悪役令嬢を助けるために俺は乙女ゲームの世界を生き抜く!
6.訓練場で
「……ふわぁ、もう朝かぁ」
俺は重たい瞼を擦り体を起こす。昨日、国の事や貴族たちの事を調べた後、他の本も読みたくなった俺は、メルティアが夕食の準備をするまで書庫に入り浸ってしまった上に、読みたい本を部屋まで持って来て夜遅くまで読んでいたからな。そのせいで物凄く眠たい。
でも、ここで昔の記憶の通り二度寝するわけにはいかない。これからの目標の事を考えれば、今までサボって既に出遅れている俺が、休んでいる暇は無い。
俺は昨日のうちにメルティアに用意して貰った動きやすい格好に着替えて部屋を出る。既に侍女たちは働いているため、俺とすれ違ったりする。その際に俺を二度見してギョッとしてから頭を下げて来る。まあ、この時間帯に起きているのが珍しいからな。仕方ないけど。
そんな周りの視線をちょっと気にしながら、俺は昨日メルティアに教えてもらった兵士たちの訓練場へと向かう。訓練場は王宮に働く者なら誰でも使えるように常に開かれている。
まだ、誰もいないだろうと思い訓練場の中へと入ると、中からザンッ、ザンッと風切り音が聞こえてくる。
ゆっくりと中へと入って行くと、訓練場の真ん中で剣を振る姿が見える。その姿を見て綺麗だと思う反面、不味いとも思ってしまった。
腰まで伸びた真っ赤な髪。顔には斜めに走る大きな傷があり、身の丈ほどあり血液が脈動するように走る赤い線がある大剣を振るう女性。 
その見た目と実力から第2章の序盤から最後まで使われる事の多かった最強のNPCで、二つ名が『血濡れ狂人』。
アルフォール王国の中で最強の1人、アルフォール軍第3部隊隊長レイチェル・バートリー。この人がいるのすっかりと忘れていた。他にもNPCがいるのに、まさかこの人と最初に出会う事になるとは。
俺が気がついたって事は、当然向こうも気がついていて、さっきまで振っていた大剣を止めて俺をジッと見ていた。
「テメェは……メリセのガキじゃねえか。しかも、駄目な方の。何でこんなところにいる?」
……中々辛辣な言葉をありがとうございます。それにしてもゲーム同様王族に対する言葉遣いじゃ無いだろ、これ。普通だったら即処罰物だけど、彼女は父上と母上の命の恩人だ。
学園の行事で外に出た時にワイバーンに襲われたところを、学生の身でありながらワイバーンから父上達を身を呈して守った功績がある。あの顔の傷もその時の傷なのだとか。
そのため、母上とは親友の関係であり、言葉遣いなども公の場以外でなら父上から認められていると。全部ゲームで学んだ内容だけど。
「お、俺は鍛えようと思ってここに来た。別にあなたの邪魔をするつもりはない」
俺はそれだけ言ってレイチェルさんから視線を逸らし壁際でストレッチをしようとするのだが、気が付けば目の前にレイチェルさんが立っていた。なんて速さだ。全くわからなかった。
「へぇ、今までレイモンドやメリセの話を聞かなくて自堕落的に凄い過ごしていたあんたが自分を鍛えると? どういう心境の変化だい?」
「……別にあなたには関係ない。俺はただ目標が出来ただけだ」
俺はそれだけ言って再び離れようとすると、レイチェルさんに頭を掴まれた。そして、無理矢理レイチェルさんの方へと向かされ……いててぇっ!
「何があってやる気が出たのかは知らないけど、それなら私が鍛えてやるよ。ここであったのも何かの縁。何、遠慮する事はないよ」
レイチェルさんは俺の頭を掴んだまま歩き出す。くそっ、痛いから頭を掴んだまま歩かないで欲しい! 頭が抜ける!
訓練場の真ん中まで連れて行かれると無理矢理放られ、地面に転がる。文句を言おうと顔を上げた瞬間、目の前に木剣が突き刺さった。あ、あぶねぇ!
