悪役令嬢を助けるために俺は乙女ゲームの世界を生き抜く!

やま

60.対策と来客

「ジーク様、これが最近学園で噂になっているセシリア様の事です」

「ああ、ありがとう、エンフィ」

 俺はエンフィに礼を言いながら手渡された紙を見る。手紙に書かれている内容は、ここ数日学園で広まっている噂についてだ。内容は侯爵令嬢であるセシリアが、平民であるメルフィーレを指導という名のいじめをしているというものだ。

 正直な話、学園での貴族による指導という名のいじめはあまり酷くなければ黙認されている。この学園にやって来る子息や令嬢の親の貴族位は、今年の俺たちような代がなければ、殆どが伯爵位が高位になる。

 そのため、伯爵位もしくは子爵位の親を持つ子息や令嬢がそれより下の位の学生に何かしようとも黙認される事が多い。

 貴族平民問わず平等と謳っているものの、学園は貴族の寄付で成り立っており、学園の講師で貴族位を持っているものでも高くて子爵、学園長で伯爵だろう。

 学園長は問題が大きくならなければ出てくることは無いだろうし、講師は親からの報復を恐れて言うことは無い。

「これは、どうやって調べたんだ?」

「セシリア様のクラスの方とメルフィーレのクラスの方に聞き回ってきました。噂ではセシリア様がしたと言うのですが、話を聞いていくとどうやらセシリア様の取り巻きを名乗ってやっているようです」

 ……取り巻きか。確かに伯爵以上になると取り巻きがいることはある。大体が寄子の家の子供が多いが、セシリアに取り巻きがいたなんてな。

 ちなみに俺にはおらん。クロエは婚約者だし、エンフィは俺の侍女だからな。まだ記憶が戻る前の悪ガキだった頃は王子という甘い汁を吸おうとして従者として自分の子供をつけて来た貴族はいたが、気が付いたら離れていた。

 あの悪ガキだった頃の記憶を思い返してみると、俺自身も貴族の子供たちからはどことなく距離を取っていたように思える。

 自分自身で言うのはあれなのだが、俺は別に馬鹿だったわけじゃない。普通になんでも出来たのだが、それ以上に兄上がなんでも出来るため、挫折してしまったのだ。

 今でこそ、20代後半の前世の記憶を思い出したから兄上との才能の差を受け入れて、その上で負けないように何とかしようと考えているけど、あの時は耐えられなかったのだ。

 父上や母上はそうでもなかったが、周りの人たちが二言目には兄上の話をしていたからな。我慢出来なかったのだろう。まあ、それでもあの性格は最悪だが。

 ただ、そんな俺だったからこそ、変に近づいてくる奴らは信用しなかった。取り巻きもなるべく近づかないようにしていたらいなくなっていたな。

 俺は今目の前にいるエンフィを見る。エンフィは首をかしげている。

「エンフィはクロエと一緒に俺の側にいてくれよな」

 俺の信頼出来る数少ない大切な身内だからな。俺がそう言うと、エンフィは少しの間惚けた顔をしていたが、少ししてから顔を赤くして何度も縦に頷く。

 それから、セシリアの噂について対策を考えていく。と言っても、俺に出来る事と言えば、実際にやっているところを見つけて言う事しか出来ないだろう。

 1人でうんうんと唸っていると、とびらがノックされる。返事をすると入って来たのは、メルティアだった。

「ジーク様、ジーク様に御目通りを願いたいというものがいらっしゃっているのですが、どうしましょうか?」

「俺に会いたい者? 誰だ?」

「エリンス商会のバルクスという者です」

 エリンス商会。この国の中堅ぐらいの商会だったな確か。しかし、俺に何の用だ? 当然ながら俺は呼んでいない。だがまあ、話ぐらいは聞いてもいいだろう。

 俺はメルティアに通すように言う。少し待つと再び扉がノックされてメルティアとともに入って来たのは、少し恰幅の良い金髪の男だった。

「この度は急な来訪申し訳ございません、ジークレント殿下」

「構わない。それで俺に何の用だ?」

「はい、実は私マーケッティー書店の店長とは知り合いでして、ジークレント殿下が魔導書をお読みになるとお聞きして、ぜひ我が商会が入手した魔導書を見て頂きたくて伺いました」

 なるほど。だから父上でも兄上でも無く俺のところに来たのか。俺は興味が湧いたので持って来させることにした。バルクスは馬車から持ってくると言い部屋を出る。

 さてどのような魔導書が来るのか、とワクワクするのを10分ほど。バルクスがお供2人を連れて戻って来た。2人には縦長の大きめな箱を運ばせていた。流石にこれは予想外だったため、エンフィとメルティアが警戒せる。俺も思わず机に立てかけてあった黒剣を掴んでしまった。

「突然申し訳ございません。実は私がお待ちしたものは特殊なものでして。おい、箱を開けろ」

 バルクスはそう言ってお供に箱を開けさせる。箱から出て来たのは160センチほどで銀髪の髪をした10代後半の女性が出て来た。そして、胸の前で交差するように腕が乗せられており、腕の中には一冊の本が握られていた。

「こちら、古代遺跡から発掘された魔導人形と魔導書になります」

 ……これはまた変わったものを持って来たものだ。

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