英雄の妹、最強を目指す!

やま

36話 嫌な夢

「さあ、行きましょう!」


「わ、私頑張ります!」


「俺もリリーナちゃんに負けないように頑張りますか」


 私の前を歩く3人。私の大切な冒険者仲間。学園に入った頃からの親友のエリア。お調子者だけど、なんだかんだ言って私たちを守ってくれるデルス。まだ入って日は浅いけど、体を張ってくれるリリーナ。


 私の大切な人たちが楽しなそうに前を歩く。私も混ぜて欲しい。私も一緒に行きたい。だけど、いくら追いかけても追いかけても追いつかない。いくら手を伸ばしても、みんなは離れていくだけ。


 いくら叫んでも、聞こえてないのか待ってくれずに楽しそうに進んでいくみんな。初めから私の居場所がなかったかのように。


 待って、待ってよ、私を置いて行かないでよ! いくら叫んでもいくら走っても距離は縮まらず、走り続ける私。


 どれだけ走れば良いのだろうか。わからずにただ疲れていく心に鞭を打って走り続ける。しばらく走ると、ようやく立ち止まってくれたみんな。良かった、これで追いつける!
  
 そう思って走るのだけど、よく見るとみんなの様子がおかしい。みんなそれぞれの武器を構えていたのだ。まるで敵が現れたように。みんなの向こう側を見るとそこには人影があった。


 銀髪の髪に漆黒のドレス。目は赤色に染まり手には禍々しい大鎌を持つ女性が立っていた。口元は三日月のような笑みを浮かべ、エリアたちに向かって大鎌を振るう。


 みんなは武器で受けようとするけど、止める事が出来ずに切り裂かれる。デルスは両腕を切られて、リリーナは左肩から斜めに切られる。


 私はみんなの元に急ごうと武器を探すけど、黒賢杖は手元になく、更に周りから黒い靄のようなものが私の体を包んでいく。靄のせいで私の体はいくら動かそうとも微動だにせずに、その光景を見ている事しか出来なかった。


 最後に魔法を放っていたエリアに向かって大鎌が振られる。私は大声で逃げて! と叫ぶけど、聞こえていないエリアは逃げずに、大鎌に切られてしまった。


 体から離れて飛んでいくエリアの首を見ている事しか出来なかった。そして大鎌を持った女性は動けない私の元へとやって来る。ここまで近づけば誰かわかった。漆黒のドレスを纏った女性は……私と同じ顔をしていた。


 ◇◇◇


「はぁっ、はぁっ! ……夢?」


 汗で額に張り付く髪をかきあげながら周りを見渡す。先ほどの様な暗闇の中では無くて、見た事ないけど落ち着いた雰囲気のある部屋だった。


 ……なんて嫌な夢だったのかしら。エリアたちが傷付けられる夢なんて。しかも、それをするのが私と全く同じ顔をした人。私の生き写しみたいにそっくりだった。


 どうしてあんな夢を見たんだろう。あんなあり得ない夢を。それにここは何処なんだろう? 初めて見る場所なんだけど、なんだか懐かしい雰囲気がする。訳もわからずに辺りを見回していると、部屋の扉が開かれる。そして入って来たのは


「あら、目が覚めてたのね。良かったわ」


 にこりと微笑む綺麗な女性。赤い髪の毛をポニーテールでくくり、動き易い体にピッタリとした赤い鎧を着ていた。手にはとても美味しそうな匂いのする料理を乗せたお盆を持っていた。


 この人はお兄様の奥さんの1人で、私の腹違いの姉、エアリス・ランウォーカー。30代だというのに10代後半にしか見えない美貌で、剣術の腕前は大陸でも5指に入る程の実力を持つ自慢の姉だ。


 エアリスお姉様は私が眠っていたベッドの側にある椅子に腰掛けて、お盆を置いてくれる。


「久し振りね、クリシア。色々あった様だけど元気そうで良かったわ」


「お久しぶりです、エアリスお姉様。エアリスお姉様がいらっしゃるって事は……」


「ええ、クリシアが考えている様にここはランウォーカー王国の王都よ。ロイが気を失ったあなたをここまで連れて来たの」


 気を失った私を? ……確か、塔でゴールドモンスターを探していた時に、他の冒険者に襲われたんだっけ。なんとか対抗したけど次第に押されて、それで


「あっ! エアリスお姉様、エリアどうなったのです!? 怪我をしていたはずなのですが!?」


「その子なら大丈夫よ。治療して今は別の部屋で休んでいるわ。他の子たちも一緒よ」


 ……良かったぁ。あの変な夢を見た後だから余計に不安だったのよね。私はみんなの顔を思い出しながらホッとしていると、ぐぅぅ〜、とお腹が鳴ってしまった。


 私の顔が熱くなるのがわかる。それで、エアリスお姉様は笑うのを堪えていた。


「ふふっ、ほら食べなさい。お腹がすいてちゃ考え事も出来ないでしょう」


「……いただきます」


 少し恥ずかしい思いはしたけど、お腹がすいているのには変わりがないので、黙って食べる。黙々もぐもぐと食べる。


 しばらく食事に専念していると、扉を叩く音が聞こえて来た。また、誰か来たのだろうか? そう思いエアリスお姉様を見ると、エアリスお姉様は嬉しそうに立ち上がり扉の方へと向かっていく。この感じはまさか


「早かったじゃない、レイ。それにアス……ナも」


「ああ、少し塔のてっぺんの様子を見に行っていただけだからな」 


「私たちが見た限りは特に変わりはありませんでしたけどね」


 エアリスお姉様と話しながら入って来たのは、お兄様と、奥さんの1人のアスナさんだった。

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