悪役令嬢を助けるために俺は乙女ゲームの世界を生き抜く!
29.帰ってきて
「……そうか。盗賊を」
「はい。レイチェル殿も遠くでは見ていたようなのですが、これは覚悟を決めさせるのに良い機会だと」
「構わぬ。いずれ人の命について選択をしなければいけない時が来る。その時に迷うよりはいいだろう。まあ、欲を言えば、それを経験するのがグルディスであって欲しかったがな」
「それは仕方ありません。こちらで死刑囚を用意して殺せと言うわけにはいきませんからね。そればかりは運です」
「わかっておる。それでジークの様子は?」
「治療師などに診てもらいましたが、精神的なものでしょうとのことでした。まだ、子供が人を殺すのです。負担は計り知れないものでしょうしね。今は一緒に来たクロエ殿とジーク殿下の侍女たちが看病しております」
「わかった。しかし、運が良いのか悪いのかわからんな」
「ははっ、そうですな。しかし、これでまたジーク殿下は成長された」
「……そうだな」
「……何か懸案でも?」
「いや、ただ、2人の仲は良かったのだろう?」
「ええ。クロエ嬢の押しがかなり強かった部分はありますが、概ね良好かと。ジーク殿下も悪く思っていないようですし」
「……そうか」
「もしかして、グルディス殿下とセシリア嬢の事でしょうか?」
「ああ。グルディスに何度言い聞かせようと態度が変わらぬ。婚約については何も言わぬが、セシリアに会っても無表情で素っ気ない態度。周りの貴族たちからも2人の仲が悪いのでは? と、疑われてしまってな」
「ふむ……ただ、今から変えるのは無理ですから結局彼女には我慢してもらうしかないのでは?」
「……そうだな。苦労させる彼女にはある程度自由にさせてやるべきだろう。そうしなければ、娘を嫁がせてくれるバレンタイン侯爵に申し訳が立たぬ」
◇◇◇
「……ここは」
「目が覚めましたか、旦那様」
「……クロエ」
何故か見覚えのある天井に部屋の模様。俺の朧げな記憶ではコーネリア伯爵領にいたはずなのだが、ここは……王宮の俺の部屋だよな?
クロエの後ろには心配そうに俺を見てくるメルティアとエンフィが立っていた。
「どうして王宮に?」
「旦那様が盗賊を殺した後、気を失ってしまって。そのため、早く視察を切り上げて帰って来たのです。今日であの日から4日経っています」
……あれから4日も経っているのか。全く情けないな。たったあれだけの事で気を失うなんて。そんな事を思っていたら、柔らかい感覚が頭を包む。
「ふふっ、気にする事はありませんよ、旦那様。人を殺すという事はそれ程重たい事なのです。
でま、私は気を失ってくれて逆に嬉しかったです。だって、私の旦那様が悩まずに簡単に人を殺す人じゃなかったのですから」
そう言って俺の頭を撫でてくるクロエ。そう言われたら俺も気が少しは楽になる。その日は、目を覚ましてばかりなので疲れているだろうかと、クロエは帰って行った。どうやら、これからは王宮で住むらしいので、直ぐに会えますね、と微笑んでいた。
メルティアもエンフィもおらず、部屋に1人だけの俺。少し時間は遅いけど、無性に体を動かしたくなった俺は、黒剣を持って部屋を出る。
訓練場は夜遅くのせいか誰もおらず、俺1人だけだった。俺はそこで1人剣を振る。思い出すのは、手に残る人を切った時の感触だ。まるで昨日のように鮮明に思い出してしまうあの感触。
俺は自分の手で人の人生を終わらせたのだ。ただ、相手が盗賊という理由だけで。捕らえた奴らのようにやりようが何かあったかもしれない。だけど、俺は民を傷付ける者として簡単に殺してしまった。
俺のあの行動は正しかったのか。今ではもうわからない。だけど、あの盗賊の頭を初めに殺したから他の奴らが怯んだのもある。だけど、やっばり……
「……はぁ、ダメだ。雑念ばかりで上手く振るえない。少し休憩するか」
俺は持って来たタオルを取って汗を拭っていると、扉の開く音がする。扉の方を見ると、訓練場に入って来たのは予想外の人物だった。その人物は
「やっぱりここにいたのね」
と、恐る恐る訓練場に入ってくるセシリアだった。
