悪役令嬢を助けるために俺は乙女ゲームの世界を生き抜く!

やま

38.昼休み

「あら? あらあらあらぁ! あれはヒロインのメルフィーレちゃんじゃない!」


 レストランで男生徒たちに囲まれるピンク髪の女生徒、ヒロインを見ていると、俺の後ろからそんな声が聞こえて来た。物凄く嬉しそうな声だ。しかし、ヒロインの名前メルフィーレって言うんだ。いつの間に調べたんだ?


「でも、様子がおかしいわね。あの子、絡まれているわよ」


 ユーリエの言う通りメルフィーレは男生徒たちにそれぞれ何かを言われていた。周りの生徒は無視を決め込んでいる。


「ん?」


 ただ、その中に1つのテーブルに座る女生徒たちが、責められるメルフィーレを見てニヤニヤと笑みを浮かべていた。……あいつらが関わっているのか?


「ここはお前のような孤児が来るところじゃない」


「全く、身の程知らずが」


「そ、そんな。わ、私はただ誘われて……」


「誘われても断るのが普通だろうが。全く、そんな事もわきまえていないのか」


 それぞれがメルフィーレに言いたい事を好き放題言う。どこの貴族の子息か知らないけど、流石にそれは言い過ぎだろう。


 この学園は貴族、平民関係なくと言っている。確かにレストランと食堂は分かれてはいるが、それでもどちらも貴族平民限らず使えるようになっている。


 俺はそれなのに勝手な事を言う男生徒たちに腹が立っていた。これも、王族に染まって来た証拠かな?


「お前たち、誰がそんなルールを決めたんだ?」


 俺が声をかけながらレストランの中へと入ると、初めを俺を睨んで来た子息たちだが、第2王子の俺だと気がつくと驚きに表情が変わる。


 周りで知らんふりをしていた生徒たちも、メルフィーレが囲まれる光景を見ていた女生徒たちも顔色が変わる。一気に静まるレストランの中、俺の歩く音だけが聞こえる。


「もう一度聞くぞ? 誰がそんなルールを決めたんだ?」


「い、いや、そ、それは……」


「あそこまではっきりと孤児は入るなと言ったんだ。この学園は貴族も平民も関係無い。父上……いや、陛下が入学式の時に言っていたはずだが? 違うか?」


 俺の言葉に子息たちは震えるだけ。はぁ……俺は座り込んでいるメルフィーレを立たせる。彼女は急な展開についていけなさそうだが、今はここから離れた方がいいだろう。


「エンフィ、彼女を頼む」


「はい!」


 エンフィは座り込むメルフィーレを立たせてレストランの入り口まで連れて行く。その間男生徒たちは下を向いて動かない。


「俺も学園の中で王子として振る舞いたく無い。だから、二度目は言いたく無いからな?」


 軽く圧をかけると、こくこくと頷く男生徒たち。すぐには難しいかもしれない。この考えは俺が前世の記憶があったからな。


 俺がレストランから出るとニヤニヤとするエレネと、頬を膨らませて俺を睨むクロエがいた。


「他のみんなは?」


「……旦那様が助けた彼女を連れて先に食堂へと行きました」


「そうか。それじゃあ、俺たちも行こう」


 少しむすっとしているクロエを無視して食堂へと向かう。この嫉妬も慣れてくると可愛く思ってしまうものだから、慣れって怖いよな。


 そんな事を思いながら食堂に向かうと、かなりの人数の学生が食堂に集まっていた。まあ、この学園の人数を考えれば妥当なのだろうけど……席空いているかな?


 そう思い食堂の中を進んで行くと、手を振るエンフィの姿が見えた。上手く俺たちの席を取っておいてくれたみたいだ。


 みんなの前にはすでに料理が置かれているようだったので、俺たちも取りに行く。ここは、食券を買って持っていくタイプか。俺は腹を満たすために肉料理の食券を買って並ぶ。


 直ぐに俺の番が来ておぼんに料理を乗せていく。他にも魚料理や麺料理など結構な種類の料理がある。


 席に戻ると、どうやら俺たちを待っていてくれたようで、誰も食べていなかった。


「悪いなみんな、待っていてくれて」


「全くだ。僕はお腹が空いたぞ!」


「うるさいわね、ユータスは。少しは我慢できないの?」


「まあまあ、俺たちが遅かったのが悪かったからな。それじゃあ食べようか」


 俺の言葉に食事を始めるみんな。その中で一番端に座るメルフィーレ。さて、助けたはいいがどうしたものか。正直に言うとあまり関わる気はない。あり得ないとは思うが、俺が関わる事で影響が出るかもしれないからだ。


 ……本当にどうしよ?


 ◇◇◇


「……」


「Dクラスの生徒はどうでしたかな、フレック先生?」


「……ティール先生」


「私のクラスは流石にグラティス殿下と侯爵家の皆様方といったところです。これなら、クラス別対抗戦も私のクラスが優勝間違いありませんね」


「そうですか。でも、わかりませんよ。うちのクラスにも面白い生徒はいました。それにジークレントもいますしね」


「……ほう、面白い事を言いますね。ジークレント殿下に何を期待しているかはわかりませんが、グルディス殿下たちには敵いますまい」


 ニヤリと笑みを浮かべて去っていくティール先生。それだけが言いたかったのか? まあ、何故か俺の事を敵視している部分はあるからな。


 俺は自分がつけた評価表を見る。油断していたら俺のクラスに負けますよ、ティール先生。

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