悪役令嬢を助けるために俺は乙女ゲームの世界を生き抜く!

やま

45.相談をしに王城へ

「……あら? ジークじゃ無い。今の時間帯は学園のはずでは?」


 セシリアたちの話を聞いてから俺は直ぐに王城へと戻って来た。まずは父上に合って話をしてお金を貰ってから、レイチェルさんにも話をして、俺の目的の物を買いに行こう。そう思って王城の中を歩いていたら、まさかの母上に見つかってしまった。


「は、母上、ご機嫌麗しゅう」


「ご機嫌麗しゅう、ジーク。それで、どうしてここにジークがいるのかしら?」


 あまりにも焦って普段しない挨拶をしてしまったが、普通に返して来る母上。そして、微笑んでいるが目が全く笑っていない。


「ええっとですね……これには少し事情があって……」


「へぇ、学園をサボらないといけない事情ですか? それは聞いてみたいですね。シェイラ、私の部屋まで連れて来てください」


「わかりました。失礼します、ジーク様」


 母上がそう言った瞬間、両脇に手を入れられて抱きかかえられた。振り返ると、俺を抱えていたのは、母上専属の侍女で、メルティアの師匠でもあるシェイラが俺を抱えていた。


 年は母上と殆ど変わらず30代前半で、腰まで伸びる黒髪をポニーテールしている綺麗な侍女だ。当然、見た目は20代前半である。


 見た目は華奢なのに、40近くある体重の俺を軽々と持ち上げ、母上の後に続く。頭に柔らかい感触があるが、それを指摘すれば何をさせるかわからないから黙って運ばれるしかなかった。


 母上の部屋へと辿り着くと、母上の前に座らされる俺。そして、シェイラは母上と俺の前に淹れたての紅茶を置き、お菓子に焼き立てのスコーンを置いてくれた。……いつの間にかは聞いたところで侍女ですから、としか答えてくれないのだろう。


「さて、それでは弁解を聞きましょうか、ジーク。どうして本来学園にいるはずのあなたが、ここにいるのか?」


 あまり怒る事が無い母上が俺を鋭く睨んでくる。思わず体を震わせるが、俺はどうしようか迷っていた。母上に教会の事を話せば、100%止められるに決まっている。しかし、言わなければ、この状況を打破出来ない。


「さあ、何か弁解が「あるのなら言ってみなさい。内容によっては聞いてあげましょう」


 腕を組んで俺を見てくる母上。普段は優しい母上だが、魑魅魍魎とした貴族社会の中で王妃として生きて来た人だ。俺が適当に話そうとも嘘だとバレてしまうか。仕方ない。正直に話そう。


 ……結果


「駄目です。そのような危険な事をあなた達だけで行かせるわけには行きません。陛下にお話して兵を出しましょう」


 簡単に却下されてしまった。いや、まあ、そうなのだが……


「しかし、兵たちが救出に向かったと向こうに気付かれてしまったら、向こうは教会の子供たちを殺すと言って来ています。それはどうにか避けたいのです」


「それはわかっています。しかし、ジークが行くより安全で確実でしょう。違いますか?」


 むむ、そう言われたら反論出来ない。確かに俺たちだけで行くよりかは、確実かもしれない。しかし、それじゃあセシリアが俺頼った意味が無い。


「母上、無理を承知でお願いします。私に行かせてください。勿論、私だけでどうにかなるとは思っておりません。レイチェルさんにも頼むつもりです。ただ、兵士に頼るとどこかで敵にバレてしまうかもしれないのです。お願いします」


 俺は頭を下げて母上にお願いする。無理を承知で言っている。母上は困ったように考えているが、帰って来た言葉は別のところからだった。


「行かせてやれ」


「……あなた」


 それはこの部屋に入って来た父上だった。何故ここに? と、思ったが俺を見た侍女か兵士が話したのだろう。


「ただし、レイチェルは勿論の事シェイラ、お主も付いて行ってやれ。レイチェルとお主が居れば安心だ」


 ……えっ? シェイラが? どうしてここで母上付きのシェイラも行く事に? 訳もわからずにシェイラを見ると、シェイラは父上と母上に頭を下げていた。


「了解致しました。不肖シェイラ、陛下の命に従いジーク様をお助け致します」


「うむ、そしてジークにこれを渡す」


 そう言い父上から手渡されたのが袋だった。受け取った瞬間、ジャラッと音が鳴ったので恐らくお金だろう。


「その中には50万イェンが入っている。それで買うのだろ? 魔導書を」


 父上にはバレバレだったか。しかし、有難い。これで目的の魔導書を買う事が出来る。


「ただし、レイチェル、シェイラが危険と判断した時点で、捕まった者より、ジーク、お前の命を優先する事だ。シェイラよ、危険と判断した瞬間撤退せよ。ジークの命令を無視して構わん」


「了解致しました」


「わかりました。私は直ぐにレイチェルさんのところへ行って来ます! シェイラさん、馬車の準備を頼むよ!」


 俺はシェイラの返事を待たずに部屋を飛び出してレイチェルさんを探す。この時間帯は訓練をしているので直ぐに見つかった。


 レイチェルさんは俺の話を聞いて呆れはしたが直ぐに準備をしてくれた。何故かバールも付いて来る事になったが役に立つと言うので連れて行く事にした。テルマも来てくれた。


 シェイラは侍女服のまま来たので、それで大丈夫かと尋ねたら、大丈夫だと何故かレイチェルさんが答えてくれた。シェイラも頷いていたので大丈夫なのだろう。


 準備が出来た俺たちはまず本屋へと向かう。目的の魔導書を買って夜までには読んでしまわなければ。


 ◇◇◇


「……そう怒るなメリセ。これはジークのためでもあるのだぞ?」


 俺がメリセの隣座ってもむすっと膨れるメリセ。そんな顔も愛らしいのだが、まずは宥めなければ。


「今回の事件をジークが解決すれば、ほんの少しではあるが、王子が平民のために動いてくれたと、皆は思うだろう。そうなれば、ジークに対する見方も少しは変わるだろう」


「……そのために態々ジークの身を危険に晒すのですか?」


「まさか。そうならないためにレイチェルにあのシェイラも行かせたのだ。君もシェイラの実力は知っているだろ?」


「それはそうですが……」


「それに、バレないように第0隊も行かせてある。これもジークが成長するためと思って待っていてやれ。シェイラの代わりはメルティアを付けるよ」


「……わかりました。あなたの言葉を信じましょう」

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