「ほら、手に取りな。好きに打ち込んで来るといい」
レイチェルさんは手に持っていた大剣を腕輪の中に吸い込ませて、入れ替えるように木剣を取り出した。あれは、ゲームでもお世話になった魔法袋か。高価な魔道具で、空間魔法が付与されており、容量内なら何でも仕舞う事が出来るという。
「ほら、どうした。来ないならこっちから行くぞ!」
くっ、何であんたから来るんだよ! 普通こういう時は実力を見るから打ち込んで来い。私は攻撃しないから、だろ!
勢い良く迫るレイチェルさんを見て止まらないと思った俺は、目の前にある木剣を掴み構える。構え方なんて全く知らないからただ持っているだけだけど。俺が木剣を持って構えるのを待っていたレイチェルさんは、構えた瞬間、視界から消えた。
どこに行ったのかとレイチェルさんを探していると、次の瞬間右側に衝撃が走り吹き飛ばされてしまった。視界が一瞬で上下左右と入れ替わる中、何とか態勢を立て直して止まった瞬間、目の前に影が落ちる。
そして、顔を上げようとしたその時、俺の左肩に途轍もない衝撃が走った。同時にベキベキッと折れる音も。その衝撃に再び地面に叩きつけられた俺は顔を地面へと打ち付ける。
口の中は歯にぶつかったせいで切れて、鼻も思いっきり地面にぶつけたため鼻血が流れる。だが、それ以上に左肩が痛い。今まで味わった事のない激痛に涙は止まらず泣き叫ぶ。それを冷たい目で見下ろすレイチェルさん。
「ほら、立ちな。次をやるよ」
「ど……して……こ……な……」
どうしてこんな酷い事を? と、尋ねようとしたけど、あまりの痛みに上手く呂律が回らなかった。だけど、レイチェルさんは俺が何を尋ねたのかわかったようで俺の問いに答えてくれた。
「どういうつもりであんたが訓練なんかやる気になったかは知らないけど、どうせ直ぐに辞めるんだろ? フラフラとして陛下や王妃を心配させるボンクラ。それがあんたの王宮内での評価さ。
私はこれでも2人とは学園の頃からの付き合いでね。よく相談されたよ。ちゃんと子供を育てられるのか、元気に育ってくれるのか、って。まだ、結婚もしていない私にね。それで、双子として生まれた時も嬉し泣きをしたのも知っている。
……そして、あんたが問題を起こす度にメリセが謝り裏で泣いている事も。自分の育て方が悪かったとね。
親の気持ちもわからずにフラフラとしている奴に剣なんて危なっかし過ぎて持たせられないね。だから、ここから出て行きな」
レイチェルさんが放つ殺気に俺は心臓を素手で掴まれたような感覚に陥る。このまま死んでもおかしくないと思うほどの殺気だ。
確かに今までの俺はクソだった。記憶が戻らなかったら取り返しのつかない問題を起こして殺されていただろう。
父上や母上に迷惑をかけたのはあんたなんかに言われなくてもわかっている。だから、これから変わるんだろうが。言葉にするよりも行動に移して伝えるために!
