悪役令嬢を助けるために俺は乙女ゲームの世界を生き抜く!

やま

2.目を覚ました場所は

「……ここは」


 目を覚ますと全く見覚えのない天井。いつも寝起きしていた部屋の倍近く高く、とんでもなく広い部屋。体は物凄く怠く、物凄く重い。俺ってこんなに重たかったっけ?


 どうして眠っていたのか思い出していると、コンコン、と扉の叩かれる音が聞こえてくる。音のする方を見ると、扉を開けて入って来たのは、物凄く綺麗な女性だった。


 水色のボブカットで鋭い視線。睨みつけているように見えるけど、それがまた美人に見えてしまう。そしてピシッと着ている侍女服。どうして、メイドがこんなところに? と、思ってその女性を見ていると、女性も俺が見ている事に気がついたらしい。そして、部屋を出て行ってしまった。何故?


 それから、5分くらいすると、ドンッと勢い良く開けられる扉。入って来たのはえらく豪華な服を着た金髪のイケメン男性と、おっとりと垂れ目でふわふわした雰囲気のある金髪の綺麗な女性だった。そして、その女性の手を握る男の子……ん? この人たちどっかで見た事があるぞ? どこだっけ?


「目を覚ましたか、ジーク。ったく、階段から落ち……」


「ああっ! 良かったです! 本当に良かったぁ!」


 俺に話しかけてきた男性の言葉に被せて抱きついてくる女性。うむっ!? とんでもない質量のあるものに顔が挟まれる!? や、柔らかくて甘い匂いが……。


「おい、メリセ。ジークが苦しそうだからやめてあげなさい」


「はっ! ごめんなさいね、ジーク。お母さん、あまりにも嬉しくて」


 そう言い、俺の頭を優しく撫でてくれる女性。こんな大きくて柔らかい胸に顔を挟まれれば、興奮してある部分が主張しそうなのだが、そんな事はなかった。それどころか暖かくて柔らかいものに挟まれたせいか、物凄く安心してしまった。


 色々急に起きた事に混乱していると、メリセと呼ばれた女性が男の子を前に出してくる。


「ほら、グルディス。弟が目を覚ましたのだから何か言ってあげてください」


 ムスーと表情で俺を見てくる男の子……グルディス? 何処かで聞いた事のある名前……ああっ!! 思い出した!


 小さくて気が付かなかったけど、この男の子は『マジカルサーガ』の攻略対象の1人、グルディス・ヴァン・アルフォールだ! アルフォール王国の第1王子で、侯爵令嬢の婚約者だ!


 それに、金髪の男性はその父親でアルフォール王国の国王、レイモンド・ヴァン・アルフォールに、さっき俺を抱きしめた女性は王妃のメリセエーラ・ヴァン・アルフォールだ!


 ……どうして『マジカルサーガ』の登場人物が目の前に? それに、どうして俺に話しかけてくるんだ? わけもわからずに考え込んでいると


「……階段から落ちるなんて馬鹿だな」


 と、グルディスが俺にそんな事を言ってきた。こんなガキに馬鹿なんて言われてイラっとしたが、隣に立っているメリセがパシッとグルディスの頭を叩いたため、少し溜飲が下がった。


「もう、お兄ちゃんなのだから弟の心配ぐらいしてあげなさい」


 しかし、メリセの言葉に驚きが隠せなかった。彼女はグルディスに対して兄なのだから弟の心配をしろと言った。そしてさっきグルディスが悪態をついた相手は俺だ。って事は……俺が弟という事になる。もう、30歳手前の俺が7、8歳ぐらいの男の子の弟?


 もう、わけがわからない事が起き過ぎて頭の中が真っ白になりかけているところに、チラッと目に入った姿見。


 俺は誘われるかのように、さっきまで眠っていたベッドから降りる。周りの人たちは不安そうに俺を見てくるけど、俺は真っ直ぐと姿見の方へと向かう。そして、姿見に映し出された俺。


 姿見には金髪のちょっとぽっちゃりとした男の子が写っていた。そして、この姿にもほんの少しだが見覚えがあった。


 攻略対象グルディスの弟でアルフォール王国第2王子のジークレント・ヴァン・アルフォールだ。


 グルディスの双子の弟で、なんでも出来る兄と比べられて、捻くれてしまい、学園で出会ったヒロインを力づくで手に入れようとして、グルディスに倒される悲惨な男だ。


 どのルートでも出てくるが、序盤で退場になるやられ役が姿見に映った姿だった。そして、その姿を見ると同時に頭の中に駆け巡る今までの記憶。


 俺の記憶だけでなく、ジークレントとしての記憶も全て頭の中を駆け巡った。あまりの情報量の多さに、俺の脳は耐え切れず激しい頭痛が襲う。


 頭を抱えて蹲った俺に慌てて近寄るメリセ……いや、母上。レイモンド……父上の怒鳴るように侍女へと命令する声を聞きながら俺は色々と思い出した。


 今まで噛み合っていなかった記憶だったけど、ジークレントとしての記憶がしっかりと俺のものとなったおかげで全て思い出したのだ。


 俺が乙女ゲームの世界『マジカルサーガ』に転生した事を……。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品