悪役令嬢を助けるために俺は乙女ゲームの世界を生き抜く!

やま

16.読み終えて

「……くそ、レギオンの奴、自分を犠牲にして……ぐすんっ……姫を守るなんて……」


 魔導書を購入してから1週間が経った今日。俺は本を読みながら泣いていた。理由は魔導書にある物語のせいだ。


 物語の内容は、奴隷だった主人公が、偶々通りかかった姫に拾われてから始まる。姫は巫女姫と呼ばれ、悪魔を封じる事な出来る力を持っているのだが、そのせいで悪魔から命を狙われる立場にあった。


 拾われた主人公はその姫を守るために力を蓄えて、姫の直属の護衛まで登り上がる。そして、姫との恋物語もあり、途中まではほのぼのとした物語が続くが、途中から戦争になる。


 相手は勿論悪魔たち。姫の力に恐れた悪魔たちが本気を出して姫を殺しに来たのだ。その中でも一際強い悪魔長。国総出で迎え撃つのだけど、悪魔長の前では敵わず、もうすぐ姫の命も取られそうになる。


 その時に主人公が自身の命を振り絞り魔法を発動する。限界まで振り絞り悪魔長と戦った結果、何とか悪魔長を倒し、悪魔たちを追い払う事が出来た姫たちだが、その代償に主人公は瀕死の状態になる。


 その事に嘆いた姫は神様に彼を生かすようにお願いする。しかし、叶えられる事なく主人公は死んでしまう。


 主人公に操を立てた姫は、死ぬまで主人公を愛し続けたという悲恋の物語が俺が買った魔導書に書かれていた。


 1冊結構な厚さがあって読むのに時間がかかってしまったけど、中々深い内容だった。その上、読み込んでいくに連れて、この本の物語を進めていくに連れて、俺が覚えた魔法『オーバードライブ』の使い方がわかっていく。


 どうやら魔導書というのは、書かれた物語に出て来る主要人物が使う魔法を覚えられるようになっているようだ。


 この魔導書がどのように作られたかはわからないし、この書かれている物語も本当の話なのか創作なのかもわからない。だけど、この魔法が生きているのはわかる。誰かに使われるのを待っていたのが。


「……」


 ただ、この魔導書に感情移入し過ぎて泣いてしまった事を、メルティアが軽く引いているのは傷付いたが。


 物の試しにメルティアに俺の読み方で魔導書を読ませて見ようとしたのだが、既に自分の中である程度読み方が決まっているメルティアには俺の読み方が理解出来ないらしく、首を傾げられた。


 メルティアからしたら、どうしてそんな方法で読めるのか、そっちの方が不思議で仕方がないらしい。


 俺は読み終えた魔導書を置いて、自分に意識する。魔力を全身に流して


「オーバードライブ!」


 発動する! 一気に全ての感覚が鋭くなり、力なども上がった。これは凄い。隣の部屋の音や廊下を歩く足音。窓から見える先の出来事などが全て感知できる。五感が鋭くなっているのがわかる。


 それに力なども上がっているのがわかる。これがオーバードライブか。流石魔導書ってところか。かなり良い魔法だよ、これ。


 だけど、まだ8歳の俺には長い事使えない。理由はかなり速いスピードで魔力が消費されていくからだ。


 これだと10分は持たないな。それに、今は止まっているからこの量で済んでいるけど、これが戦闘中とかになると、もっと消費は増えるだろう。これは、訓練で消費量などを慣れていくしかないよな。


「ジーク様」


 少し怠くなった体を伸ばしたりしていると、メルティアが来た。さっきまで少し引いた視線は無くなり、いつもの視線に変わっていた。


「服飾の者が来ました」


 そして、部屋にメルティアが連れて来たのは少しぷくっとしたマダムだった。この人が今度の俺と兄上の誕生会の服を作ってくれる人か。


「初めまして、ジークレント殿下。私はエミー・リーンと申します。この度、ジークレント殿下とグルディス殿下の誕生会の服を任されました。まずは採寸をさせていただきます」


 今から1ヶ月後の誕生会のための服か。前世だと服どころか、全く祝う事もしなかったからなあ。少し楽しみだな。


 しかも、そこで兄上とセシリアの婚約も発表するようだし。さてさて、何も起きないと良いけど。


「動かないでください」


「あっ、ごめんなさい」


 怒られてしまった。


 ◇◇◇


「この度はなぜ呼ばれたので?」


 俺の前でやれやれと肩をすくめるハイネル。確かに誕生会の準備や他の事も任せているが、その姿は少し腹が立つぞ。


「……ジークの事だが、メルティアから新たな報告があった」


「ほう、前の報告から1月近く経ちますが、久し振りですね。何があったのですかな?」


「……魔導書を読み終えたそうだ」


「……ほう! それは興味深い話ですね。まさか、それほど学識があるとは」


 珍しくハイネルの顔色が変わる。ここ数年魔導書を読めた者を聞かぬからな。驚くのも不思議ではない。ただ


「それだけなら良かったのだがな。これを見て欲しい」


「これは……何かの文字でしょうか? 何が書かれているので?」


「ジークが書いた本の読み方だそうだ。メルティアに魔導書を読ませようと教えたらしい。だが、メルティアはわからずに断念したようだ」


「ふむ。これを調べればもしかすれば」


「ああ。魔導書を読める者が増えるかもしれぬ。この事は信頼に足る者だけにしか話すように。研究させる者もだ」


「ええ、心得ていますよ……それにしても、ここに来て成長するとは。嬉しい事ですな」


「ああ。このままグルディスを補佐して欲しいのだがな」


 何故か、俺の中にはあの2人は対立するような気がして仕方がなかった。

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