黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

270話 それぞれの休暇


「うん? 休暇が欲しい?」

「はい。少し行きたいところがありまして。申し訳ございません」

 そう言い頭を下げるロナ。……あっ、俺王都にいる間はゆっくりするようにって伝えてなかったっけ。兵士には伝えた覚えがあるのだが……ロナには伝えてなかった。

「あー、その、悪かった、ロナ。実は王都にいる間は皆休みにしようと思っていてな。その事をロナに伝えていなかったよ。ごめんな」

「あっ、い、いえ、大丈夫ですよ、レディウス様。全然問題ありませんから!」

 俺が謝ると、両手をワタワタと振って戸惑うロナ。いやいや、怒っていいんだぞ? 私にも予定があるのですからちゃんと言っておいて下さい! って。

「王都には1週間はいる予定だから、その間は休みにするよ。ただ、明日はオスティーン伯爵からの招待があると思うから、明日の夜は空けといて欲しい」

「わかりました。ありがとうございます」

 ロナは俺に頭を下げてから部屋を出て行った。ロナが休暇か。そういえば、自分から休みが欲しいなんていうの初めてだったな。今までは俺に合わせてや、俺やグリムドが言わなければ、休まなかった。

 ……それに、ヘレネーやヴィクトリアに構うばかりで、ロナと2人っきりで何かをしたりする事は思えばなかったな。

 クルトがいた時は3人で、親善戦から帰って来ればヘレネーが来てくれて、同時にヴィクトリアとも婚約をし、そのまま結婚した。

 その間は領地の事にかかりっきりで、落ち着いたと思えば、ブリタリスとの戦争があり、終わればヘレネーたちの出産。

 その後は新たな領地に行き、俺は行方不明になり、この前の死竜討伐になり、今に至る。

 中々忙しい俺に、ロナは何も言わずに付いてきてくれたというのに、俺は彼女に何もしてやれてないなぁ。今更ながら自分の馬鹿さ加減に腹が立つ。

「王都にいる間になんとかしないとな」

 ロナは大切な家族だ。ヘレネーたちと同じぐらい。今まで忙しさにかまけてなあなあにしてきたが、これからの人生を共に歩んで欲しいと思うほどに。

「ここで色々と考えても仕方がないな。取り敢えず、今日の夜ロナが帰って来たら誘うとして、今日は元々の目的を果たそう」

 俺は1人で呟きながら、机に立てかけていたシュバルツと、陛下より賜った魔剣イデアを腰に挿す。久し振りに二振りの剣が腰にある感覚と、レイディアントの時以上の重さに、若干の戸惑いがありながらも、俺は屋敷を出る。

 屋敷専属の侍女が馬車を用意しますと言ってくれたが、街を歩くだけだし、王都の外に出るが近くだ。態々面倒をかける必要が無いので断った。

 本当は兵士たちと同じように侍女たちも休みにしてあげたかったが、屋敷に滞在している侍女たちは、俺たちがいるのに休むわけにはいかないと固辞した。

 まあ、俺たちがいつ来てもいいように、屋敷を維持管理するのと、俺たちの世話をするためにいるから、休むわけにもいかないんだよな。

 だから、俺たちがいる間は休めないので、少し給金を上げる事にした。それで許して欲しい。

 久し振りの王都の街並みを眺めながら、俺は王都を出る。向かう先は王都の外にある村だからな。元気にしているかな、あいつら。

 ◇◇◇

「……はぁ、レディウス様にあんな態度をとってしまうなんて」

 私は先ほどの事を思い出しながら、王都の街中を歩いていた。あの日から意気消沈してしまっている私に、色々とレディウス様は気にかけてくれるのだけど、その分申し訳なくなってしまい、前のように話せなくなってしまった。全然レディウス様は悪く無いのに、謝らせてしまったし。

 帰ったら、しっかりと謝らないと。この前の事も早く吹っ切れないと、レディウス様にご迷惑をおかけしてしまう。

 少し暗い気持ちになりながらも、私は昨日馬車から見えたところに向かっていた。中心から少し外れた裏道に続く道。昨日、王城からの帰りに馬車がその道を通った際に、そこである人物を見かけた。

 私はその人を探すために、レディウス様にお休みをもらってやって来たのだ。もう2度と会えないと思っていた人物。だいぶ昔の記憶にはなるけど、薄っすらと覚えていた顔。

 表から外れて少しくらい裏道。昨日はこの奥に私の探している人が向かって行ったのを見た。今日もいるかはわからないけど、これしか手掛かりがない。

 私は少し緊張しながら裏道へと進む。場所は違うけど、昔クルトやセシルと過ごした裏道に雰囲気が似ているため、あの時の記憶が蘇る。生きるのに必死だったあの時の記憶が。

 何度か深呼吸をして裏道を進む。この先にいるのかしら……お父さんは。

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