俺は剣を杖にするように立ち上がる。痛みで涙が止まらず視界がぼやけるけど、自然とレイチェルさんがいるところがわかる。
「……レイチェルさんに言われなくてもわかってるよ。俺が今までどれほど馬鹿な事をしてきたか。だから、これから行動で変わった事を父上や母上に伝える。もう途中で投げたりしない。俺の目的のためにも!」
「……あんた、その体」
気が付けば体が淡く光っていた。確か強化をしたら淡く光るんだったっけ? 無意識に体を強化しているのか。だけど、このおかげで少しは動く。
俺は再び剣を構える。左腕は上がらず右手だけだけど。痛みで視界が歪むけど、気がついたら走り出していた。
この辺りから痛みであまり覚えていない。なんだかボコボコにされた気がする。吹き飛ばされては立ち上がって向かって、吹き飛ばされては立ち上がって向かってを繰り返して。
気が付いたら涙を浮かべる母上の姿があった。
俺は重たい瞼を擦り体を起こす。昨日、国の事や貴族たちの事を調べた後、他の本も読みたくなった俺は、メルティアが夕食の準備をするまで書庫に入り浸ってしまった上に、読みたい本を部屋まで持って来て夜遅くまで読んでいたからな。そのせいで物凄く眠たい。
でも、ここで昔の記憶の通り二度寝するわけにはいかない。これからの目標の事を考えれば、今までサボって既に出遅れている俺が、休んでいる暇は無い。
俺は昨日のうちにメルティアに用意して貰った動きやすい格好に着替えて部屋を出る。既に侍女たちは働いているため、俺とすれ違ったりする。その際に俺を二度見してギョッとしてから頭を下げて来る。まあ、この時間帯に起きているのが珍しいからな。仕方ないけど。
そんな周りの視線をちょっと気にしながら、俺は昨日メルティアに教えてもらった兵士たちの訓練場へと向かう。訓練場は王宮に働く者なら誰でも使えるように常に開かれている。
まだ、誰もいないだろうと思い訓練場の中へと入ると、中からザンッ、ザンッと風切り音が聞こえてくる。
ゆっくりと中へと入って行くと、訓練場の真ん中で剣を振る姿が見える。その姿を見て綺麗だと思う反面、不味いとも思ってしまった。
腰まで伸びた真っ赤な髪。顔には斜めに走る大きな傷があり、身の丈ほどあり血液が脈動するように走る赤い線がある大剣を振るう女性。 
その見た目と実力から第2章の序盤から最後まで使われる事の多かった最強のNPCで、二つ名が『血濡れ狂人』。
アルフォール王国の中で最強の1人、アルフォール軍第3部隊隊長レイチェル・バートリー。この人がいるのすっかりと忘れていた。他にもNPCがいるのに、まさかこの人と最初に出会う事になるとは。
俺が気がついたって事は、当然向こうも気がついていて、さっきまで振っていた大剣を止めて俺をジッと見ていた。
「テメェは……メリセのガキじゃねえか。しかも、駄目な方の。何でこんなところにいる?」
……中々辛辣な言葉をありがとうございます。それにしてもゲーム同様王族に対する言葉遣いじゃ無いだろ、これ。普通だったら即処罰物だけど、彼女は父上と母上の命の恩人だ。
学園の行事で外に出た時にワイバーンに襲われたところを、学生の身でありながらワイバーンから父上達を身を呈して守った功績がある。あの顔の傷もその時の傷なのだとか。
そのため、母上とは親友の関係であり、言葉遣いなども公の場以外でなら父上から認められていると。全部ゲームで学んだ内容だけど。
「お、俺は鍛えようと思ってここに来た。別にあなたの邪魔をするつもりはない」
俺はそれだけ言ってレイチェルさんから視線を逸らし壁際でストレッチをしようとするのだが、気が付けば目の前にレイチェルさんが立っていた。なんて速さだ。全くわからなかった。
「へぇ、今までレイモンドやメリセの話を聞かなくて自堕落的に凄い過ごしていたあんたが自分を鍛えると? どういう心境の変化だい?」
「……別にあなたには関係ない。俺はただ目標が出来ただけだ」
俺はそれだけ言って再び離れようとすると、レイチェルさんに頭を掴まれた。そして、無理矢理レイチェルさんの方へと向かされ……いててぇっ!
「何があってやる気が出たのかは知らないけど、それなら私が鍛えてやるよ。ここであったのも何かの縁。何、遠慮する事はないよ」
レイチェルさんは俺の頭を掴んだまま歩き出す。くそっ、痛いから頭を掴んだまま歩かないで欲しい! 頭が抜ける!