「はい。レイチェル殿も遠くでは見ていたようなのですが、これは覚悟を決めさせるのに良い機会だと」
「構わぬ。いずれ人の命について選択をしなければいけない時が来る。その時に迷うよりはいいだろう。まあ、欲を言えば、それを経験するのがグルディスであって欲しかったがな」
「それは仕方ありません。こちらで死刑囚を用意して殺せと言うわけにはいきませんからね。そればかりは運です」
「わかっておる。それでジークの様子は?」
「治療師などに診てもらいましたが、精神的なものでしょうとのことでした。まだ、子供が人を殺すのです。負担は計り知れないものでしょうしね。今は一緒に来たクロエ殿とジーク殿下の侍女たちが看病しております」
「わかった。しかし、運が良いのか悪いのかわからんな」
「ははっ、そうですな。しかし、これでまたジーク殿下は成長された」
「……そうだな」
「……何か懸案でも?」
「いや、ただ、2人の仲は良かったのだろう?」
「ええ。クロエ嬢の押しがかなり強かった部分はありますが、概ね良好かと。ジーク殿下も悪く思っていないようですし」
「……そうか」
「もしかして、グルディス殿下とセシリア嬢の事でしょうか?」
「ああ。グルディスに何度言い聞かせようと態度が変わらぬ。婚約については何も言わぬが、セシリアに会っても無表情で素っ気ない態度。周りの貴族たちからも2人の仲が悪いのでは? と、疑われてしまってな」
「ふむ……ただ、今から変えるのは無理ですから結局彼女には我慢してもらうしかないのでは?」
「……そうだな。苦労させる彼女にはある程度自由にさせてやるべきだろう。そうしなければ、娘を嫁がせてくれるバレンタイン侯爵に申し訳が立たぬ」
◇◇◇
「……ここは」
「目が覚めましたか、旦那様」
「……クロエ」
何故か見覚えのある天井に部屋の模様。俺の朧げな記憶ではコーネリア伯爵領にいたはずなのだが、ここは……王宮の俺の部屋だよな?
クロエの後ろには心配そうに俺を見てくるメルティアとエンフィが立っていた。
「どうして王宮に?」
「旦那様が盗賊を殺した後、気を失ってしまって。そのため、早く視察を切り上げて帰って来たのです。今日であの日から4日経っています」
……あれから4日も経っているのか。全く情けないな。たったあれだけの事で気を失うなんて。そんな事を思っていたら、柔らかい感覚が頭を包む。
「ふふっ、気にする事はありませんよ、旦那様。人を殺すという事はそれ程重たい事なのです。
でま、私は気を失ってくれて逆に嬉しかったです。だって、私の旦那様が悩まずに簡単に人を殺す人じゃなかったのですから」
そう言って俺の頭を撫でてくるクロエ。そう言われたら俺も気が少しは楽になる。その日は、目を覚ましてばかりなので疲れているだろうかと、クロエは帰って行った。どうやら、これからは王宮で住むらしいので、直ぐに会えますね、と微笑んでいた。
メルティアもエンフィもおらず、部屋に1人だけの俺。少し時間は遅いけど、無性に体を動かしたくなった俺は、黒剣を持って部屋を出る。
訓練場は夜遅くのせいか誰もおらず、俺1人だけだった。俺はそこで1人剣を振る。思い出すのは、手に残る人を切った時の感触だ。まるで昨日のように鮮明に思い出してしまうあの感触。
俺は自分の手で人の人生を終わらせたのだ。ただ、相手が盗賊という理由だけで。捕らえた奴らのようにやりようが何かあったかもしれない。だけど、俺は民を傷付ける者として簡単に殺してしまった。
俺のあの行動は正しかったのか。今ではもうわからない。だけど、あの盗賊の頭を初めに殺したから他の奴らが怯んだのもある。だけど、やっばり……
「……はぁ、ダメだ。雑念ばかりで上手く振るえない。少し休憩するか」
俺は持って来たタオルを取って汗を拭っていると、扉の開く音がする。扉の方を見ると、訓練場に入って来たのは予想外の人物だった。その人物は
「やっぱりここにいたのね」
と、恐る恐る訓練場に入ってくるセシリアだった。
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