落とされた勇者 悪霊たちと最強になる

やま

11話 訓練開始

「それではこれよりミレバ森での訓練を始めるぞ」


 リムドーさんの言葉に頷く俺たち。全員が真剣な表情を浮かべている。それもそうだろう。これからの行動次第で命がかかってくるのだから。


 エルライト王子やリムドーさんから訓練の話を聞いて2週間が経った。この2週間は本当に色々な事があった。


 まず始めの1週間は、俺たち勇者たちのためのお披露目会が王宮の中であった。あれのおかげで、1日かけてパーティー用の正装を作ったのだが、1日ずっと採寸ばかりで、精神的に疲れ果ててしまったのだ。


 ただ、これは序章に過ぎず、この数倍精神的に疲れたのが、お披露目会だった。


 エルライト王子が俺たち勇者たちについての説明が終わった瞬間、王国の貴族たちの挨拶が始まった。しかも、内容は娘や孫はどうかという話ばかりで。陽奈たちは嫁としてこないか、って話だったが。


 エルライト王子から前もってそういう話はあるかもしれないから、とは聞いてはいたが予想以上に多かった。


 しかも、貴族の話が終わったと思えば、次は貴族の令嬢たちに囲まれて、色々と聞かれるし。多かったのは日本の話と俺の話だった。趣味やら女性のタイプなどを聞いてくるのだ。答えづらいったらない。


 ミーリア王女が助けてくれなかったら、どこかに連れ込まれていたかもしれないな。しかも、あの時のクラスメイトの男子たちの視線は、嫉妬にドロドロとしていたので余計に疲れた。


 俺だけじゃなくて翔輝などにも集まっていたのに、俺にばかり嫉妬を向けてくるのだから。


 そのお披露目会を終えた後は、訓練のための準備をして出発したわけだが、この1週間は、野営などのサバイバル技術について教え込まれた。なんでも、ミレバ森では、騎士は付けずに自分たちだけで行動させるらしく、森の中での生活もしないといけないそうだ。


 流石にこれには女性陣を中心に文句が出たが、遭難などしたいざという時に、生き残れないぞ? とリムドーさんに脅されたため、渋々ではあるが全員習ったのだ。これは、生産系の職業を持つ生徒たちや先生もである。


 それぞれのチーム毎に生活をする事になったのだが、ここで1つ問題が出て来る。それは、俺以外が全員女子である事だ。


 他の女子が混じったチームも同じように気まずそうではあるが、俺のチームほどではない。他のチームは必ず男も女も2人以上いるか、男だけのチームだからな。


 それに比べて俺のチームは男は俺1人。女子4人に囲まれて気まず過ぎるのだ。陽奈は幼馴染って事もあって昔は寝泊まりしたり一緒に風呂に入った事はあるが、それも小学生の低学年の頃だ。


 今は成長しているため、どうしても意識してしまう。しかも、何故か女子のみんなは俺と寝泊まりする事に抵抗は無い感じだし。


 その他には野営の準備や火の起こし方、動物の解体までやらされた。火に関してはみんな簡単な魔法が使えるため問題は無かったし、野営の準備も用意されたテントを立てるだけなので問題はなかった。


 ただ、動物の解体だけは、みんなが忌避していた。俺たちが渡されたのは野ウサギではあるが、生きたままで手の中で暴れているのだ。女子の中には手を離す子もいた。


 中には、祖父母に教えてもらって解体した事があるという男子、山中 悟もいたが、それは1人だけで、他のみんなは押し付け合いになってしまった。


 陽奈たちもどうしようか迷っていたのだが、女子にやらせるわけにはいかないので、俺が捌いた。多分、訓練では俺が率先して魔物と戦う事になる。その時、同じように迷っていられない。そうならないための予行練習として。


 陽奈たちも少しずつではあるが慣れていき、今となっては普通に解体出来るようになった。自分たちの食事になると感謝を込めて。


 そんな色々な事が1週間が経て俺たちはミレバ森に辿り着いた。1日ミレバ森の近くにある町で休んでから、この入口へとやって来た。入口と言っても、決まった場所があるわけじゃないが。


「訓練はチーム毎によって行う。今から渡す紙を見るのだ」


 リムドーさんの言葉通り兵士たちが紙をそれぞれのチームに渡していく。その紙はこの森の簡単な地図が描かれており、所々に印がつけられていた。


「その地図は、チームの出発地点と目的地点が描かれている。そこまで行くのに3日はかかると見積もっている。それでも、この森の中盤辺りなのだがな。その目的地点までチームで向かってもらうのが訓練だ。当然、魔物は出る。自分たちで処理するのだ。各チーム最低10体は何らかの魔物を倒すのだ」


 最低10体か。この森にどれほどの魔物がいるのかわからないが、厳しい事はなさそうだ、慣れればだが。それよりも、目的地までの道のりだ。森の中に歩き慣れていない俺たちが無事辿り着けるのだろうか?


「それから1日目に関しては、他のチームとの協力は無しだ。君たちにはわからないように騎士はついて行ってはいるが、当てにするなよ。万が一の時以外は手助けしないように言ってあるからな。それでは、この3日間の最低限の荷物を渡す」


 再び騎士たちからチームに荷物が渡される。やるしか無いか。

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