訓練場の真ん中まで連れて行かれると無理矢理放られ、地面に転がる。文句を言おうと顔を上げた瞬間、目の前に木剣が突き刺さった。あ、あぶねぇ!
「ほら、手に取りな。好きに打ち込んで来るといい」
レイチェルさんは手に持っていた大剣を腕輪の中に吸い込ませて、入れ替えるように木剣を取り出した。あれは、ゲームでもお世話になった魔法袋か。高価な魔道具で、空間魔法が付与されており、容量内なら何でも仕舞う事が出来るという。
「ほら、どうした。来ないならこっちから行くぞ!」
くっ、何であんたから来るんだよ! 普通こういう時は実力を見るから打ち込んで来い。私は攻撃しないから、だろ!
勢い良く迫るレイチェルさんを見て止まらないと思った俺は、目の前にある木剣を掴み構える。構え方なんて全く知らないからただ持っているだけだけど。俺が木剣を持って構えるのを待っていたレイチェルさんは、構えた瞬間、視界から消えた。
どこに行ったのかとレイチェルさんを探していると、次の瞬間右側に衝撃が走り吹き飛ばされてしまった。視界が一瞬で上下左右と入れ替わる中、何とか態勢を立て直して止まった瞬間、目の前に影が落ちる。
そして、顔を上げようとしたその時、俺の左肩に途轍もない衝撃が走った。同時にベキベキッと折れる音も。その衝撃に再び地面に叩きつけられた俺は顔を地面へと打ち付ける。
口の中は歯にぶつかったせいで切れて、鼻も思いっきり地面にぶつけたため鼻血が流れる。だが、それ以上に左肩が痛い。今まで味わった事のない激痛に涙は止まらず泣き叫ぶ。それを冷たい目で見下ろすレイチェルさん。
「ほら、立ちな。次をやるよ」
「ど……して……こ……な……」
どうしてこんな酷い事を? と、尋ねようとしたけど、あまりの痛みに上手く呂律が回らなかった。だけど、レイチェルさんは俺が何を尋ねたのかわかったようで俺の問いに答えてくれた。
「どういうつもりであんたが訓練なんかやる気になったかは知らないけど、どうせ直ぐに辞めるんだろ? フラフラとして陛下や王妃を心配させるボンクラ。それがあんたの王宮内での評価さ。
私はこれでも2人とは学園の頃からの付き合いでね。よく相談されたよ。ちゃんと子供を育てられるのか、元気に育ってくれるのか、って。まだ、結婚もしていない私にね。それで、双子として生まれた時も嬉し泣きをしたのも知っている。
……そして、あんたが問題を起こす度にメリセが謝り裏で泣いている事も。自分の育て方が悪かったとね。
親の気持ちもわからずにフラフラとしている奴に剣なんて危なっかし過ぎて持たせられないね。だから、ここから出て行きな」
レイチェルさんが放つ殺気に俺は心臓を素手で掴まれたような感覚に陥る。このまま死んでもおかしくないと思うほどの殺気だ。
確かに今までの俺はクソだった。記憶が戻らなかったら取り返しのつかない問題を起こして殺されていただろう。
父上や母上に迷惑をかけたのはあんたなんかに言われなくてもわかっている。だから、これから変わるんだろうが。言葉にするよりも行動に移して伝えるために!
俺は剣を杖にするように立ち上がる。痛みで涙が止まらず視界がぼやけるけど、自然とレイチェルさんがいるところがわかる。
「……レイチェルさんに言われなくてもわかってるよ。俺が今までどれほど馬鹿な事をしてきたか。だから、これから行動で変わった事を父上や母上に伝える。もう途中で投げたりしない。俺の目的のためにも!」
「……あんた、その体」
気が付けば体が淡く光っていた。確か強化をしたら淡く光るんだったっけ? 無意識に体を強化しているのか。だけど、このおかげで少しは動く。
俺は再び剣を構える。左腕は上がらず右手だけだけど。痛みで視界が歪むけど、気がついたら走り出していた。
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