悪役令嬢を助けるために俺は乙女ゲームの世界を生き抜く!

やま

53.兄の実力

「やったわね! ジーク!」

 1試合目を終えて、クラスのみんなが待つ観客へと向かうと、エレネの歓声に出迎えられた。その声に重なるようにクラスのみんなも俺を囲むように集まって色々と声をかけてくれる。

 ……何だかこういうの嬉しいな。今までは、昔の事があって避けられている事が多かったが、少しはみんなに認められて来たのがわかる。

「よぉーし、次は私の番ね!」

 そして、エレネは気合を入れて中心へと向かう。さて、誰が出て来るか。一応は予想はしているが、そんなものはどうとでも変えられる。あまり考えずに次に出たいと言ったエレネを選んだ。

 意気揚々と出て行くエレネの後ろ姿を見ていると、きゃあ! と、反対の方から悲鳴が聞こえた。みんなが何かと思い、声のした方を見ると、左頬を抑えながら尻餅をつくリグレットの姿と、右腕を振った後と思われる兄上の姿があった。

 リグレットはもう目を覚ましたのか。思ったよりタフだな。だが、今はそれよりも悲鳴の原因だ。まあ、この光景を見るに予想はつくが。

「何を負けてきているリグレット! 私たちAクラス、その中でもこの国の頂点に立つ王族、貴族の我々は全戦全勝しなければいけないと、試合前に話したはずだ! それを、初戦で負けて来るとは! それに、お前はあいつに負けたんだぞ! 落ちこぼれも言われたジークに!」

 会場に響く怒声。その怒声に全員が黙ってしまい、兄上の声がかなり透き通って聞こえてくる。しかし、酷い言われようだな俺。確かにそう言われていたのは間違いでは無いが。

 それに、未来はこの国を率いるから確かにそうなのだが、それでも、負けてはいけないは言い過ぎでは無いだろうか。

「……申し訳ございません」

 しかし、リグレットは兄上の言葉に謝るだけだった。兄上はそのまま審判をするために中央に残ったコレット先生の元へと行き

「特別に、私対Dクラス全員でさせていただきたい」

 と、言い出したのだ。余りにも突拍子の無い発言に、俺たちは勿論の事、コレット先生ですら反応する事が出来なかった。

「……流石にその冗談は、王族としても戦う相手に失礼だと思うわ」

 俺たちより立ち直るのが早かったコレット先生は、眉間をほぐすように目元を右手で抑えながらそう言ってくれた。しかし

「ふん、あいつらの誰か1人で私の相手になると思っているあなたの方がよっぽど失礼だ」

 と、返したのだ。流石にその言い草にコレット先生のこめかみに青筋が浮かび上がる。そしてようやく戻って来たみんなはキレていた。その中でも特に

「ムッキャー!!! 何なのよあいつ! 確かにゲームの中だと俺様キャラだったけど、ここまで腹立つとは思わなかったわ!! ふざけるんじゃ無いわよ!」

 と、キレていた。確かに気持ちはわかるが、お前ゲームだの言うのやめろよ! 俺とお前だけの秘密だろうが!!

 幸いにもエレネの叫びには誰も反応しなかったが、Dクラスのみんなはエレネと同じような反応だった。流石に兄上に怒鳴る奴はいなかったが、みんな、舐められているのがわかっているので、怒りは隠せないようだ。ここは俺が言わないとな。そう思って出ようとしたら

「コレット先生、面白そうでは無いですか。グルディス殿下の言う通りやらせてみたらどうですか?」

 と、兄上のいるAクラスの担任のティール先生がそんな事を言ったのだ。しかし、貴族平民問わず公平に、と謳われている学園の教師がグルディス『殿下』とは。

「……ティール先生、しかし」

「では、学年主任として命令します。やらせなさい」

 しかも、同じ教師としてでは無く、上司として命令し始めた。コレット先生は悔しそうに手を握り締めている。このままではコレット先生に迷惑をかけてしまう。ここは、同じ王族として俺が出なければ。そう思い足を出そうとした時、誰かが俺の手を掴んだ。掴まれた方を見るとそこには

「俺が行く」

 と、予想外の人物……リークレットが俺の左腕を掴んでいたのだ。リークレットはそのまま、中央まで歩いて行く。

「……全員で来いと言ったはずだが?」

「王族か何だか知らねえけどよぉ。調子に乗るんじゃねえよ!」

 1人で来たリークレットを見て、苛立たしげに言う兄上だが、それ以上にキレているリークレットは、コレット先生の指示を待たずに走り出した。

 リークレットは武器を持っておらず、そのまま走っている。まあ、正確に言えばあいつの手足が武器なのだが。

 リークレットは我流で格闘術を学んだらしい。それに、あいつ特有の珍しい魔法も使う。それが

「モードオーガ!」

 リークレットが唱えると、リークレットの体が変わって行く。先程までは180センチ程度で筋肉質の体格だったが、唱えた後は、2メートル近くになり、肌が赤くなり、頭から角が生えて来た。

 俺たちDクラスのみんなは、一度見た事があるから驚きは少ないが、初めて見る生徒たちは驚きの声を上げる。

 リークレットが使っている魔法は、魔物の肉をある一定量食べると、そのままのの力を使う事が出来るという魔喰魔法というものらしい。

 それによって、オーガの力を使ったリークレットが、人の頭程に巨大化した拳で、兄上に殴りかかった。

「……ちっ、雑魚風情が……図になるな!」

 しかし、リークレットの拳は、兄上に迫る前に止まってしまった。そして、次の瞬間、兄上の体が光ったと思ったら、リークレットが吹き飛ばされていた。

 リークレットはあまり傷は負ってなさそうだが、何かが当たった箇所が黒く焦げていた。その理由は、兄上のから発せられる電気だった。

 この国では兄上を含めて数人しか扱う事が出来ないと言われている雷魔法。その魔法によってリークレットは吹き飛ばされたようだ。

 バチバチと体から雷を迸らせ、リークレットを睨みつける兄上。その姿を見て物凄く嫌な予感がするが……いざとなれば、乱入してでも止めなければ。

コメント

  • ノベルバユーザー282743

    面白い文ありがとう、応援します

    0
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