悪役令嬢を助けるために俺は乙女ゲームの世界を生き抜く!

やま

36.戦闘訓練

「全員いるか? それじゃあ、昨日話していた通り、全員の実力を見ていく」


 俺たち全員を見渡しながら話すフレック先生。そして、前から順番に札のようなものを手渡して来る。あっ、これって!


「今、お前たちに渡したのは身代わりの札っていうものだ。俺が相手するからそんな傷は負わせねえが、万が一の時のために持っておけ。それを持っていると、命に関わる傷は肩代わりしてくれる。その札が真っ黒になると使えなくなるから、どこか見える位置にでも付けて確認しろ」


 ゲームの2章でもお世話になった身代わりの札だった。ゲームと違うのはゲームは一回使いっきりだったけど、ここでは、どれぐらいかはわからないが、何度も使えるようだ。俺は札を胸ポケットにしまう。


「今から1人ずつ、俺が相手していく。近接、魔法なんでもやってもいい。俺も札は持っているから本気で来い」


「先生、終わる条件はなんですか?」


「俺がお前たちの実力を確認出来ればだ。だから、手を抜こうとするなよ? いくら札があっても痛いものは痛いからな。それが延々と続くぞ?」


 フレック先生の言葉に乗せられてほんの少し殺気が辺りを包む。あまりにも一瞬で集中しなければ気付かない程だが、レイチェルさんのを毎日浴びている俺としては、すぐわかった。


 他にも気が付いた者がいて、フレック先生も頷いていた。ここから既に始まっているのだろう。


「それじゃあ、昨日は廊下側からいったから、今日は窓側から行こうか」


 フレック先生の指示に従い、窓側からフレック先生との戦闘を始める。これは直ぐに俺の番が来るな。皆がそれぞれの武器を持ってフレック先生へと向かうが、やっぱり元魔法師団団長の実力は桁違いだ。


 魔法師団団長なのに、普通に剣も使えるなんて。レイチェルさんやアルフォンスさんほど近接が出来る感じでは無いが、それでもかなりの実力だ。


「次はジークレント。来るんだ」


 その光景を見ていると、マイルがあっという間に倒されてしまった。まあ、彼は見た目から得意そうではなかったからな。


「お前の実力はレイチェルさんから少しは聞いている。剣の力のことも。全部使って来い」


 そう言って、圧をかけて来るフレック先生。確かにレイチェルさんと同等の力を持つフレック先生になら本気でやってもいいだろう。


 俺は自分の左腕に付けているブレスレットに触れる。すると、ブレスレットから黒剣が出て来る。このブレスレットは、収納の効果がある魔導具で、決まった重量まで幾らでも入れる事が出来る優れものだ。


 俺は、ブレスレットから取り出した黒剣を握り、全身に強化魔法をかける。


「行きますよ」


「ああ、来い」


 俺はフレック先生の言葉に地を蹴り走り出す。この人に中途半端な小手先の技は通用しない。真っ直ぐときりこむが、フレック先生の目の前でオーバードライブを発動。一気に加速して、剣を振り下ろそうとするフレック先生の右腕を掴もうとするが、バチンッと何かに弾かれてしまった。


 ……流石は魔法師団団長という事か。自分では警戒していたつもりだが、魔力を薄く鎧のように体に纏わせていたとは。やっぱり、俺より強化魔法の使い方が上手い。


 左腕を弾かれた俺を見てフレック先生は真っ直ぐ剣を振り下ろして来るが、俺だってそう簡単にはやられない。


「オーバーソウル! モードエアリアル!」


 フレック先生のように俺も魔力を鎧に変えて、振り下ろされた剣を左腕で受ける。衝撃は走るが痛みはない。レイチェルさんとの訓練で何度も経験済みだ。


 そして、俺とフレック先生の間に入れた魔法を解放した黒剣。モードエアリアルによって黒剣から吹き荒れる風を丸く固め、爆発させる。


 フレック先生が両腕で庇う姿を見て、更にシャドウクリエイトを発動。風で視界が塞がれているフレック先生の周りに俺の分身を6体作り、四方から切りかかる。


「パニッシュ」


 フレック先生は一言。それだけを呟いた。聞こえたのは俺だけだろう。その言葉が呟かれた瞬間、俺が作った分身は1体も残らず消えてしまい、気が付けば俺の体は魔力の縄で縛られていた。


「まだまだ荒削りではあるが、やはりレイチェルさんに鍛えられているだけある。ただ、あの人は剣一筋だからな。魔法は自己流か?」


「……ええ、普通に使えるのが生活魔法と強化魔法だけだったんで、誰も教えてくれなかったんですよ。レイチェルさんからはほんの基礎だけ。後は自分で」


「なるほど。わかった、ジークレントの訓練は終わりだ」


 フレック先生がそういうと同時に俺を縛っていた魔力の縄は消えていった。……ふぅ、やっぱりかなりの実力差があるな。いくら魔導書で魔法を手に入れてもまだまだって事か。


 少し悔しい思いをしながら戻っていると


「凄い凄い! ジークって凄いのね! ゲームじゃそんな事なかったのに!」


 物凄く興奮したエレネに両手を掴まれて上下にぶんぶんと振られる。って、こいつ、ゲームの事全く隠す気ないだろ。俺が呆れた視線をぶつけても、気にし様子もなく先生の元へと向かうエレネ。


「ふふっ、私も頑張っちゃお! 同人誌作成で培った作画力、見せてあげるわ!」


 ……なぜここで作画力?

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