英雄の妹、最強を目指す!

やま

30話 想像の遥か上

「……下層階に移動させたデュラハンがやられたか」


「はい。しかも、倒したのがレイヴェルト・ランウォーカーになります」


「ちっ、あの忌々しき男め! なんども我々の邪魔をしよって!」


「落ち着け。あの男が邪魔して来るのはわかっていた事だ。それよりも、信者たちはどうしている?」


「上手く忍び込めました。これで近づけます」


「なら良い。レイヴェルトめ。グラディエル様、バロン様の復活の邪魔はさせんぞ」


 ◇◇◇


「にゃあー!」


「うわぁっ! この!」


「……朝から元気ねぇ、子供は」


「ふふ、そうですね」


 私とエリアは庭で訓練するシロナとメルクくん。2人とも同い年なのだけど、シロナの方が動きが良いわね。だけどメルクくんも負けていない。超攻撃型のシロナの攻撃を、押されはしているけど、危なげなく捌いている。


 シロナは獣人族特性の俊敏を活かすためかなりの軽装で、ノースリーブの服に短パンだ。時折可愛らしいおへそがちらりと見える。


 それから細いけど獣のようなしなやかな足。だけど、その足から放たれる蹴りはとんでもない。木ぐらいなら簡単にへし折ってしまうほど。


 そんなシロナの猛攻を受け流すメルクくん。メルクくんの武器は刃の無い剣だ。これは模擬剣とかじゃなくて、実際にメルクくんが使う剣になる。


 相手の攻撃を防ぐのに刃は要らないそうで、攻撃する際も剣を鈍器のように使うか、魔法を付与して強化するらしい。


 猛攻するシロナにそれを全て捌くメルクくん。末恐ろしい2人を見ていると


「おっ、朝からやっているな〜」


 と、ロイさんが庭のほうまでやってきた。格好はまだ寝巻きのような格好だ。その足元にはクロンとその背で寝ているメルアちゃんの姿があった。


 メルアちゃんはまだ眠たそうに船を漕いでいるけど、クロンの毛をぎゅっと掴んで背中から落ちないようにしている。


「おはようございます、ロイさん」


「おはようさん、2人とも。後の2人はまだ寝ているのか?」


「ええ、いくら治してもらったからと言っても、大怪我を負った事にはかわりませんからね。今日は安静にしてもらっているんですよ」


「なるほどな。確かに回復魔法も万全じゃ無いからな。休む事も大切だ」


「まあ、一昨日休んだばっかりで、リリーナとデルスは行けるとか言ったんですけど、今頃部屋でミノムシのようにはいなってもらっているのですが」


 私の言葉に苦笑いするロイさん。どうやらロイさんも今日は休みらしく、私の隣に座ってシロナとメルクくんの訓練を話しながら見ている。


 あぐらをかくロイさんの足の上に、もう我慢が出来なかったのだろう、メルアちゃんがクロンの背中からもそもそと降りてきて、足の上に丸くなって寝てしまった。


 指をくわえて眠る姿は可愛い。ロイさんも優しくメルアちゃんの頭を撫でてあげて。クロンもロイさんの隣で寝そべっているし。


「にゃ!」


「うわっ!」


 おっと、こっちは終わったようね。シロナがバク転するように回転してメルクくんの剣をしたから蹴り上げた。本当に凄い身体能力よね。


 下から蹴り上げられたメルクくんは、剣を手放してしまい尻餅をつく。すぐに立とうとしたけど、既に目の前にはシロナが立っていた。


「あー、シロナ様の勝ちですね」


「やったのです! かっちましたー、勝ちましたー! 勝ちましたよ、クリシア様!」


「ええ、見てたからわかるわよ。凄いわね、シロナ。さすが獣人っていうのかしら、とんでもない動きをするのね」


「はいっ! フェリスお母様から教えてもらったのですよ!」


 あー、あの人もとんでも無いからなー。フェリスさんはお兄様の奥さんの1人で、大陸にある国の1つ、獣人国ワーベストの元王女様で、現ワーベスト国王の妹さんになる人。あの人もとても強いのよね。私も教えてもらった事があるけど、私には出来ない動きだったわ、あれ。


「うーん、シロナちゃんたちを見ていたら俺も体を動かしたくなってきた。クリシアちゃんたち、やろうか」


 シロナたちと話していると、そう言って立ち上がるロイさん。メルアちゃんは、優しく抱き上げた後にクロンの背に乗せて。クロンも慣れているのか眠っているメルアちゃんを落とさないように部屋の中へと入って行く。


「俺も兄貴ほどでは無いが、そこそこ出来ると思うから、相手にはなると思うぞ」


「いやいや、そんな事ないと思いますよ。ロイさんもお兄様には負けてないと思いますし」


 私が正直な感想を述べると、なぜか苦笑いするロイさん。私、変な事言ったかしら? お兄様もロイさんも本気で戦ったところなんて見た事が無いから詳しくは言えないけど。


「はは、それは過大評価しすぎだよ、クリシアちゃん。俺なんて兄貴の足元にも及ばないよ」


「……そんな事は無いと思いますが」


「うーん、なんて言えばいいかな。まあ、俺の実力をいうと、この世界の中でも真ん中より少し上ってぐらいかな。魔物もAクラス単体なら相手に出来るってぐらいだ」


 それだけでも十分凄いと思うのだけど、更に上がいるの?


「例えば、この前踏破された67階層に現れた魔物、デスリーパー。Sに近いAランクの魔物だが、あれが1体だけなら何とか俺も倒せるだろう。だけど、それより上の上級竜や幻獣といったSランク級になれば、まあ、勝てない」


 あの最強クランがやっとの思いで倒したデスリーパーを単独で倒せるの!? それだけでも凄いと思うのだけど、それより上のSランクかぁ。私たちには物凄く遠い話ね。


「それで、兄貴はどれほどかと言うと、Sランクの魔物に囲まれても倒すだろうな。測定不能の竜種の属性王クラスになるとわからないが」


 むむぅ……そこまで行くともう想像がつかないわね。でも、それが本当ならお兄様は想像出来ない程の強さって事?


「言葉に表すのは難しいけど、塔を登っていったら必ず出会うはずだ。目の前に現れただけで死を覚悟する相手ってのを。自分たちはそう感じる相手すら、兄貴は倒して行く。それぐらいの差だな」


 まあ、わからないかな? と、私の頭を優しく撫でてくれる。ロイさん。それから、訓練を始めた私たちは、楽しくなり過ぎて、せっかくの休みを訓練で使い切ってしまったのだった。

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