異世界で彼女を探して何千里?

やま

1.夢の無い男

「……がぁっ……はぁ、はぁ、み、みなみ……みなみ!」


 全身が痛む中、俺は隣に座る彼女の名を呼ぶ。だけど、彼女は動かない。さっきまで楽しそうに笑っていた笑顔も、今は無くなり、虚ろな目をしている。


 周りの奴らもそうだ。さっきまで楽しそうに話していた女子たちも、トランプをして大爆笑していた男子たちも……。


 くそっ、俺の体も力が入らなくなってきた。痛みも曖昧で瞼が重くなっていく。せっかくの楽しみだった修学旅行だったのに。なんでこんな事に……。


 いや、そんな事は今更どうでもいい。いくら考えても結果は変わらないんだ。それよりも、少しでも長く彼女の側で。


 俺は力の入らない右腕を何とか彼女へと伸ばす。そして彼女の左手を握る。俺の色の無かった世界に、色鮮やかに彩ってくれた大切な彼女。


 彼女と死ねるのなら、それはそれで良いのかもな……。


 ◇◇◇


「ゼスト! あなたまたサボったわね!」


 暖かい風が吹き、心地よい日差しがさす中庭に、怒鳴り声が鳴り響く。俺の周りに気持ちよく寝ていた小鳥たちは、その声に驚き皆飛び去ってしまう。


 ……人が気持ちよく寝ているのに何だよ。俺は渋々重たい瞼を開けるとそこには、頰をぷくぅと膨らませて、両手を腰に当てていかにも「私怒っています!」表している銀髪のツインテールの少女が立っていた。


 だけど、その表情よりも気になったのが


「……おい、ティリア、パンツ見えてるぞ」


 暗闇の中に見える白い物だ。素直に伝えると、銀髪の少女、ティリアは一瞬目が点になるが、直ぐに


「……えっ? きゃ、きゃあっ! どこ見ているのよ!」


 スカートを押さえて、顔を赤くさせながら、足を振り上げ……って、危ねぇ! 俺は咄嗟に起き上がる。危ねえなこいつ! 俺の顔面を蹴ろうとしてきたぞ!


「あ、危ねぇな! 今、俺の顔面を蹴る気だっただろ!?」


「あ、当たり前じゃ無い! ま、まだけけけ、結婚もしていないのに、私のパンツを見るなんて! そ、それに最近のゼストは変よ? 今まで授業はサボるなんて事しなかったのに!」


 そんな風に俺に怒ってくる銀髪の少女の名前は、ティリア・レグラーノ。レグラーノ伯爵家の令嬢で、俺の幼馴染であり、親が取り決めた婚約者でもある。年齢は俺と同じ12歳だ。


 そんな彼女は、怒りながらも、瞳の中には俺を心配してくれる気持ちがあるのはわかっている。だけど、俺の答えは


「別にティリアには関係無いだろ。俺が授業をサボったって。放っておいてくれ」


 俺はそれだけ言って再び寝転ぶ。俺の態度に再び怒鳴るかなと思ってティリアを見ると、ティリアは怒鳴る事はせずに、目尻に涙を浮かべていた。


「な、なによ! 婚約者の私が心配しているのに、その態度って! もう知らないんだから! ゼストのパーカ! アホ! 童貞!」


「あ、アホ! 貴族の令嬢が童貞なんて叫ぶんじゃねえよ! ったく、はぁ」


 俺は寝転んで、空を見る。ティリアには申し訳ないがもう少し考える時間が欲しいんだ。


 俺の名前はゼスト・アルラルト。アルラルト子爵家の次男だ。年齢は12歳で、金髪碧眼のまあまあの顔立ち。鏡は見れるほどだな。


 俺は、ミストラル王国という国に生まれて、貴族の子息として育てられて来た。家族は両親に6つ上の兄と2つ下の妹がいる。


 今俺が通っているエノール学園は、ミストラル王国のあちこちから子供が集まっている。子供が学べるようにと、4代目の国王が国営で作った学園らしい。


 年齢は10歳から5年間入学する事になり、ここで、学問や武術、それから魔術を学ぶ事になる。他にも色々と分野はあるが基本的なのがこの3つだ。


 この学園では色々と知り合いもできたし、ライバルと言える親友もいる。だけど、そんなみんなに話せない事があった。


 それは……俺にはこの世界に生まれる前の記憶がある事だ。この世界に生まれる前の記憶「神木 誠也」の記憶を。


 これは前からあったわけじゃない。生まれた時は特に無くて、この12年間、全く思い出さなかった。


 だけど、2週間前に魔術の授業で失敗して大怪我し、寝込んだ時にいきなり思い出したのだ。何の前触れもなく。


 1番初めに思いだしたのは、もう動く事の無かったみなみの姿だった。水瀬 みなみ。俺の最愛の彼女。それから、彼女とたくさん行った楽しかったデートや、彼女に振り回された高校での生活。それから、クソッタレな家での事など。


 忘れたい事や、逆に絶対に忘れたくない事まで全てを思い出したのだ。それから俺は毎日考えている。俺は誰なのか。ゼスト・アルラルトなのか、それとも神木 誠也なのか。


 別に二重人格というわけでもない。俺という人格はある。だけど、これはどっちの人格なのかがわからない。そんな事を俺は毎日考えていた。


 彼女がいなくて、再び色褪せてしまった世界の中で……。

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