英雄の妹、最強を目指す!

やま

7話 迷宮へ

「みんな用意は出来たわね」


 ロイさんの屋敷の中の借りていた1室に集まった私たち。少し顔がにやけてしまうのも許してほしい。だって、今日から、夢だった迷宮攻略が始まるのだもの!


「ええ、用意できました!」


「僕もいつでも大丈夫だよ」


 エリア、デルスは自分の装備を確認して、そう答える。その隣でシロナも「私も、私も!」とぴょんぴょんと跳ねる姿が映る。はいはい、シロナもね。


 みんなが準備出来たのを確認してから、私たちは新しい一歩を踏み出すため、部屋の扉を開けると、扉の前に、黒い虎が鎮座していた。背中にはミルアちゃんが乗って。その後ろには、綺麗に並ぶ子虎たちも。


 一体どうしたのだろうか? と首を傾げていたら


「とちゅげき〜!」


 と、ミルアちゃんが子虎たちに指示を出す。子虎たちは、全部私に飛んできた。咄嗟の事で、反応が遅れた私は、子虎たちを受け止めきれずに、その場に背中から倒れこむ。そして、顔を舐め回す子虎たち。それはもう、ベロンベロンと。


 子虎たちを殴り飛ばす事も出来ずにされるがままになっていると


「あー! 何やってんだよミルア! 大丈夫ですか!」


 そこに1人の男の子がやって来た。男の子は、ベロンベロンと舐められる私を見て笑っているミルアちゃんに、ピシッと軽く手刀を加えて、子虎たちの首根っこを掴んで、私から離してくれる。


「すみません、クリシア様。これでお顔を」


 私にタオルを渡してくれる男の子、メルクくん。ロイさんの奥さんであるメイさんの息子だ。今年9歳だっけ。シロナと同い年ね。昨日の夜にランウォーカー王国に行っていたメイさんと帰って来たのだ。


「ありがとね、メルクくん。突然の事で驚いちゃった」


 私があはは、と笑っていると、メルクくんはぼーっと私を見て来る。どうしたのかしら? と首を傾げると、メルクくんははっとした様な表情を浮かべて、首を振る。


「お、お父様たちがお呼びですので、ついて来て頂いてもよろしいでしょうか?」


 ロイさんたちが、私たちを? どうしたのかしら?


「わかったわ。でも、メルクくん、そんな他人行儀で無くて良いのよ? お兄様とロイさん、メイさんとは兄弟の様な関係だったと聞くし。それなら私たちも家族なのだから、ね?」


「わ、わかりました。頑張ってみます」


 少し照れているのか、顔を赤くして立ち上がるメルクくん。それならミルアちゃんが乗っている黒虎クロンディーネに、ついて来る様に指示を出し、部屋を出る。


 クロンディーネも眠たそうに口を開けながら、メルクくんの後に続く。その後ろに白子虎たちが一列に並んでついて行っている。


 私たちもその後について行くと、昨日夕食を頂いた食堂へと辿り着いた。メルクくんが扉を開けて中へ入り、後ろにミルアちゃんたちが続く。


 食堂の中には既に、ロイさん、メイさん、ミクルーアさんが座っており、食後の休憩を取っていた。


「おっ、おはようクリシアちゃん、エリアちゃん、デルス、シロナちゃん。昨日はよく眠れたか?」


「おはようございます、ロイさん。昨日は今日が楽しみで、あまり良く眠れませんでした」


 私が正直に話すと、皆苦笑いで見て来る。だって仕方ないじゃない。楽しみだったんだから!


「それじゃあ、昨日話していた通り、シロナちゃんは、みんなが迷宮に入っている間は、メイかミクルーアの手伝い、メルクやミルアの相手をして貰うよ。勿論、賃金は払うから」


「はい! よろしくお願いします!」


 ロイさんの言葉にぺこりと頭を下げるシロナ。これで私の不安の1つも解消されたわ。連れて来たのは良いのだけど、まだ9歳のシロナを1人宿屋で待たせるのは不安だったもの。ロイさんの家なら危険は無いし、安心だわ。


「まあ、みんな無理だけはしないようにな。あの人たちが作った塔だけだけど、かなりの危険が伴う。自分の実力に合わない階には行かないようにな」


「はい、肝に命じておきます」


 私たちの返事に、頷くロイさん。それから、万が一私たちが逸れた時のために使う魔道具を、ロイさんはくれた。そこまで高くは無いと言っても、魔道具は魔道具。それなりに高価な物になるはず。


 私が受け取って良いのかどうか困っていると、型の古いものだから構わないと言われたので、一応借りるという形にはした。


 そして、私たちはロイさんたちやシロナと別れて屋敷から出た。目の前には既に目的の塔が見えている。ここから歩いて10分ほど。塔の入り口までは直ぐに辿り着いた。


「いよいよですね」


「ええ。今日から私たちの冒険が始まるのよ!」


 私とエリアはワクワクとした表情を隠そうともせずに、塔の中を進んで行く。塔の中は、昨日と同じように沢山の冒険者が集まっている。


 その奥には、迷宮への入り口がある。そこの受付に冒険者カードを見せる。すると、冒険者カードと一緒に銀色のカードを渡された。


 何なのか尋ねてみると、どうやら、この銀色のカードは、現在の到達階層を記載してくれるというものらしい。それを近くの転移陣にある水晶にかざすと、到達階層の中で最後の5の倍数の階に飛ぶ事が出来るみたい。


 例えば、到達階層が18階だと、転移陣で移動出来るのは15階とか。勿論、それより前の階層にも移動は出来るようね。


 まあ、まだ私たちには関係無いものだけど。だけど、この銀色のカードの数字が、日に日に変わって行くのを見るのは楽しみね。


「それじゃあ、行こうか」


「はい、そうですね。クリシア」


「ええ、行きましょ!」


 私たちは、迷宮への入り口へと足を踏み入れた。さて、迷宮はどんなところなのかしら。楽しみだわ!

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品