黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

272話 感謝


「久し振りじゃねえか、レディウス! っと、今は伯爵様でしたな」

「やめろよ。お前に敬語を使われると気持ちが悪い」

 俺がわざと腕をさするふりをすると、周りの死壁隊だった奴らは笑い声をあげる。ガラナも笑いながら俺の肩を叩いて来る。

「しっかし、本当に久し振りだな。最後に会ったのは、お前が親善戦から帰って来た後あたりか? あの後はお前は爵位をもらって行っちまったからな。気が付けば伯爵で……そうだ、結婚したんだろ!? おめでとう、レディウス!!」

 ……くそっ、思わず泣きそうになったじゃないか。ガラナたちを見ていると、心の底から祝ってくれているのがわかる。

「色々と悪かったな。妻たちを連れて来たりしたかったんだが、色々とあってな。今日まで来ることが出来なかった」

「別に構わねえよ。逆に伯爵になったのに俺たちへの態度が変わってない事が驚きだぜ。俺の知っている貴族様はもっといばり散らしているぜ?」

「ははっ、一緒に命を懸けて戦った仲間にそんな事するわけないだろ?」

 俺たちは肩を組みながら笑い合う。そんな風に笑いあっていると、俺の側にいる女の子にガラナが気が付いた。

「うん? どうしてレディウスの側にシルがいるんだ? バットはどうした?」

「……兄ちゃん、家に帰った」

 周りを大人たちに囲まれて少し怯えている少女、シルはガラナの問いに俯きながらも答える。ガラナはやれやれといった風にシルの手を握って歩き始める。どうやら、シルの家に連れて行ってやるようだ。俺の目的もそうだから、後を付いて行こう。

 村の人たちはまた後でな、とそれぞれの家や仕事に戻る。俺も死壁隊の奴らに手を振りガラナの後について行く。

「かなりいい村になったな」

「ああ。かなり苦労したが何とかここまで出来たよ。これも、レディウスのおかげだ」

「はぁ?」

 俺はガラナの言葉に素で返してしまう。なんで、俺のおかげなんだよ? ここまでやったのは自分の実力だろうが?

 俺が不思議そうな顔をしているのが可笑しいのか、俺の顔を見るなり笑いますガラナ。殴ってやろうか?

「不思議そうな顔をしやがって。お前のおかげなのは当たり前だろ? お前がこの死壁隊に来なければ、俺たちは訓練をする事もなく、ただ、兵士たちの壁として最前線に出されて死んでいた。
 お前が先陣を切ってくれたおかげで、敵は怯んで俺たちは余裕を持つ事も出来た。俺たちが今ここにいて幸せに生きられるのは、お前のおかげなんだよ」

 前を向きながらそんな事を言うガラナ。こいつは本当に。今日はどうしたんだ一体。こいつにこんなに褒められたことなんてないぞ? ……まさか

「お前、ガラナの皮を被った偽物だな! ガラナが俺の事をこんなに褒めるわけがない!」

「馬鹿野郎! 本人に決まっているだろうが! ったく、慣れねえ事をするもんじゃねえな」

 俺の言葉に振り返るガラナ。まあ、お前が偽物なんて思ってないよ。ただ単に恥ずかしくて照れ隠しに冗談を言っただけだ。

「あっ、兄ちゃん」

 ガラナと話をしていると、シルが指を指す。シルが指差した方を見ると、そこには家がありその前に座るバットがいた。

 家の前で座りしょんぼりとしながら、生えている雑草を引き抜いては投げ、引き抜いては投げを繰り返していた。

「おい、バット! 妹置いて帰るんじゃねえよ」

「げっ、ガラナのおっちゃん。べ、別に置いたわけじゃねえし!」

「この子残して帰ったんだから、置いたのと一緒だ馬鹿者」

 そう言いながらガラナはバットの頭に拳骨を落とす。結構痛かったのか、バットは両手で拳骨を落とされた場所を押さえて蹲る。その頭をシルが優しく撫でていた。

「入るぜ」

 その2人を中に入れるためか、ガラナは扉を開けて中へと入る。バットたちもガラナの後に続く。俺も入っていいのかどうか迷ったが、まあ良いかと思いバットたちに続いて家に入った。

 家はごく普通の家で、奥にはベッドがあり側にガラナが立っている。その横にバットたちも行きバットに眠る人物を見ていた。

「調子はどうだ?」

「……村長か。まあまあってところだな」

 ベットに眠る男性はそう言いながら笑い体を起こそうとするが、それをガラナが止める。起き上がるのも辛そうな姿を見れば誰でも止めるだろう。

 それに、明らかに体調が悪いのが目に見えている。顔は痩せこけ、眠れないのか目にクマが出来ていた。手もかなり細くなっており、長い間寝たきりなのがわかる。

「おっと、客人か? 悪いな、こんな姿で……って、もしかしてバットが言っていた剣を習いたいって」

「……あー、俺かもしれないな」

 男性はガラナの後ろに立つ俺に気が付いて尋ねてきた。まあ、教えるつもりはないが、バットに頼まれた事には違いないので肯定しておく。

「そうか。俺のガキが無理を言ってすまねえ。こいつ、村の奴らが話す剣士に憧れてよぉ。剣を習いたいって言うんだが、村の奴らは剣を習ったことがある奴はいねえし、こんなナリだ。道場に通わせる金を稼ぐ事も出来なくてな。迷惑かけて悪い……ゲホォッ、ゲホォッ!!」

「安静にしていろ。バットたちは預かっておくから。飯も後で持ってくる」

「……すまねえ、村長」

 俺たちは男性の病状が悪化しないうちに家を出る。父親の状態を見て暗くなるバットたち。そんな2人を見ていられなくて俺は……

「剣を振るか?」

 思わず言ってしまったのだった。

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コメント

  • ノベルバユーザー385074

    続きがとても気になる

    1
  • akebono

    ウィリアムさっさと殺ってくれー

    1
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