兵団あり、その内の1つを任されている。


 王国の軍は、王族、貴族の護衛を任される王国近衛団と、王国の治安、外敵の排除、魔獣の撃退を任される王国兵団、魔術関係を司る魔術兵団がある。


 父上はこの王国兵団、兄上が王国近衛団、母上が元だが魔術兵団に入っていた。どれも才能が無ければつく事が出来ない役職ばかりだ。これが俺のこの世界での家族になる。


 それから、事情を知った父上に怒られて、何故か俺を怒る父上に母上が怒ってと、中々カオスな状況にはなったが、ちゃんと授業に参加する事と、明日から放課後に父上の兵団に顔を出す事で許してもらった。


 別に怒られるのはわかっていた事なのだが、明日から兵団に顔を出さないといけない事に少し憂鬱だ。

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