英雄の妹、最強を目指す!

やま

1話 白猫侍女

「ふっ! しっ! はっ!」


卒業式の翌日。


まだ、太陽が出始めたばかりの時間帯。外を歩く人影も無く、起きて仕事をしている人も少ない。私の専属の侍女もまだ目を覚まさない時間帯。


そんな中、私は何時もの鍛錬を行なっていた。お父様から頂いた武器、黒賢杖を使って。


黒賢杖は、私の故郷であるランウォーカー辺境伯領にある魔物が出てくる土地、魔の大地にいる魔物ランクがBランクにもなる木の魔物である千年大樹から取れた枝で作った杖。


魔物にはそれぞれランクがあって、1番低いランクでEランク。D、C、B、Aと続いて、1番高いのでSランクなんだけど、その中でも上から数えた方が早い魔物の素材を使っている。


これは私が学園に入学する時にお父様から頂いた大事な物。この4年間、幾度と無く私を助けてくれた相棒になる。


その黒賢杖を使って訓練をしている。振り上げ振り下ろし、払って、突いて、横8の字を描くように杖を動かして。それを延々と繰り返す。


師匠が言うには体が覚えてこそ、本番で動けるとか。まあ、それは実感した事があるから、私も毎日欠かさずにやっている。


私は何回も何回も杖を振る。お母様譲りの銀髪が汗で顔に引っ付こうとも、後ろで括っているポニーテールが揺れようとも、私は何度も何度も杖を振る。


何時間振ったかはわからない。日がある程度高くなり、ちらほらと街を歩く人が中庭から見える程は杖を振っていたみたい。そこに


「クリシアおば様、朝食の準備が出来ましたよ!」


……そんな声が聞こえてきて、私はこけそうになった。全くあの子はそう呼ばないでって言っているのに!


「もう、シロナ! 私の事をおば様って呼ばないでって言っているじゃ無い!」


「え? でもお母様がお父様の妹だからおば様だって言っていましたよ?」


……間違いじゃ無いんだけど。間違いでは無いのだけど、まだ16歳の身としては、おば様って言葉は心にくる。


私の目の前で首を傾げる少女。頭にはピョコピョコと揺れる耳が付いていて、まるで雪のように白い髪をしている。当然尻尾も白い。


この世界には、色々な種族がいる。私のような人族。彼女のように獣の特徴を持つ獣人族。魔法が得意なエルフ、手先が器用なドワーフといった、様々な種族がいる亜人族。肌が紫色といった特徴的で、好戦的な種族、魔人族など。


その中で彼女は獣人族で、私の兄と奥さんの中の猫族の女性との子供で、猫族の少女。名前はシロナ・ランウォーカー。今年9歳で私の姪で専属の侍女でもある。


シロナのお母さんとお婆さんは代々ランウォーカー家に使える侍女をしていたらしいのだけど、その姿をみたシロナが、自分もしたいと言い始め、流石に兄弟に仕えるのはおかしいので、年がまだ近くて、親戚である私のところに預けられたのだ。


因みに兄譲りと元々の獣人族と言う事で、かなり身体能力が高い。まだ負けないけど、将来はどうなるかわからない。


「クリシアおば様〜、早く朝食にしましょうよ〜」


「……そうね。シロナが私の事おば様って言うのをやめたら、朝食にしようかしら?」


「それでは早く行きましょう、クリシア様!」


目をキラキラとさせて屋敷へと戻るシロナ。全くもう、現金なんだから。でも、いつ見てもシロナは可愛わね。ふわふわの耳に腰近くまであるサラサラの髪。


抱き締めると、子供特有の体温の高さに、クリームのような甘い匂い。無意識なのか、足に尻尾を絡めて来たりと、毎晩シロナを抱き枕にしているけど、もう、シロナ無しでは寝れなくなっちゃったわ。


「クリシア様、は〜や〜く〜です!」


「すぐに行くわ」


ふふ、私があまりにも遅いから玄関の前であんなにぴょんぴょんと跳んで。もう直ぐで玄関の天井に手がつくじゃないの。


天井までは2.3メートルほど。シロナの身長は110センチほど。自分の体ほども跳ぶなんて。私は軽く戦慄を覚えながらも、屋敷に入る。


この屋敷はなんでも、私の3番目の兄で、シロナのお父さんでもあり、この国の英雄であるレイヴェルトお兄様が、私たちが住むこの国、ナノール王国の前国王陛下から賜った屋敷らしい。


1家族が住めるほどの大きさしかないけど、立地はかなり良い。市場も学園も近くて、交通の便はかなり良い。周りは貴族の家しかないから治安も良いし。


「さあクリシア様、戴きましょう!」


その屋敷の食卓へと向かうと、机の上にはザ・朝食といった料理が並べられている。ベーコンエッグにパン、サラダといった普通の料理。


ただおかしいのが、シロナの前にはご飯に焼き魚。更に味噌汁まである。どれも英雄の兄とその奥さんたちが好きなニホン食というものだ。私も偶に食べるけど、どれも美味しい。


「どうして、私とシロナの朝食は違うのかしら?」


「それは、初めは2人とも同じにしようと思ったのですが、自分の分を作ったら、めんどくさく……はっ!」


自分が何を言っているのか気が付いたシロナは、咄嗟に口を手で押さえるけど、そこまで言ってしまったら手遅れよ。私はニコニコと笑っているけど、多分目は笑っていないと思う。だって、シロナがプルプル震えてしまっているもの。


「シロナ、こしょこしょの刑ね」


「いやぁ〜、そ、それだけは、いやぁ〜……に、にゃぁ〜〜〜〜!!!」


朝からシロナを撫で回してあげたわ。体中を弄られたシロナは、ピクピクと震えるだけ。ふう、シロナ成分補充完了ね。


机に伏しているシロナを見ながら、朝食を食べていると、シロナがゆっくりと起き上がり朝食を食べ始める。因みに、罰として朝食は入れ替えている。私がニホン食で、シロナが普通の朝食だ。


別に普通の朝食も嫌いではないのだけど、流石に5日連続は嫌になってくるわ。しかも、全く違うのが作れないならともかく、普通に作られたらもう我慢が出来なくなるわ。


でも、耳を凹ませて落ち込んでいるシロナを見たら、流石に可哀想になって来たので、焼き魚だけは返してあげたわ。すると目を輝かせて魚を食べるシロナ。耳にも元気が戻っていた。全く、可愛いんだから、もう。


「それで今日のご予定は? 学園は卒業したので、あそこへ向かうのですよね?」


「ええ、来週には神島を目指すわ。だけど、今週は色々と挨拶回りや準備をしなくちゃ。必要なものは沢山あるしね。今日も街を歩いて必需品を買う予定よ。もう直ぐしたら……」


私が今日の予定を話していると、ドアノッカーが叩かれる。本当に時間通りね、私の親友は。

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